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死歿の歌 五話
らるらりら らるらりら
誰かが私を呼んでいる
るらりらら るらりらら
誰かが私を呼んでいる
らりららる らりららる
誰かが私を呼んでいる
りららるら りららるら
誰かが私を呼んでいる
ああ閻魔様が呼んでいるのか?
歌を歌いながら 僕は閻魔様を待つ
ああでも僕はあの人に あの人に
呼んでほしいんだ
ららるらり ららるらり
誰かが私を呼んでいる……
人間は誰もが愛を求めている。
愛は人間を嫌っているかもしれない。
人間から愛は、僕らにとって、救済者だと思っているだろう。
五話『今』
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そう、これは事実なんだ。受け止めれないといけないことだったんだ。でも、自分は受け入れられず、受け止めることに必死だった。
父さんが死んだんだ。
俺は父さんの|死體《したい》を見て、「父さん!父さん!」と叫んだ。だが、死體だから、父さんはピクリとも動かなかった。
家に帰ってから、部屋に引きこもった。ベットは涙でびしょびしょ。俺は父さんに会いたい、部屋にいる間ずっと思っていた。
やっと気持ちが少し落ち着くと、晩ご飯が用意されていた。生姜焼きだった。母さんの手作り料理、俺は大好きだった。今日も美味しかった。
今日も今日とで、母さんと寝食を共にすることができた。でも、父さんとは…
…思い出すと、涙が溢れそうになる。もう、決してこの世界では会えない、たった一人の本当の父親なのだから。でも、俺が次第に大人になっていくにつれて、勉強や仕事で忙しくなり、父さんのことを思い出す時間は無くなった。
父さんが死んだのは、俺が小学四年生のころだった。今でも鮮明に覚えている父さんの顔と体。父さんは、通り魔によって殺された。俺が大人になっても、父さんを殺した通り魔は捕まっていない。捜査も、今は活発には行っていないのだ。よほど手がかりがないのだろう。
父さんは、明るくて元気、子供をよく気にかけてくれた素敵な父さんだった。たまには、楽しいところへ連れて行ったり、ときには勉強を教えてくれたりしてくれた。
また、友達からも好評だった。友達の前では、まるで金持ちのような感じで、欲しいものを買ってあげていた。流石に限度はあったが、友達はとても喜んでいた。
だが、あんな悲劇があるとは思ってもいなかった。
中学生になっても、悲劇のことは忘れられなかった。授業を受けているときも、半分授業、半分父さんのことを考えていた。だが、高校受験で忙しくなってきた中学三年生では、父さんのことはあまり考えられないようになった。
高校の受験は無事に受かった。このあとからだ、問題は。早速、合格のことを母さんや叔父、叔母に伝えに行った。母さんに伝えたとき、母さんはこう言った。
--- 『このことをお父さんにも伝えられたらねぇ…』 ---
こんなこと聞かなければよかった。父さんにも言いたかった。俺が合格を最初に言いたかったのは、父さんだった。
高校生になると、父さんのことはまるですっかり忘れていたようだった。成人すると、仕事で忙しくなり、今度は母さんのことも考えられなくなった。
でも、あの出会いでまた、父さんを思い出すきっかけとなった。22歳のとある日、後輩ができたのだ。後輩になったのは、『青空 |杏《あん》』さんという方が、俺が入っている会社に入社した。結構話が合う人だった。お酒好きで、よくお酒の話をする。
そして何ヶ月か経ったとき、杏さんが俺に告白をしてきた。唐突かもしれないが、告白をしてきたのだ。あの時は両思いではなかったが、杏さんと是非…と思ったので、Okを出した。
その後、結婚をし、杏(竹崎 杏)が子供を産み、今は二人の子供を育てている。生活も充実していて楽しい。
…だが、子供も成長する。一人がどこかへ行ってしまったのだ。俺が強い口調で話してしまったせいかもしれない。一人が、夜中に出かけようとしていたのだ、勿論止めた。
しかし、止められることができず、出て行ってしまった。いわゆる家出か。
…話が長くなってしまったな。最後に一つだけ。
俺は『竹崎 泉』
もし、俺の子供を見かけたら…教えてちょうだいな。
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『今』、それは、一度過ぎたらもう二度とない時間ということだ。
一歩一歩、共に歩んできた人間たち。
仲間を大切にしてきた人間たち。
もう過ぎたものはしょうがない。
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死體=死体。