寂びた惑星

　吹き荒れた大地、荒んだ森林、使い物にならないビルディング。昔は昼夜問わず輝いていた、建物達に張り巡らされた電光掲示板は、今や何も現さない。 　後悔と未来の街。元々ここは、生きていた人間達の間で繁華街と呼ばれていた場所だ。過去の者らは、この場所で遊び呆け、明け方までその快楽に身を包んでいたらしい。大規模な人数が集まり、同時にまた、大規模な人数が消えていく。そんな街だった。 「――って、この文献には書いてあるけど、これはどうかな。ハッタリって言う程でもないけ」」 　紙切れを地面に捨てる。過去の世界では、この行為をポイ捨て、と呼んでいて、罰則の対象だったらしい。なんとも恐ろしい。 「今は罰則を受けさせる人間も居ないから、完全に自由だけど」 　｜人気《ひとけ》の無い廃れた街を練り歩きながら、私はそう口を開いた。大きな独り言だ。だがしかし、聴いてる人は誰も居ない。 　太陽系第三惑星、地球。この星は、数年前に退化した。この惑星を牛耳っていた生物、人間がほぼ滅びたからだ。 　では、私は誰なのか。私は人間だ。名前は無い。名前を付ける必要がない。付けても、覚える人、呼ぶ人は誰も居ないから。今は無名で、この世界をただ見ている。 　私は言語化すると、いわゆる生き残りという存在だ。人類が滅亡した後、私だけがこの世界で生きている。なぜなのか。それは、人類滅亡を決定づけた出来事の少し後、人間達が次々死んでいく時に、母が私を産んだから。 　人類は、核で滅んだ。文明として生み出した核で、人類はその他の文明、そして自分の命すらを滅ぼした。もしこれが、一人の人間の生涯だったら、間違いなく笑い事だろう。自分が作ったのに、勝手にそれで攻撃して、それで皆まるごと破滅だ。 　核攻撃が起こった翌日、私は地下の避難シェルターで生まれたらしい。父の手記には、そう記載があった。 　私は体が丈夫だったようで、そんな環境でもなぜか生きられた。そして今、こうして成長し、地上に出られている。 　核の放射線はどうなっているのか。あの時に使用された核ミサイルは、どうやら放射線の残る期間が比較的短いものだったらしく、数十年経った今では、健康に影響や被害は出ていない。なので私はこうして、地上で歩けている。 「はあ……。次はどこに行こう。もうあらかた、足の届く範囲は見尽くしたしなあ。海でも渡ろうかな」 　私は、昔の地球の事を知りたいと思っている。どんな人間が居て、彼らがどのような生活を送っていたのか、知りたくてたまらない。 　しかし、それはどうやら難しい。 　昔の人間は、情報統制というものを行っていたらしい。後世に残したくない情報、残すと不都合な情報を、徹底的に排除していた。それによって、今現在は、地球や社会に関する情報がほぼ無くなっている。情報統制のせいで、私は過去を知れない。 　だから私は、世界を旅している。彼らの過去を知りたいから。そして、私が世界を忘れぬようにしたいから。 　私が消えたら、きっと社会という概念は消えていって、地球という存在自体も、人間も、まるごと消えてしまうのだろう。誰からも覚えられていないものは、無いのと同じだから。 　だから私は、覚えるためにいつまでも歩き続ける。今日は、日本の繁華街を見た。 「あー、でも今日も特に代わり映えは無いな。いつもと同じ、廃れた風景だ」 　つまらないけど、私はこんな世界が好き。この世界しか知らないから、好きになるしかない。だから、大好きだ。 　遠くから、生き延びた鳥や犬の鳴き声が聞こえた。