公開中
思い出・恋バナ
ハイリスクレッド
ショート・ショートストーリー✍ 23
思い出・恋バナ。
私の名前は、ミツキ。
私の祖母の名前は、ミホコ。
そして、このお話しは私の祖母(ミホコ)の思い出の恋バナです。
ミホコ、20歳の時から始まるお話しです。
そもそもこのお話しが何故、祖母から聞けたのかと言うと、昨年末地元のスーパーマーケットの福引きで1等の信州温泉旅行ペア招待券が当たった事に発します。
本来は、祖父母で温泉旅行へ行くはずだったのですが旅行出発の数日前に祖父が庭で転んで捻挫して湿布と包帯ぐるぐる巻で活動が不自由になったので旅行をキャンセルするのは勿体ないからと孫の私が祖母に同行する事になったからでした。
信州で国宝のお城を見て、温泉に浸かって、美味しい料理を食べて、また温泉に浸かって、まったりといい感じになって私がボソッと呟いた一言でした。
おばあちゃんとおじいちゃんの馴れ初めって何だったの?
祖母(ミホコ)曰く。
それは、今から47年前、携帯電話やスマートフォンどころかまだまだインターネットさえも普及していない時代のお話しね。
私は関西地区の H 県の A 市に住んでいます。
もちろん家族も祖父母も同じ所に住んでいます。
☆
ミホコは、A市の高校を卒業すると同じ H 県 の K 市の大学へ進学したのです。
その大学時代、20歳の時に恋をしたのでした。
お相手は同じ大学の同期生でした。
ただ同期生といえど、学部がまったく違っていて共通学科の授業中にただ淡く憧れて恋しく見つめていただけで直接話しかけたこともなかったのです。
ワイルドな見た目がカッコよくて、自然とセクシーさを感じさせる仕草や動作が素敵な男子だったと。
そんなワイルドセクシー男子の名前は、タツキ。
その、タツキにはいつも彼女だとか恋人だとか言われる女子がいるばかりか彼の周りには複数の女子達が取り巻いていたのでした。
ミホコには彼の周りを取り巻いている女子達が艶やかでキラキラとしている様に見えてさらに近づく事が躊躇われました。
そんな状況ままで大学の卒業式を迎えることになったのです。
ミホコは卒業式当日、意を決してせめて思い出に彼と、タツキと写真を撮りたいと、叶うならばツーショットを撮りたいと式典を終え帰宅につく彼を学校正門で待ち伏せをしました。
そしてついに彼に声を掛け話しかけ写真を、ツーショット写真を撮りに成功して出来上がりの写真を後日送りますとタツキの自宅(実家)の住所を聞き出したのでした。
今の時代ってインターネットで送るとかスマートフォンで送るなんて、簡単だけど簡単過ぎるのもなんだか味気無いなぁって、私思いました。
意を決して撮ったツーショット写真が出来上がり、1ヶ月と少し経った頃、ミホコは彼に、タツキに手紙を書きました。
『 卒業式の写真、直接お渡ししたいので可能ならばご連絡ください、自宅の電話番号を記しております 』と。
そう携帯電話やスマートフォンの無い時代、自宅に1台しかない電話…本人が出てくれるとは限らない家電「もしもし、〇〇さんのお宅でしょうか?わたくし〇〇と申します、恐れ入りますが〇〇さんをお願い致します 」から始まる家電。
今時の私たちにはとうてい発する事の出来ない長台詞ですよね。
そして、タツキから連絡が、電話が掛かってきたのです。
タツキは快くミホコの申し出でを受け入れてくれ、再会を約束してくれました。
この頃のタツキの自宅(実家)は、中国地区の O 県 K市でした。
約束の日、再会し、一日を過ごし卒業式の写真を手渡しミホコはタツキの左の薬指の指輪の有る無しを確認したのでした。
大学時代のタツキの左の薬指には常に煌めく指輪が有ることが有名だったです。
彼女と彼氏、恋人同士が、左の薬指に、ペアリングをするなんて珍しい時代でもあったのです。
それから数日後、ミホコは再びタツキに手紙をしたため再び共に一日を過ごし、徐ろに彼に問うたのでした。
指輪…して無いのですね?
あぁ、少し前にフラれちゃったんだよね…
そう言いながらタツキは左手をジーンズのポケットに突っ込み二つの指輪を取り出し手のひらに乗せ見せながら話しを続けました。
彼女から最後のお願いだって、コレ海へ投げてくれって…けどなんだか踏ん切りがつかなくてさ。
その言葉を聞いたミホコは心の中である決意をして三度目の会う約束をしたのです。
そして、三度目の日の一日が終わりかけた時、ミホコはタツキにひとつ提案しました。
夕陽、見に行かない?
彼はその提案を快諾し、ミホコの案内通りに夕陽が美しいと言われる海岸へ向かったのでした。
海岸の岩場に二人並んで腰を下ろしました。
彼は無言で夕陽に顔向けていました。ミホコはそのタツキの横顔に視線を向け、しばらく時間が経った頃、ミホコはタツキの前に立つと静かに徐ろに自分の唇をタツキの唇に重ねます。
数秒後、唇を離すと呆気にとられた顔のタツキの瞳を見つめてミホコは呟いたのです。
私じゃ駄目ですか…?
えっ…?
答えに窮するタツキ、そんな彼のジーンズのポケットにミホコは手を突っ込み二つの指輪を掴み出し海岸の波打ち際で駆けると、海へ向かって腕を振りました。
さほど遠くではなかったけれど、二つの指輪は空に舞い海の中へ底へ沈んでいったのでした。
ミホコが波打ち際で振り返ると、タツキは呆然と立ち尽くしていました。
呆然と立ち尽くす彼に向かってミホコは駆け戻りタツキに抱きつき今度はしっかりと言葉にしたのです。
私じゃ駄目ですか?!
あなたの傍にいるのは、私じゃ駄目ですか!
すると彼はそっと優しくミホコを抱きしめて呟いたのです。
ありがとう。ごめんな、気使わせて、へんなこと頑張らせちゃって。
俺なんかで良いんなら傍にいてください。
そして、この日から二人の、ミホコとタツキの、お付き合いが始まったのでした。
しかし、この時代の中国地区の O県 K市と関西地区の H県 A市ではプチ遠距離恋愛ではありました。まだまだ高速道路も整備されて無く国鉄という電車の運行数も多く無く携帯電話やスマートフォンどころかインターネットさえも普及してなく連絡さえも簡単ではなかったのでした。
さらに働き方改革なんて発想も無く週休二日でも無く徹夜残業上等の時代でした。
ひと月に一日のデートをして、ただ互いに恋しい人を信じ合い次のデートを約束し待つ。
それでも、ミホコとタツキは三度目のバレンタインデーを迎えデートを楽しみ、またひと月後のホワイトデーのデートを約束し、当日を楽しく過ごしました。
この頃には、二人で過ごした時間、積み上げてきた想いの上に年齢的にも機は熟したのではと、ミホコはある期待を持ち始めていました。
しかし、そんな期待とはうらはらにタツキからの連絡が絶える様になりミホコはタツキを心配しました。病気か怪我か、やむにやまれぬ事情が起きたのか…
そんな、ミホコの元へ手紙が届きます。
『 ミホコ様 先ずは、手紙で申し訳ありません。やむを得ず結婚をする事になりました。本当に、ごめん、もう君とは会えません。
君と過ごした時間に感謝します。ありがとうございました。 タツキ 』
ミホコは、怒りと失望で悲しみの底へと沈みました。
しかし、少しずつ時間が経つにつれ気持ちを整理し冷静に考え直す様になりました。
大学時代に恋した彼、常に彼女だとか恋人だとか言われる女子がいて周りには複数の艶やかなキラキラした女子達がいた彼、例え自分と彼が恋人同士になったとしてもきっと会えない時間で愛を育てきれなかった隙に付け入る艶やかでキラキラした女性達がいたのだろうと。
そんな失意から一年後、ワイルドでもそれほどカッコよくもなくセクシーさも感じ無いけれども、素朴で誠実な男性、職場で出会った男性の求婚を受け入れました。
☆
それが、おじいちゃん。おばあちゃんの旦那さまよ。
なんだかスゴい恋愛してたんだね、おばあちゃんって…
その彼、タツキさんに会ってみたいって思う?
全然思わないわ、例え今でもワイルドでカッコよくてセクシーさ感じさせてくれても、きっと好きにはならないと思うし。
お話しは、これでお終いです。