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立ち向かう勇気
立ち上がると、村の子供たちが俺……いや、ヘレンに話しかけてきた。
「ヘレンちゃ~ん!おはよ~!」
「今日は遊べる?」
一瞬返答に迷ったが、一応ヘレン“のふり”をしておくことにした。
「ごめん、今日は行かないといけないの」
「え……いいの?」
その言葉がどのような意味なのか俺には分かりかねた。きっとヘレンだったら理解できたんだろうが、今の俺には関係などなかった。
俺はこくりと頷き、村を出ようとした。
そしたら、思いもよらぬことが起こってしまったのだ。
「何をしている?」
男に鉢合わせた。高そうな服を着た大柄な男で、腕っぷしだけならば前世の俺でも負けるのではないかと思った。
ヘレンの記憶を探った。
……こいつ、父親だ。確か……ヘレンを村どころか、家からも出ないように閉じ込めていた野郎だ。
ヘレンは、逃げ足が速かった。でも、さすがに子供対大人では負けてしまう。逃げたが、無理くり二の腕が折れるような力で引っ張られた。
「やめろ‼離せっ‼」
俺は、今、野望とも言っていいような願いを持っている。それを叶えるには、村を出ることが最低限の目標なのだ。
目の隅に、俺を見つめる子供たちが映った。
「なぜ家を出た」
父親は問い詰めた。
俺は答えなかった。
今思えば、こいつ、高そうな革の服やら宝石やら身に着けてやがる。そこそこの儲けなはずだ。でも1人分の生活費とほんの少ししか渡してこないなら、経済的に母娘を虐待してるってことになるだろう。その金を独り占めする母親も母親だ。記憶にある母親の暴力は、殺意が垣間見えていた。結局、すべての負担をまだ幼い娘に負わせてる。こいつら、極限まで屑だ。
「答えろ!ヘレン‼」
鬼のような形相で俺に怒鳴った。
こうなったら、もう――強行突破だ。
素早く立ち上がり、家を走って飛び出した。
「ヘレン‼待て‼」
案の定、父親が追いかけて来る。
俺は家の路地裏や、畑の込み合った地帯を狙って走った。大柄な大人だったら、通るのに時間がかかる。しかし俺は今や8歳の少女だ。そういうところもすいすい通り抜けることができる。
大分撒けた。あとは村のゲートから出るだけ……。
予想を裏切られた。父親は、俺を追うのをあきらめて、待ち伏せしていたのだ。
「もう逃げられないぞ。さあ戻るんだ」
1歩、また1歩近づいてくる。
もう駄目だ――。
「こども兵士隊、いけー‼」
少年の声がした。と、村中の子供たちが現れ、木の枝やら石やらで父親を攻撃しだした。
「わぁぁぁぁっ‼」
「おりゃっ!」
「や……やめろ!離せ‼」
1人では敵わなかった大柄な男に、1人1人はひ弱だが数の暴力で立ち向かう子供たち。14、5歳の女もいれば、まだ3歳の暴れん坊もいて、それでもなんとか互角といったところだ。
「ヘレン!早く行け!俺たちの勇気を無駄にするんじゃねぇよ!」
リーダーらしき少年が叫んだ。
それに応答するように、父親に今更家を出た理由を言うように、俺は叫んだ。
**「ありがとう!俺は、絶対に姫を助けて、生きて帰る‼」**
そして、無我夢中で走った。
終わり方が分からない女。本当はもっと後で区切りたかった、でもそしたら書きすぎるんですよ。