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一話:引きこもり皇太子
悲しいよ…データが消えてワタクシ悲しいよー
「なんで今日も|翠華《すいか》様は来られないのよ!?」
花の宮の上級妃ーー、|果菜《かな》は今日も怒り狂っていた。
(翠華様も、面倒臭いから来てあげたらいいのにな)
果菜が割った花瓶を片付けながら、侍女の|綺沙《きさ》は心の中でそう呟いた。
いくら皇帝の翠華様だって人なのだから好き嫌いはあるのだろうが、流石に妃になってから一回も果菜の所に行かないと言うのは少し酷いと思う。
「今日も果菜様の所に皇帝陛下は来なかったわね」
「…そうですねぇ」
ここまで来ると、なぜ自分達はここを掃除しているのか分からなくなってくる。どうせ、翠華様は来ないのに。
「なんでも皇帝陛下は“皇后の忘れ形見”に執着してるらしいから」
「ああ」
現在の皇帝陛下、翠華様は亡くなった皇后の息子ーー、いわば皇太子殿下を「皇后のように死なないために」だとかなんとか言って、皇太子を一室に閉じ込めているらしい。
(虐待じゃね?)
そうは思ったが、この国に皇帝陛下より偉い者は居ない。院もお亡くなりになった。
「…きっと今日も来ないわよね」
「いえ、果菜様は素晴らしいお方なのですから。来るに決まっておりますよ」
そう、そうよね、と果菜は一人で頷いていた。
相変わらず、強い妃だなあと思った。
ーー少し経ち
「綺沙」
「なんでしょう」
「これを、牡丹の部屋に持って行ってくれないかしら」
牡丹の部屋ーー、つまり皇太子殿下の部屋だ。
「分かりました」
きっと唐菓子か何かの献上品だろう。
皇太子に何か献上すれば声をかけてくれる確率が上がる。
トントン、と牡丹の焼き印が入った木製の扉を叩いた。