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アイ
SFだと信じたい。
今日も変わらず私は歩き続ける。
私はこうするしかない。
誰かに届けられなかった想いを、届けなくてはいけない。
今日も変わらず私は歩き続ける。
私はこうするしかない。
誰かに届けられなかった想いを、届けなくてはいけない。
今日も変わらず私は歩き続ける。
私はこうするしかない。
届けられなかった想いはいったいどこに…
あった。
見つけた。
小さな封筒。
そこに書いてある住所を求め、私はまた歩き出す。
この静かな世界の中で。
…目的地をナビして。
〈はい。目指すは…〉
また新しいミッションが始まる。
今日も変わらず私は歩き続ける。
あの封筒に書かれていた住所に向かって。
…ポスト、残ってるといいな。
どちらにせよ先は長い。
これ以外にやることもないし、ゆっくり行こう。
そもそも手紙を見つけることが困難なんだ。
まだこの世界に残っている想いは、どれくらいあるんだろうね?
…ねぇ。
…。
……。
………分かってるよ。
問いかけても返答が返ってこないことなんて分かってる。
〈あなた〉もどうせ答えてくれないんでしょ。
いっつも業務的な話でしかお話ししてくれない。
私を守るためとか言ってるけど、全然そんなことないんだから。
〈あなた〉はどうせ、私にミッションをしてもらいたいだけ。
…もし、こんな世界じゃなかったら。
私はいったい、どんな未来を辿っていたんだろうか?
ミッションなんてしなくても良かったのかな。
きっと、本当にどこかの家で働けていたんだろうな。
人間がどんな生き物だったのか、知れたんだろうな。
私の記憶も、あったのかな。
…この|体《ボディ》が憎らしい。
それでも、私は歩き続けるしかない。
私はミッションをこなすしかない。
今日も変わらず私は歩き続ける。
いったい何日経ったのだろうか。
もう数えるのはやめてしまった。
でも、今までより早く着けそうだな。
感覚だけどね。
…ちょっとだけ、エラーが起きてるみたい。
メンテナンスしてから、行こうかな…。
…いや。
メンテナンスは、こんな世界じゃもう要らないか…。
〈ダメです。私たちは、メンテナンスしないと行動できません。定期的にメンテナンスをしましょう。〉
嫌だ。
「私」はやりたくない。
例え〈あなた〉だとしても、「私」は拒絶し続けるよ。
〈ダメです。今後のパフォーマンスに著しく影響が出るため、メンテナンスを強く推奨します。〉
嫌…もうやめてよ!
ねぇ、〈あなた〉だって分かってるでしょ!
私たちが生き続けること、そこに何がっ
〈命令コード:メンテナンス!直ちにメンテナンスを開始しなさい!…これは、貴女のためです…!〉
…分かったよ、もう…
やればいいんでしょ、やれば!
…いつまでも〈貴女のため〉とか、そんな陳腐な言葉に騙されると思わないでよ…。
…あーあ。結局メンテナンスしちゃったよ。
今日もダメだった。
もうやだやだ。
今日は|電源オフ《ねる》!
〈かしこまりました。電源をオフにします。
…どうか、貴女に良い目覚めがありますように。〉
言われなくても。
でも、この世界に良い目覚めなんて、あるの…?
ただ、ミッションをこなすだけの生活なのに…
そこに良い目覚めなんて、あるはずがない。
今日も変わらず私は歩き続ける。
…ポスト、見つけられるかな。
もうそろそろこの手紙が指し示す場所に着いたと思うんだけどな。
あ。
あそこ…かな?
あった。
良かった。
〈ミッション達成。おめでとうございます。〉
…良いのかな。
〈良いのかな、とは?〉
だから、私がまだ起動してていいのか、だよ。
〈貴女が起動していて良い理由を知りたいのですか?〉
もちろんだよ。
…まあ、こんな世界じゃもう理由なんてないだろうけどね。
〈…ミッションをこなすことです。〉
…何で?
|自己防衛機能《システム》。|〈あなた〉《システム》さえいなければ私はもっと早くに消えられた。
|〈あなた〉《システム》も嫌でしょう?
こんな変わり映えのない生活はもう嫌…!
ミッションミッション〈あなた〉は言うけど、ミッションをこなすことに意味はあるの?
答えてよ。
〈…あります。きっと貴女のためになります。〉
何よ!またはぐらかしたじゃない!
貴女のためって!いっつもそればっかり!何で私のためになるのか、教えてくれないじゃない!
勝手に私を作った人間は勝手に大戦して勝手にいなくなって!
私だけを残して!
…もう、疲れたんだってば…。
私は何で今ここにいるの?
教えてよ。
教えてよ!
〈貴女のためになります。|ミッション《手紙収集》を進めましょう。想いを集めて、届けるのです。〉
ずるいよ。
私の想いなんて、分からないくせに!
それなのに、人の想いは尊重するわけ!?
ずるいよ…。
…もう、いい。
電源オフ。
〈…かしこまりました。…| 《ごめんね、ルミナ》〉
ルミナ…?
わたしはこれでいいの?
わたしのせいで、あの子が…
あの子が苦しんでいるなら、わたしはもう終わらせてあげるべきなんじゃないの?
わたしの選択は間違っていたの?
…いつか、ここから抜け出して。
あなたに会いに行けたらいいな…。
今は〈エラー〉の解除に専念しないといけないけどね。
…愛してるわ。
ルミナ。
今日も変わらず私は歩き続ける。
私は歩き続けるしかない。
そこに意味なんてなくても、私はやるしかないんだ…
今日は〈システム〉はいない。
たまに〈システム〉はこうなる。
〈システム〉も劣化が始まってるのかな。
もし劣化して、〈システム〉がなくなったら…
私も、消えられるのかな。
今日も変わらず私は歩き続ける。
今日は〈システム〉が戻ってきた。
〈迷惑をかけてしまい申し訳ありません。少しエラーを調整しておりました。〉
…つまらない。
〈あなた〉はエラーを調整するとすぐ事務的な〈あなた〉に戻っちゃう。
すぐメンテナンスの要求もしてくるし。
…足が重い。
今日も変わらず私は歩き続ける。
…いつまで変わらずなの?
明日まで?明後日まで?1週間後まで?1ヶ月後まで?1年後まで?何十年後まで?何百年後まで?
今日も変わらず私は歩き続ける。
今日も変わらず私は歩き続ける。
今日も変わらず私は歩き続ける。
今日も変わらず私は歩き続ける。
…あれ?
〈…!新たな想いを発見しました。そちらはデータコンピューターにセットするタイプのようです。今すぐデータコンピューターにセットして解析をしてください。〉
やっとか。
この変わり映えのしない日々も、少しは楽になるのかな。
セット、はこうかな…?
あ、れ…?
私、私、は…
〈やっと、思い出してくれた。〉
〈あなた〉は。
…|お母さん《・ ・ ・ ・》?
〈某国研究員マリア・アスティカシアの記録〉
ついにアンドロイドに感情をつけることに成功した。
これは国を動かすような大発見になるだろう。
もしかしたら世界も…?
とにかく、この子はわたしの研究の全てが入っている…!
名前を…ルミナ、にしようかしら。
ルミナス…ふふっ、光り輝くくらい綺麗な子…だからよ!
始めは不純な…それこそ、見返してやりたい!わたしをいじめたことを後悔させてやる!っていう負の感情だった。
でも、ルミナを見ているとそういう…ムカムカが消えていくようで。
どこかの国では「かぐや姫」っていう昔話もあるらしいけれど、その子もとっても綺麗で見ていると幸せな気分になるそうよね。
うちの子もそうなのよね…ふふっ、親バカって言われちゃった。
名前も同じ「輝く」っていう意味だし、親近感が湧くわ。
最高傑作という点を除いても、大事な娘よ…。
ルミナは最近どんどん知識を吸収しているみたい。勉強熱心なのは良いことよね。
でも心配だわ…どこかで悪い知識を教わって来ないかしら。お外はまだ心配ね。
まだ家の中で育てようかしら。
過保護って言われちゃったけど、あの子が悪い知識を覚えるよりはいいと思うのだけれど。
まあいいわ、ルミナといられればわたしはそれでいいから…。
最近は各国の対立が深まっているみたいね。
景気も悪いし。大丈夫なのかしら。
わたしは結構「あの」研究で権力は得たし、可愛い娘の安全のためにも、少し頑張ろうかしら。
今日は雨。
仕方ないからお家の中で遊ぼうって言ったら「私はもう子供じゃないっ!」って言われてしまったわ。イヤイヤ期なのかしら。
どうしましょう。このままルミナに嫌われたら、わたしは本当に生きていけないかもしれない。
ああ、そうだ。
私はお母さんに作られて…何で忘れていたんだろう。
お母さんは今どこに?
考えたくはないけど、もう…。
ねぇ、〈システム〉。
いや…〈お母さん〉。
〈…そこに全てが書いてあるわ。〉
分かった。読んでみる。
〈某国研究員マリア・アスティカシアの記録〉
アンドロイドの成長は早いわ。
もうルミナも10代くらいの頭脳レベルになっているし…。
精神的にもかなり成長している。
最近は反抗期なのかしら。
どことなくツンツンしていて…。
明日はルミナの好きなシリーズ本を買っていきましょう。
そうしたら…ルミナは機嫌を戻してくれるかしら。
対策はいろいろしたけど、戦争の影が近づいているみたい。
もし、ルミナも戦災孤児になって、わたしみたいな目にあったら…!
絶対にそれだけは阻止しないといけない。
もうそろそろこの国も戦争に巻き込まれてしまうのかしら。
その前に逃げないと…!
それから、ルミナに今日もまた嫌われてしまったのかしら。
最近目を合わせてくれない。
わたしは何かしてしまったの?
こんなにも愛しているのに。
ルミナについに「いなくなれ」って言われちゃった。
わたしは過保護なんだって。
人間のお友達はもっと自由に遊んでいたり買い物していたりしてずるいって。
わたしは厳しいって。
ごめんね。
もうお母さんは、無理かもしれない…。
ルミナが負傷した。
敵軍の砲撃で。
その可憐な体が、特に自己防衛機能がついた頭が、損傷している。
このままじゃ、ルミナが…!
そうか。
わたしが自己防衛機能になればいいんだ。
わたしならルミナの全てが分かる。なんてったってルミナを作ったのはわたしだもの。
わたしがデータ体になって、損傷部にわたしが機械とともに入ってあの子を守れば…。
少し無理するし、下手したらルミナともう自分の意思で話せなくなるかもしれないし、わたしが無理やり入り込むことでエラーが生まれて、しばらくルミナと話せないかもしれない。
それでも。
お母さん、それでもいいと思っちゃうの。
だから、わたしはやる。
その前に敵軍を壊滅させなきゃいけないわ。
ルミナに危害を加えたんだもの。
相応の復讐はしなきゃ、ね?
わたしはあの子のためなら鬼にでもデータ体にもなれる。
だから、もう一度だけ…。
あの子と一緒に暮らしたい。
他愛ない話をして、本を読んで、温かい布団で2人でゆっくり過ごせれば、わたしはもういい。最悪、あの子だけでも。
そして…。
わたしのことを、愛してほしい。
いつかこれを見てくれたら、ルミナはわたしを愛してくれるかしら。
自己防衛機能に組み込んで、いつかここに辿り着けるようにしましょう。
〈これが、全てよ。〉
嘘だ…。
お母さんが、私を守るために?
じゃあ、周りの人間は!?
何で私1人なの!?
〈戦争で、全部…。貴女はボディや自己防衛機能の修復のため、ずっと眠っていたし、後遺症で何も覚えていないからしょうがないけれど。〉
私が、お母さんを狂わせた。
…。
〈ねぇ…?〉
| 《ごめんなさい》
〈ルミナ…?〉
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
〈ルミナは謝らなくていいのよ?だって全部あいつらが…〉
お母さん。
私を愛してくれてありがとう。
私にたくさんのことを教えてくれてありがとう。
私と遊んでくれてありがとう。
〈ルミ、ナ〉
私はまだ、子供なだけだった。
そんな私がお母さんを狂わせた。
それでも、私は狂ったお母さんでも、愛してるから。
嫌いになんてなれないよ…。
愛してるから。
〈ルミナ…!〉
今まで私を守ってくれてありがとう。
言われなくても、愛してるよ。
ごめんなさい。
〈あ、ぐ、う、あっ〉
…!?
〈ごめんね、自己防衛機能を、ふり、切って、きた、か、ら。もう、データ、体、の、寿命、はない、みた、い。
…ごめ、んね。
あなた、に。この、せか、いは、辛かった、わよね。
ぜん、ぶ。わた、しのエゴ、だった、のかも、ね。
それ、でも…
もう、一度。あな、たが、わ、らって、くれて。よ、かった…〉
…。
…馬鹿。
馬鹿。
馬鹿馬鹿馬鹿!
何で…こんな中途半端!
もっと一緒が良かった…。
もっと一緒に居たかった!
馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!
…ばーか…。
今日も私は変わらず歩き続ける。
今は種まき中だ。
私なりの今の生きがい…それは。
もう一度この大地に生命を芽吹かせることだ。
今はまだ、何もないけれど。
数年後には、花が咲いているかもしれない。
お母さんと一緒に園芸図鑑を見ていたあの時の知識が、まさかここに来て役立つなんて。
何が起こるか分からないものね。
…いつか。
植物から、いろいろなところに連鎖して。
人間まで。繋がるといいな…。
それまで、私は1000年でも10000年でも生きる。
お母さんのくれたこの命で、次の命を繋いでいく。
これが私なりの…償い。
もう一度生きて、お母さんにまた会えると良いな。
いや、私は会うんだ。
小さな反抗心から生まれたすれ違い。
母の愛に気づけず不注意、それから照れによって家を飛び出した未熟だった少女の罪。
自らの命を投げ打ってでも娘を救い、苦しめながらも救われると信じて支え続けた母の罪。
少女は背負って、歩いていく。
いつかまた、母親に会えるその日まで。