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インフェルノ【dawn ride】
しばらくして加羅が邸を出ていった。
彼は銃などといった物をあまり使わずに、自身の拳やら身体やらを使ってなぶり殺す方が性に合ってるらしい。
日頃から捨て身で敵陣まで突っ込んでいくから、腕の立つ敵と当たればやれ「肋骨イったわ」だの「腕折れたかも」だの、打撲痕や切り傷だらけ。そんな風に負傷して帰ってくる。
次の日は高熱を出して寝込むのだ。
その看病をするのは大体、周や寺。
瑠衣は加羅に代わってそこら辺を片付けに行ってるものだから。
今回も、派手な武器なんていらねぇよ、と彼は言ったが万が一の事があると迷惑なのはこっちだ。
しかも残っているのは女子組二人。
加羅と瑠衣、二人を向こうまでわざわざ回収しにいかなければいけないのだ。
彼のお気に入りの銃を腰裏に、無線の小型通信機器を襟の裏側に忍ばせておいた。
きっと使わないだろうが。
「まぁ、重症で帰ってきても今度こそは看病してやらないけど」
そうブツブツと呟く周。
その手には救急箱や数々の治療薬などを握っている。
加羅が好きなカステラも用意しといてやるか。
瑠衣の好きなプリンにするか。
はたまた両方用意しておくか。
寺といつ買いに行こうか。
そんな事を考えていた。
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空は暗く染まっていた。
先程まで辺りを照らしていた太陽の光は、ちかちかと今にも消えそうな頼りない電灯の灯りに変わっていた。
脳裏に浮かぶのはひたすらに瑠衣の顔。
電話を掛けてきたあの男の声が蘇る度に虫唾が走る。
風の流れる方へ身をまかすようにただただ脚を早める。
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「ここか、」
10分ほど走った場所。
相手の本拠地____瑠衣が拉致されている場所の目星は大体ついていた。
携帯に残った相手のIDの痕跡から、周に発信場所の特定を頼むとすぐに結果が出た。
廃工場。
「へぇ……Southってこんな汚ねえ場所が好みなんだ」
「趣味悪っ」
閉じ掛けのシャッターの前でそう吐くと中から物音が聞こえた。
ビンゴかな。
楔が打ち込まれているシャッターを半ば強引に押し上げると、鈍い音がして楔が外れた。
中にはもう一つ大きな扉があった。
「扉何個も付けんだったらもう岩盤にしろよw」
頑丈そうな、けれども幾つか細かなヒビが入った、重い扉だった。
罠の可能性もあるため、少し距離をとり利き腕とは反対の腕でドアノブを引く。
途端______
爆発音と共にガラスの破片や小さな瓦礫が降ってきた。
「おっと……、」
突然の事驚きながら側にあった棚の横へ移動する。
壊れて中にひしゃげた扉を蹴り飛ばす。
一階は特に何も見当たらない。
爆発はただ加羅のような侵入者をビビらす為のちょっとした仕掛けだったのだろう。
上を見上げる。
瞬間、刃渡り15㎝程の小刀が頬を掠った。
つぅっ、と紅い水が頬をつたる。
「まさか、本当に一人で来るとは。」
加羅が後ろを振り返るより先に、ごっ、という鈍い音が響いた。