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17.
[美音視点]
あと3回分の魔力、これをどう使うか。
僕が考えないといけないのは、それ。
「『中級闇魔法 |深闇《ディープ ナイト》』」
僕の魔法を使えば、すぐに消せる。
でも、魔力は少ない。まだ使うべきじゃない。
「そんなに慎重でいいのか?『中級闇魔法 |深闇《ディープ ナイト》 常』」
闇が僕達を喰らいに迫ってくる。
ここで、魔法を使うしかない・・・・・!
「『上級植物魔法 守りの籠』」
声が響く。その声の主は僕ではない。美和さんでもない。
「お二方、助っ人に来ましたよ!」
シャルムさんの登場だ。
「『魔剣、追え』」
「この程度、すべて闇が喰らう。『上級闇魔法 |黒影連舞《こくえいれんぶ》』」
再び、視界が闇に包まれる。でも、シャルムさんはこの程度じゃ止まらない。
「『魔剣、下がって』」
そこで、僕は一つの疑問に行き着く。
「シャルムさん! 美咲は!?」
「相手の援軍を相手してもらってます!」
あのときのポータルから、援軍が来てたのか・・・!
「シャルムさん! 美和さんに支援お願いします!
『上級光魔法 聖なる光の加護』『上級聖魔法 光という名の免罪符』」
僕のありったけの光をここに込める!
少しずつ、ほんの少しずつだが、光は強まる。
美音の思いに応えるかのように、闇を呑み込む。
すべては、彼女の技を届かせるために。
「『究極支援魔法 攻撃は最大の防御』」
相手の防御を最大まで落として、味方の攻撃力を底上げする技。
この支援を受け、美和は立ち上がる。
「我の力、ここで解放する。『神降 新光の断行』」
あたりが、目が開けられないほどの光に包まれる。
その光が美和に手に収まったとき。
それは解放される。
「我が主、力をお借りします。『神力解放』」
美和の手から光があふれる。
そして、すべてを包む。敵も味方も、すべてを。
壊す。
ドカァァァァァァァァァァァァン
「ゲホッ 僕の結界でもギリギリなんて・・・・。」
「でも、これなら倒せたんじゃないですか・・・?」
「我のこの技でもだめなら・・・・。」
そのときだった。
「『上級闇魔法 |深闇《ディープナイト》に包まれたのは』」
闇があたりを覆う。それは、敵が生きていたことを意味する。
「僕・・・・。もう魔力が残ってないですよ・・・!」
「私もです・・・・。」
「我も、妖力が尽きた・・・・。」
そこで、敵である彼女は高らかにこう言った。
「ゲホッ 残念だったな・・・。私にはまだ魔力が残っている・・・・!」
あんな高火力の技をくらったのに、なんで生きてるんだ・・・。
「私の闇はすべてを喰らう、知らなかったか?」
まさか、闇にあの爆発を吸収させたってこと・・・!?
いわゆるブラックホールで、別次元に飛ばしたんだ。
そして僕達はたった今、魔力が尽きた。ヘトヘトの状態だ。
__「詰みだ・・・・・。」__
「・・・っ、魔剣も動かせないなんて・・・。」
「・・・・・もう、我の人生も終わるのか。|我が主人《月の神》、助けてくれっ・・・・」
全員が戦意喪失、敗北はもう目の前。
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[???視点]
そのまま敗北になるとでも思いましたか?
それか、美咲さんが助けに来ると思いましたか?
残念、どちらも不正解。
正解は、彼らに正体を明かさないまま助ける。
彼らが、というかは美和が消えると困るんですよ。
―――あぁ、私の正体が知りたいですか?
美和の上司、そして主人。
月の神として、人間に救済を与える仕事をしています。
あの忌々しい魔族を助けることになるのは、腹立たしいですが。
従者を助けるためなら、仕方がありません。
いずれ、あの魔族は消えることになるのですから。
私の手によって、跡形もなく。
・・・人間の味方である私が、魔族を救うなんて。
本当に―――、皮肉なものですね。
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[美咲視点]
全員が絶望にのまれた中、美咲はポータル付近で苦戦していた。
ポータルから次々と雑魚が寄ってくる・・・。
正直、数が多いだけで強くはない。
でも、群がってくるのは腹が立つ。
はやく助っ人にいかないと・・・・!
そのときだった。私の視界が白一色に染まったのは。
その色の正体は、光だった。突然の出来事に、私の心は恐怖に染まる。
次の瞬間、地面が揺れる。
「なんだなんだ!?」
「みんな! 魔界に帰るぞ! 俺らにはどうしようもない。」
私は、何かを察したのか咄嗟にかがむ。
轟々と音がなり、地面が崩れる。
誰かの悲鳴が、爆発の中に消える。
とても大きい、本当に大きい爆発だった。
誰が起こしたかも、みんなが無事かもわからない。
誰かの笑い声が聞こえる。
何かを嘲笑うかのような声に、私は寒気を覚えた。
今、私の周りには誰もいない。ポータルの向こうへと帰っていったから。
そして、私を縛るものはない。
それなのに、足が動かないのはどうして。
そこまで考えた私の頭にひとつの単語がよぎる。
きっと、それは―――
恐怖。
そのことに気づいた途端、自責の念に駆られる。
助けられるのは、私だけなのに動けなくてどうするんだ。
__「動いてよっ・・・!私の体・・・。」__
その願いが通じたのかもしれない。
声の方向に大きな光が見えた。
太陽よりも落ち着いていて、だけど力強い、これはまるで―――。
「月の光・・・・。」
そんなことを考えていると。
私の視界の端から、何かが飛んできた。
「私は死ぬわけにはいかない・・・、魔王様のためにも・・・!」
先程の笑いと、声が似ている。
だけど、その声からにじみ出ている焦りは先程までなかったものだ。
「まさか・・・・、神が手を出してくるなんて・・・・!」
神・・・。さっきの光は神の仕業ってこと?
その後、女は光によって朽ちていった。
「みんなが無事か確認しなきゃ・・・!」
気になることは山積みだけど、今は安全確認を優先しよう。
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その後、私は全員の無事を確認した。
「本当に良かったぁ・・・・。」
「・・・あの光って、美咲のおかげじゃなかったの?」
美音から疑問の声があがる。他の2人も、不思議そうにこちらを見ている。
「実は―――」
私は、女が話していたことを伝えた。
「神がどうして・・・・。」
「何の神様なんでしょう・・・・・。」
美音やシャルムはそう言ったし、私もそう思った。
そんな中、美和さんだけが呆然と遠くを見つめていた。
__「やっぱり来てくれたんですね。」__
その美和さんのつぶやきは、私の耳には届いていなかった。