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あるピアノ
PIANOさんリスペクト作品です。
突然、私の頭の中で
ピアノが鳴り出した。
透き通った鍵盤の音は私の頭の隅々まで行き渡り、
私の波長まで鷲掴みにした。
ビターチョコレートのように苦くも、
恋愛小説のような甘さが混ざった不思議な音が脳に響く。
あまりの儚さに涙腺が刺激される。
こんな綺麗な音楽、聞いたことない。
白黒のピカピカな鍵盤を思い浮かべると、不意にメロディーが変わった。
ホラー小説のような不穏で重い音色と、
桃のようなとろっとしたフレッシュな旋律が、私を完全な別世界へ連れ去った。
白黒なモノクロ世界が、どんどん青く染まっていく様は、
まるで絵を描いているようだった。
そう。それは海。
どこまでも青い真夏のオアシス。
6月28日の景色が目に浮かぶ。
去年の夏、大好きなアイツといった砂浜は怖いくらいの絶景だった。
「お前,,,どうしたの?さっきから何か,,,泣いてる?」
大好きなアイツが私の顔を伺いに来た。
気付けば、音も景色も消えていた。
「好きな人の涙は、黙って見とけよ。」
私が強気に返すと、
「何なの!?」と女みたいに頬を赤らめた、あいつの目がピアノに見えた。
「私、鍵盤さんになりたいな。」
「け、ケンバンサン?」
「白と黒で色んな音色を作るの。」
「,,,じゃあ、俺が奏でてあげようか?」
「キモ。」
「えぇ。」
「あんたは調律するだけで良いの。旋律も曲調も、曲想だって全部一人で作ってやるんだから。」
「お前吹奏楽部だっけ。」
「違うよ。」
「何なの??」
思わず笑ってしまった。
アイツは「週末の疲れでおかしくなった?」とまだ困惑気味。
「ねぇ、明日休みだし、一緒にピアノのコンテスト見に行かない? 念願の初デート!」
「え!? うん。いい、よ?」
アイツの目の色が少し変わった。
アイツも白と黒だけで飽き飽きだったんだな。と私は思った。
「何照れてんだよっ!」
「うぉい、やめろよぉ。」
アイツは顔を真っ赤にしながらいつも通り待ち合わせの正面玄関へ向かった。
その後ろ姿がウキウキなメロディーだったことも、
さっき頬を挟んだとき彼の口から綺麗なドが出ていたことも、
集合したら目一杯イジってやろう。
結構がんばった\(๑╹◡╹๑)ノ♬