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水ダウ視聴記
感想的な何か。騙された二人のエピソードを織り交ぜ。
https://tver.jp/episodes/epsq8475sf
「『この前こんなドッキリをかけられた』と先輩から聞いた数日後、自分にも全く同じシチュエーションが降りかかったらだいぶ撮れ高意識した立ち回りしちゃう説」
水曜日のダウンタウンを見た。
長ったらしい説を聞いて、何を言ってるのかよく分かんねえな、と思いながら、ワクワクしていた。
視聴した。まず最初に、仕掛け人扮する先輩芸人が、後輩芸人を呼んで飲み会の席を設けた。よくある居酒屋の個室にてビールジョッキで乾杯をして、一気飲み。
「あれ、お前結婚してんだっけ」
「はい、してます。新婚っす」
その後先輩芸人から酒の肴にと語りかける。
「この前さ、俺すごい失敗しちゃってさ。YouTubeの企画で呼ばれて、それがドッキリだったのよ」
後輩芸人は、ビールジョッキを口に傾けながら、先輩芸人の失敗話に耳を傾ける。
「何があったんすか」
「海外版のドッキリらしいんだよ。Netflixとか、配信の。日本代表的な何かだったんだよ」
「えっ、知らない間に予選に組み込まれたってこと?」
「そう、何か世界大会に巻き込まれた」
「世界大会のドッキリ?」
聞くと、YouTube企画のほうはブラフのようなものだった。企画後にてタクシーが来るのを待っていると、何やらよく知らない若手芸人が楽屋に入ってきて、「お金貸してください」と頼み込んできたらしい。
「面識ゼロよ、こっち。それに俺の楽屋でだよ? でも、『どうしてもどうしても』って土下座とか真剣にしだして。お金に困ってるんです、借金が……今日の交通費すらなくて……とかなんとか言ってきて。で、俺3000円渡してさ」
「少なっ」
「いやでも、知らねえ奴っすもんね? 返してくれるかわからねえもの」
「何ていう奴っすか」仕掛け人の仲間が質問した。
「なんだっけな。『コミックマーケット』とか。よく分かんねーけどよ」
この辺りは先輩芸人のアドリブだった。そこまで切れが良くないのはお酒のせい、ということにしておこう。
「それで」と後輩芸人は急かした。
「それで帰りタクシーに乗ろうとしたらカメラが寄ってきて、で」
「あーなるほど。『ネタバラシ』と」
「そう。それで、そのよく分かんねー奴に渡した金を競ってるんだよ。その金が『ギャラ』なのよ、俺の」
「あー!」
「海外のドッキリだからか、規模が違うね。倍で返ってくるんだって! 例えば100万貸してたら、200万で返ってくるんだって」
「うわっ、スゲー!」
この話が本当ならば、すごい儲け話である。
そんな感じで後輩芸人に「撒き餌」をした一週間後、同様のシチュエーションをお見舞いするのだ。
番組では、「なお、追加検証として『欲を出して大金を渡したが最後、ネタバラシをしない』」とあった。これはえぐいドッキリ企画にしたな。
字幕では、「先輩の話とは全く無関係の、『ただのよく似た状況だっただけ』ドッキリも検証することに」と書いていった。
「たまたまね」
「ドッキリじゃなかったパターンね」
とパネラーは擁護していた。まあ、ドッキリっていうことにしないと詐欺だよな、と僕は思った。
ドッキリを仕掛けられる後輩芸人は二人いて、一方は210万、もう一人はなんと、500万円を貸し出した。とあるお笑いコンテストの準決勝まで上り詰めた人が出す500万は、重みが違う。
その後、タクシーに乗り込む場面にて、先輩芸人の話では外国人のディレクターがやってきて「ネタバラシ」、となるのだが、『ただのよく似た状況だっただけ』のため、当然ネタバラシはなし。
それを知らない後輩芸人は、牛歩のごとくゆっくりと歩く。エントランス前に路上駐車しているタクシーまで、四メートルもない距離なのに。
近くには確かに外国人二人が歩道の金属柵にもたれかかりつつ談笑している。黒のサングラスをかけた男性と、金髪のウェーブかかった長髪の女性。どちらもスーツ姿。収録にいた外国人だ。
しかし、交渉はない。それだけだ。
「どうぞー」
タクシー運転手は後部座席のドアを開けたままとなっている。芸人は乗り込むことを躊躇っている。後部座席に乗ることにした。そのまま待った。しかし、いくら待っても待ち望むものはない。顔が引きつり始めた。目が泳ぐ。
「え、あの、ちょっと待ってもらってもいいですか?」
「え、はい」
運転手にそう告げ、何か進展が来ないかとタクシーの中で待つ。しかし、待てど暮らせど、聞こえるのは車のハザード音のみ。
「じゃあ、そろそろいいですか」
とドライバーが声をかけられ、後ろ髪をひかれながら、そのまま次の現場に向かう。打ち合わせ中も上の空で、マネージャーに電話して確認しても期待していた返答はない。マネージャーは、貸した相手の連絡先すら交換していなかった。早くも四方八方塞がり。そのまま家に帰ってしまう。
家には嫁が待っている。新婚の嫁である。
そこで、「ああ」と視聴者の僕は察知した。冒頭で先輩芸人が新婚か否かを確認したのは、これが布石なのだろう。
遅かれ速かれ、相談することなく貸したことを話さなくてはならない。もちろん、奥さんはドッキリスタッフによって全容を把握済みだが、事前相談なく大金を渡した芸人をリアルに説教する。
「どういうこと? ちゃんと最初から説明して」
「500貸した」
「何が?」
「えっ」
「何が500貸した?」
「500万貸した」
「誰に?」
「後輩に」
奥さんは当たりが強くなり、詰問口調になっていく。
「なんで貸した」
「……困ってたから」
「誰? 後輩って」
「えっと、『コミックマーケット』の……」
奥さんの怒りを鎮めるため、後輩芸人は、「これは恐らくドッキリである」と説明した。一週間前、先輩芸人の飲みに誘われた際、よく似たシチュエーションを話していて、それと同じだ。ドッキリであるはずだ、と。
だが、それでは嫁は引き下がれない。
「『ドッキリでした』って言われたの?」
「いや……」
「じゃあ、ドッキリ違うじゃん。ドッキリって普通、すぐバラされるでしょ」
「……」
「本当にいるん? 『コミックマーケット』。検索しても出てこないけど」
「え、いないってことある?」
「調べてみろや」
芸人自体もここで気づき、曇行が怪しいことに焦り始める。
「えっ、電話番号聞いてんでしょ」
「うん。めっちゃ怖くなってきた……」
電話を掛ける。耳に当てる。
『……おかけになった電話番号は現在使われておりません……』
「ええ……」
その後、嫁は先にベッドに入るも、騙された芸人は不安でなかなか眠れない。電気の灯る、消せないリビング。黒色のスエット姿で立ち尽くす芸人。
深夜3時。ようやく就寝。アレクサに「5時15分に起こして」と命令するも、隣で眠る妻は「もう言ったから」とそっけない。
暗闇の寝室でも、妻からの鬼説教は止まらない。
「結婚指輪とかさ、新婚旅行とか行くって決めてたお金なのに、なんで相談しないでバンってお金貸せるの、なあ?」
「まあ確かにそれは……ちょっと俺も」
「家賃とか、水道代とか、生活費のほとんどを人に貸して、あんた責任とれるか、ええ?」
「……」
それから2時間後に起床。眠れないまま仕事場に向かう前に、玄関前にてネタバラシ。
玄関前にスタンバっていたカメラスタッフに、びっくりするも安堵を見せる。
スタッフが大金の入った封筒を見せると、すぐに取り返した。封筒をくしゃりとひび割れるような握力の見せ方。
「魂ですよこれ……」
スタッフは話した。
「だから、ある種この説は、〇〇さん(芸人名)を通して、詐欺をしてくる人は友達のふりをして近づいてくるという啓蒙活動なんですって」
「いや、だからね。僕お金借りるときに、銀行の窓口で『もしかして振り込め詐欺とかじゃないですよね?』って笑顔で言われて。『いやまさか、そんなわけないですよ』って言って。『あっでしたら』みたいなことをやったんですけど――」
「ということで、『そのまさかが命取り』」
と、番組は締めくくった。