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トイレの何か
イラスト
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「はーなこさん、あーそびーましょー」
今日も聞こえる声。あの噂を一番最初に、全国に広めた奴は誰なんだろうか。
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気づけば私はトイレにいた。西の3階のトイレ。縦に14個並んだうちの3番目が私だった。
無機物に心は宿らない。それが理のはずなのに、私には感情が、心が宿っていた。子供たちが話すことだけを頼りに情報収集をして、それなりに楽しんでいた。
「リフォームして綺麗になったね!」「これで臭いもマシだ」
この学校は|夢の香《ゆめのか》小学校。全くメルヘンな名前だなと心の中で苦笑した。なのにこの学校は中々昔に建てられたもので、ガタが来ていたのをリフォームしたらしい。リフォームして来たメンバーの1人が私だった。一応女子トイレに来ていたので、性別は女子だと勝手に決めつけた。タイルに性別もへったくれもないだろうが。
そして、色々と知った。
夢の香小学校の由来は、地名ではない。ここの地名はもっと普通の名前だ。第1代校長が夢を見たとき、仄かに、微かに甘い香りを嗅いだらしい。そういう安直な理由で『夢の香』だそうだ。本当に適当なネーミングセンス。
だがその後が厄介で、その香りは後に霊が宿る香りだ、という噂が広まった。霊が宿る。霊がいる。そんな噂でもちきりになり、次第に言霊と呼ばれるモノがどんどん周りの霊を引き寄せていった。言霊とは、言葉がもつ侮れない力のことだ。引き寄せられた霊は数しれず。たくさんの霊が住み着き、こうして七不思議が絶えないところとなっている。
___なら、私に心が宿ったのもコトダマ、とやらのせいだろ。
そう思いつつ、私は今日も子供たちを見守った。
___そんな噂、今も信じる人がいるわけないのに。
「はーなこさん、あーそびーましょー」
___は?
そうぼんやりと考えていたとき、子供たちの声が聞こえてきた。
ちょっとお喋りをするぐらいじゃない、まとまった声。ちょっと喋りかけるぐらいじゃない、大きな声。
花子さん。
確か、西の3階のトイレの、端から3番目のトイレに住み着いている…幽霊?妖怪?だったっけ。そこらへんは曖昧だ。
第一、今になって花子さんを信じる人もいるのか。しかも、おそらく5年生で。こっくりさん?もそうだろうが。
〝はーあーい?〟
声を出せるんだったら、「ひっ」とか、「うわっ」とか言っていたと思う。ただでさえ冷房も暖房も効かないこの場所が、一気に冷えた気がした。そこにいる女子3人は驚きのあまり目をつむっていた。私は目をつむることはできず、このときだけ人間を羨ましく思った。
明らかに、人間の声じゃない。形容し難い。この3人の声じゃない。聞いたことがない。
その途端、トイレのどこからか、何か半透明の灰色っぽい何かが飛び出した。ぎゅいん、と真ん中にいるおさげの女子に向かって突き進み、そのまま女子の体に潜り込む。それにつられて、女子の体から、白い何かがぎゅるん、と奇妙に出て、ふわん、ふわん、と迷ったように動き、トイレに潜んだ。
___なんなんだよ、あれ。
みんなが怯えている間、おさげの子は
「もう大丈夫だと思う」
と言った。確かに、普通の声だった。だけど、ちょっとだけ、アイツの声が混じっている。気のせいだとは思った。
三つ編みの子と、ロングの子は、びくびくしながら目を恐る恐る開けた。良かったね、良かった良かった、と和気あいあいしていた。
あの子はどうなっちゃったんだろ。あの白い何か。白い何かはどうなったのか、それだけ知りたかった。
花子さんなのか、それとも別の何か?
また、花子さんを呼んでくれないだろうか。
声も出せない、身動きも取れない、何も伝えられないタイルの私に代わって。
作品のテーマ:トイレの花子さんという噂
作品の拘り :今までにない感じの目線で書いてみました。
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(イラスト)
作品のURL :まえがき
作品のテーマ:冬+読書
作品の名前 :冬の読書
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