公開中
聖女の喝采
Alba
このお話には、肉体的にグロ要素はありませんが、精神的なグロ要素が少々あります。そして、これは少しダークな作風となっております。それを踏まえたうえでお楽しみください。
主な登場人物
マリア・ヴィ・ケート
表向きはとても礼儀正しい修道女。裏はとんでもない悪魔。相手の秘密を探すの大好き。主人公。
コニー・ライ・テイラー
慈愛に満ち溢れた天使的存在。マリアとは正反対の‟光”を持っている。副主人公。
第一話 歪んだ快感
15世紀、貧困と信仰が入り混じる街。
教会の鐘楼は、いつもより湿った風に揺れ、銀の音を夜空へ散らしていた。
マリア・ヴィ・ケートは、その鐘の下で祈りを捧げるふりをしていた。
街の人々は彼女を「熱心な修道女」と呼び、慈悲深い聖女のように扱う。
だが、マリアの胸の内には祈りなど一欠片もない。
退屈。
それが彼女にとってたった一つの真実だった。
「……何か、面白いことはないのかしら。」
その夜、マリアは鐘楼の階段を上り、街を見下ろしていた。
ふと視線を向けた先で、奇妙な光が揺れる。
町の有力者が、薄暗い倉庫で異教の儀式めいた集まりをしているのが見えた。
「まあ……これは。」
マリアの唇がゆっくりと吊り上がる。
彼女はその場で何もせず、ただ翌朝、神父に“それとなく”告げただけだった。
そして翌日、魔女裁判が開廷し、結果、彼は魔女ということになった。
昨日まで敬われていた男が、広場で吊るし上げられ、
群衆が石を投げ、罵声を浴びせる。
マリアはその光景を、教会の影から静かに眺めていた。
胸の奥が、熱く、甘く、震える。
――これが、悦び。
彼女は初めて、自分の“本当の生きる意味”を知った。
(第一話 END)
第二話 悪魔の操り人形
マリアは快感を知った。
それは彼女の中で、毒のように静かに広がり、
やがて彼女の行動を支配し始めた。
告解室には、今日も人々が列を作る。
罪を告白し、救いを求めるために。
マリアは微笑みながら彼らを迎え入れた。
だが、その笑みの裏で、彼女は“弱み”を拾い集めていた。
「あなたの秘密は、神だけが知っていればいいのよ。ちゃんと隠れていないと、髪の毛だけで情報は漏れるんだから。」
そう囁きながら、心の中ではこう呟く。
――次は誰を壊そうかしら。
匿名の手紙が街にばら撒かれる噂、事実、偽り、どれもマリアにはただの"情報"に過ぎない。
夫婦は疑心暗鬼に陥り、
商売敵は魔女として売られ、
友人同士は些細な噂で憎しみ合う。
マリアは教会の片隅で、
自分の指先ひとつで狂っていく人々を眺めながら、
低く、冷ややかに笑った。
「もっと……もっと私を楽しませてちょうだい」
(第二話 END)
第三話 光を喰らう影
街の孤児院で働く少女、コニー・ライ・テイラー。
彼女は誰にでも優しく、弱者に寄り添い、
マリアとは正反対の“光”を持っていた。
ある日、コニーは偶然、
マリアが弱者を脅している現場を目撃する。
「マリアさん……そんなこと、間違っています」
その言葉は、マリアの胸に鋭く突き刺さった。
自分の快楽を邪魔された怒りが、静かに燃え上がる。
「あなた……私に逆らうつもり?」
その日から、コニーへの“罠”が始まった。
靴の中に針。
孤児院の子どもたちに流される悪意ある噂。
周囲の大人たちの態度が冷たく変わっていく。
コニーは理由も分からず孤立していく。
それでも、彼女は誰も責めなかった。ただ、その怒りを静かに受け止めた。
その優しさが、マリアには何より癪だった。
「光なんて……私が消してあげる」
(第三話 END)
第四話 秘密の対価
マリアはついに、コニーの“秘密”を突き止めた。
それは、コニーが誰にも言えず抱えていた、
小さな、しかし彼女にとっては大切な弱点。
マリアは冷酷な笑みを浮かべる。
「ねえ、コニー。あなた、私の言うことを聞かないと……どうなるか分かるわよね?」
逆らえばすべてを晒される。
コニーは絶望の中で、マリアの命令に従うしかなかった。
だが、マリアの欲求は止まらない。
ついに彼女は、
コニーを「魔女」として裁判にかける。
コニーは絶望した。今まで魔女になった者たちの末路を知っていたからだ。
火刑柱の前で、マリアが先導する“拍手”。その中で、炙られながら竹槍で刺される者たち。
想像するだけで涙が出る。
結果、コニーは害無しと判断され、処刑は免れた。
だが、名誉も居場所も奪われ、
街を追われることになった。
光は消えた。
マリアは勝利した。
そう思っていた。
(第四話 END)
第五話 Execution Clap
マリアの傲慢さはついに頂点に達していた。自分を育てた司教の弱みさえ握り、教会を裏から操る「影の支配者」気取り。
だが、その足元には、彼女が踏みにじってきた無数の「死体」が積み上がっていた。
嵐の夜、教会の祭壇に現れたのは、かつてマリアにすべてを奪われ、死んだと思われていたコニー・ライ・テイラーだった。
「あら……生きていたのね、コニー。その薄汚れた格好、まるで野良犬じゃない。また私に這いつくばって、秘密を守ってほしいと泣きつきに来たのかしら?」
マリアは手元の聖書を弄びながら、冷めた表情でコニーを見下ろす。だが、コニーの瞳に怯えはなかった。
「いいえ、マリア。もう私には守るものなんて何もない。家族も、居場所も、名前さえ、あなたがすべて奪ってくれたから。……だから、もう何も怖くないの」
コニーが掲げたのは、マリアがこれまで捏造してきた「魔女告発」の全記録。マリアが自らの快楽のために無実の民を火に焼いた証拠だった。
「ふん、そんな紙切れ一枚で何ができるの? 民衆はバカよ。私が『あいつは魔女だ』と指差せば、喜んで石を投げる。彼らが求めているのは真実じゃない、『誰かを叩く正義』という名の娯楽なのよ!」
「……ええ、その通りね。だからこそ、その『娯楽』の標的を、あなたに変えてあげる」
教会の扉が勢いよく開き、そこには証拠を突きつけられ、裏切られたことを知って激昂した群衆がなだれ込んできた。昨日までマリアを聖女と崇めていた指先が、一斉に彼女を指差す。
「な、何よ……やめなさい! 触らないで! 私は修道女よ、神に仕える身なのよ!!」
引きずり出されるマリア。かつて自分が特等席で眺めていた、あの冷たい処刑台の上。
群衆から、一発目の石がマリアの額を打つ。
「偽聖女め!」「人殺し!」「よくも騙したな!」「この悪魔!」
広場を埋め尽くすのは、怒号と、そしてリズムを刻むような「拍手」。皆は、悪魔のような笑みを浮かべながら、マリアへ拍手を送っているのだ。
マリアは血にまみれた顔を上げ、群衆の影に立つコニーを見つける。コニーの顔には、どこかうれしいような、悲しいような感情であふれていた。
「コニー・ライ・テイラー!みんな、あいつが魔女よ!私じゃない!その資料も、全部あいつの嘘よ!ねぇ皆お願い!信じてよ!」
マリアがどんなにあがいたって、今まで積み上げてきた罪は重い。マリアは、魔女として即決処刑されることになっている。そんな重罪人の言葉なんか、だれも耳に入れようとすらしなかった。
狂ったように暴れるマリアの叫びは、今までのどの裁判よりも激しく、どこか歓喜に近いような「処刑拍手」の中にかき消されていった。
(聖女の喝采END)
最後までお読みいただきありがとうございます。このお話には、「魔女裁判」という言葉が出てきます。現代で言えばSNSやインターネットで、特定の人物を「いじめる」ような行動を指すものがあります。ですが、この「魔女裁判」は、歴史上に存在するものと、現在で使うものをあわせた意味で使用しています。今作の主人公マリアは、『人間が持つ醜い欲望の塊』をイメージして描きました。支配欲、独占欲、他人の不幸を蜜とする嗜虐心……。聖職者という最も清らかなはずの立場に、最も濁った欲望を詰め込んでみたかったのです。そんな彼女が最後に浴びた『喝采』が、読者の皆様にどう響いたか、もしよろしければ感想などで教えていただけると嬉しいです。