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#9 友達の作り方
「できた」
心葉の声が久しぶりに聞こえた。カリカリという鉛筆の音がやみ、にっこにこの彼女がいる。彼女はスキップでポストに向かい、中身を漁った。
「心葉ちゃん、できたの?」
「はい、できました。悩み専用小説」
「小説書けるんだ、すごいね」
「小説で解決するのが、志望理由ですから」
えぇ、と声を漏らしたのは宙だ。彼は小説という本がこの世で一番嫌いである。
そして心葉は入っていた紙を広げ、しばらく睨んだ。優月先生も覗き込む。
「転校生で、友達が欲しい…」
わたしは心葉のもとへかけた。
「どんな悩み?」
「5年1組の近藤梨沙。転校生で友達ができないのが、悩み」
簡潔に話した心葉はわたしの方を向き、にやっと笑った。ちょっと楽しそうに。
「ぴったりの悩み!」
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「ぴったりって?」
「僕がさっき完成させた小説に、ぴったりの悩み。さっそく行く」
…と言いつつも、もうすでに廊下に出てるんですが。相変わらず宙は「狂ってない?」とも言わんばかりの表情である。
「『園芸委員』って小説だ。友達ができない子が、ある言葉をきっかけに友達を作る王道のストーリー。その言葉を愚痴にすることで、生々しさとリアルさを追求した」
ふふんっと上機嫌な彼女。今、優月先生がいないからこんなことが言えるんだろう。でも、王道は「あのアニメよかったな…」とかプラスだけど、「あいつマジ嫌い!」とかの愚痴にすることで、リアルになる…一理どころか、十理ある。
そう言いながら教室につく。
「近藤さーん」
近藤梨沙と思わしき子が来た。
「はい、なんですか」
「悩み委員会が来た」
「はい、そちらに依頼させていただいた近藤梨沙です」
「そうだ。僕も転校生になって、あまりクラスに馴染めていない。僕と境遇が似ているから、今回は僕が担当した。小説は好きか」
「好きです!いつも読んでます」
話が早い、と言わんばかりの笑顔。
「僕は小説を通して悩みを解決したいんだ。この小説、読んでほしい」
わかりました、と梨沙はルーズリーフに目を通した。心葉の字は薄いが綺麗である。
10分ほど経ち、「読めました」
「えっと。すごくありきたりだけど、なんか違う感じです。私もこんなふうになりたいです」
「だろう」
心葉は得意げに言った。
「僕は、何かしたら何かなるっていうことを伝えたいんだ。いつも受け身だったら、絶対ではないけど、あんまり何かなるとは思わない。何か、ちょっとだけでも、この梨乃みたいに、愚痴とかでもいいから何か話してみる。そしたら、絶対に誰かと話すことができる。そう思うんだ。
本当は、友達を作らなくていいんじゃない?って言いたいところなんだが、集団生活が重視される学校生活では好ましくない。2人1組を作れとか、奇数人クラスではしんどいだろう。そういうときに、1人ぐらい相棒がいたらいいと思うんだ。僕は転校生だから、君の気持ちは痛いほどわかる」
そう話して、心葉は苦笑いを浮かべた。
「こう長々と話しておいてはなんだが、僕もまだ相棒といえる人はいない」
「えっ!」
思わず声を上げてしまう。
いや、だって、わたしと心葉、相棒じゃないの?
「自分じゃないの、と言いたいんだろう。大橋には足立がいるじゃないか」
…ああ、そうだったっけ。すっかり忘れてた。
「まあ、男女別と言われたら大橋と組むが。なんにせよ、今、僕も同じ状況にある。お互い頑張ろう」
「はい!」
そう言った梨沙はルーズリーフを抱え、自分の席へ戻っていった。
「あれ、小説は」
「コピーしておいた」
用意周到すぎるでしょ。
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小説を渡し終わった後も、心葉はせっせと小説を書き進めていた。
「なあ、なんであいつあんなに書けんの?」
「いや、あんたとは次元が違うでしょ。好みの問題よ。あんたはサッカー好きだけど、彼女は嫌がるでしょ?でもそれを、あんたは楽しいと言う。それと同類」
「はあ…」
ばつが悪そうにしている宙を横目に、わたしは教室に向かって早歩きをした。
作中の小説 https://tanpen.net/novel/9788497a-2bb9-4d30-a2c9-f4c5d26fe56a/