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夕凪パレット夜空色
おまちかねの読み切り3です。
そろそろシリーズものとか書いてみたいのでファンレター待ってます。
キャンバスの上で動く筆。その先には、青がかった黒の絵の具がついている。
生暖かい風が、君と僕の肌を撫でる。
「今日は少し、肌寒いかな」
夏休みに入る前に、一枚描こう。そう言って、君は僕を誘ってくれた。ひまわり畑の奥の原っぱに、キャンバスと絵の具を持って。
「綺麗だね。こんなにたくさんの星を見たのは初めてかも」
そう、君がいう。夕凪色のパレットに、黒と青、藍色を出して混ぜる。チャプ、と音が鳴って、パレットに水が出される。滑らかな夜空色の絵の具をパレットナイフで取って、キャンバスに広げる。
「夏休みに入ったら、あんまり会えなくなるかな」
君がぽつりと言った。その手には、細い筆が握られていた。サッサッと動く筆。でも、どこかぎこちない。その手も、もうすぐ止まる。
夜空に薄く雲を描いてすぐ、君は両手をあげて空を見上げる。
「見て、あれ。たくさんの星が繋がって、まるで夕凪みたいだ。」
その時、冷たい風がふと、止まった。まるで風が君のいうことを聞いたみたいに。
「この夜空はね、大きなパレットなんだよ。たとえこの宇宙が夜空色でも、星が存在する限り、いくらでもいろんな色になれる。あの星たちだって、私がそう思えばオレンジ色に見える。
だって星たちの色は、限りなくあるのだから。」
ああ、そうだね。君のその手が、キャンバスに向かうことはなかった。君のその顔が、変わることはなかった。
このキャンバスの上は僕だけの物語。僕が描いた、いつまでも変わらない物語だ。
「この夜空の絵の下には、オレンジ色を隠してあるんです。たとえ見えなくても、僕がそう思えばオレンジ色はある。」
僕はそう言いながら、仕上げに筆を動かす。夕凪の時のような色のパレットに、青がかった黒の絵の具を乗せて。
雰囲気出すの大変でした。やっぱり難しい😓