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部誌30:Happy Halloween2
改稿作業に専念する……つもりでしたが、気づいたら完成していました。できたなら早めに公開したい!ということでまた投稿です。
「……あれ?いただけてないの?」
謎の男が、飛び出した後に頭を掻いた。
「きゃっ!?突然なんなの!?」
サウィンは反射的に下がったようだ。そのおかげで、謎の男の攻撃を避けられたのだ。
「とにかく!それを寄越せ!」
「え、これ!?ダメだから!これはあたしの大事なものなの!ぜったいに、ぜーったいにダメ!」
逃げ回るサウィン、それを追いかける男。
そして、タイミングを見計らって、男を後ろから捕まえるケルト。
「ちっ、放せ!」
「大人しくしろ!そして……何も喋るな。」
「えっ、お前」
「とにかく!何も喋るな!」
その声を聞いて、ひとまず男は黙った。
「ふう。ありがとうね、ケルト。」
身だしなみを整えて、サウィンは一息ついた。背負っていたカバンから水筒を取り出して、一口飲む。
「まあ、な。」
「それにしても、なんであんたはあたしのランタンなんて狙ったわけ?」
「ん?ああ、そのことか。それはなあ」
なぜか得意げに、男は言う。
「綺麗なものを集めるのに、理由なんていらないだろう?」
「……はあ?意味分からないんだけど?」
「あーあ、面倒くさいやつに会ったみたいだな。」
「なんだよ、『あーあ』って!失礼だな!」
「面倒くさいやつでしょ、あんた学校で教わらなかったの?『人の物盗んじゃいけませんよ』って。」
呆れるサウィンを横目に、男は一呼吸置いてから、またどこか得意げに笑った。
「だって俺、もう人間の法律とか関係ないしー、幽霊だからさ!」
さわさわと、森の木々がそよ風で揺られて、心地いい音を奏でた。
「…………はああああ!?な、な、な、何言ってるのよあんた!?」
「え?もう一回言うけど……俺、幽霊だからさ!」
「嘘、嘘よこんなの!」
「残念ながら、本当なんだなあ。だって今日は?」
「…………ハロウィーン、ね。」
納得はいっていないようだが、とりあえずは頷くサウィン。
「そういうこと!」
「ハロウィーンは幽霊たちが1日だけ、この森の中だけで人間の体を手に入れられる特別な日なんだよ。」
「なんでそんなに落ち着いてるのよ……。」
ケルトはサウィンのように驚きもせず、大声も出さず、ただ落ち着いて幽霊についての知識を補足した。知的にメガネを持ち上げると、再びサウィンと男の観察に戻る。
「そういうこと、そういうこと!そこのケルトが説明してくれた通りだ。」
あちこちのものをペタペタ触りながら、男は続ける。
「今日は人間の体を持ってるから、いつもより五感がはっきりしてる。人間に触れる。人間が持ってる物だって、森の奥に持ち帰れるのさ!これはお宝探しの大チャーンス!ってワケよ。ちょっと拝借するくらい許してもらいたいね!」
「あんた最低ね」
「うーん辛辣!息をするように他人に最低って言うなんて!」
「あんたがひどいことしようするからよ!」
「こっちはハロウィーンでテンション上がりっぱなしなんだよ。それくらい許せよー。なかなか人間に会えることなんてないんだ。」
「ハロウィーンを言い訳にしないで!大体ねえ……」
そこから2人はごちゃごちゃと口論を始めた。どっちが間違ってるだの、自分は正しいだの、飽きもせず言い争っている。
ケルトは我関せずを貫いていた。しばらくは。
2人の口論が泥沼化して、とうとう両方のボキャブラリーが貧しくなってきた頃、ようやくケルトは仲裁した。
「あー、仲が良くて何よりなんだが、このままだと話し過ぎで時間がなくなる。早く向かおうか。」
「「仲良くないから!」」
「名前も知らない状態で口喧嘩できるなんて、2人とも随分と元気なようで。その元気でさっさと先に進もう。」
ケルトが先に進み始めたのを、2人が視認した。無言で、2人はその後について行く。
「って、なんであんたもしれってくっついてきてるのよ!」
「正直なこと言うと、ハロウィーンでも暇だから。だって今年全然人間こないし。つまらなすぎるからな。」
「暇人?暇幽霊って言うの?まあいいわ、邪魔しないでよね。あと、ランタン盗もうとしないでよね!」
「あ、バレた?」
「……あんたねえ。」
また激しい言葉のぶつけ合いをする中で、サウィンは彼の名前を知った。ユウというらしい。「幽霊だから?」と聞くと、真面目な顔で「その通り幽霊だから、かなり前に死んだから名前なんてもう覚えてない」と返されて、サウィンは面食らってしまった。
とにかく、サウィンは3人で歩く。
なんとなく、心のどこかで違和感を感じながら。
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「暗転です。」
また舞台は真っ暗闇に戻って、非常口を示す鮮やかな緑色の光しか見えなくなる。
さて、この後は場面転換だ。セットも変更する。森の背景に、私たち一年生が練習の片手間で作った|アレ《・・》を配置するのだ。
東先輩が戻ってきた。
「お疲れ様です。」
「天音ちゃんもお疲れ様。この後転換で合ってるよな?」
「そうですね。」
「あ、じゃあ余裕あるし手伝うな。」
「よろしくお願いします。」
小声で会話しつつ、奥からそれを引きずらないように運んでくる。
「壊さないように気をつけて運搬するのよ。ああ、そこ幕に当たりそうね。」
「危なかったあ。美也ちゃん、東先輩、そこの幕抑えててくれませんか?」
「はいはーい、俺たち今行く。」
一度それから手を離して、私は音を立てないように幕をずらす。強く引っ張りすぎると幕が取れて演劇どころじゃなくなるので、優しく。
「それにしても、本当に大道具の出来がいいな。去年の公演とは大違いだ。」
「そりゃあ、今年の一年生はみーんな手先が器用なんだし?」
細かい作業を同級生たちは苦手としていないようで、すいすい大道具作りが進んだ。私も絵でなんとか貢献はできたので、足手まといにはなっていないはずだ。
「そうだな。君のランタンの出来もかなり良くなったし。」
「ふふふ、アイディアを出してくれた美也ちゃんに感謝しないとね。」
「いえ、そんな……たまたま家にあったから、やってみたいなあと思っただけです。先輩たちも、こんな私の案にOKしてくれてありがとうございます。」
梨音先輩のランタンの中には、ちかちかと光るろうそく風ライトが接着されている。まるで小さな炎が本当に揺れているみたいで、ランタンを持って演技をする梨音先輩は様になっていた。
「美也ちゃん、こっちは準備できたよ、って映写陣に伝えて。」
「分かった。」
私は定位置に戻って、まあインカムを掴んだ。
「じゃあ、僕たちは行くぞ。」
また舞台が眩しくなって、先輩たちは一歩、また輝くために踏み出して行った。