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意外と大変だった平安時代
Mが呼びかけると、君たちは一斉に顔をあげる。
「ここが平安京だ。|鳴《7》|く《9》|よ《4》うぐいす平安京、でおなじみだね。」
碁盤の目のように規則正しく区画されている。
風流を感じさせるような優雅さがそこにあった。
「このころ、坂上田村麻呂が活躍していた。征夷大将軍に任命されたんだ。」
征夷大将軍とは軍事、つまり戦いの最高司令官である。
「アルテイなどの蝦夷、今の東北地方あたりの人たちを降伏させた。」
「これによって勢力をさらに拡大し、力をつけていったんだ。」
でも、とMは続ける。景色が変わってなにかから逃げようとする人が現れる。
「人々の生活はどんどん苦しくなっていった。」
とある家では戸籍の偽り、また別の家はもぬけの殻だった。
どの家にも共通しているのは、何かに怯えていること。
「租調庸は覚えてるかな?」
それは国民に課された税であり、男性の方が負担が大きいものだった。
「民の負担は増えていった、この状況から脱却したいと思った人たちが多くいた。」
「だから、男性なのに女性だと戸籍を偽ったり、遠い土地へ逃げたりする人がいたんだ。」
Mはささやくように言った。
「そんな苦しい状況のときってさ、藁にもすがるような感じだよね。」
寺の鐘の音が聞こえる。ぼーん、と落ち着く心地よい音だ。
「そのときに、2人の僧が現れた。最澄と空海だ。」
「最澄は天台宗、空海は真言宗を広めた。天才がつくった真空パック、で覚えるといいよ。」
「でも、それらを信仰していたのは皇族や貴族みたいな上の階級の人達。」
不思議だよね、と笑いながら言う。
「そして、このあとにとある貴族が勢力を広げる。」
『この世とば わが世とぞ思う 望月の 欠けたることも 無しと思えば』
「藤原氏の登場だ。摂関政治で政治の実権を握ったんだ。」
摂関とは摂政と関白のこと。どちらも天皇を補佐する役職である。
「藤原道長と藤原頼通のときに全盛期を迎えた。」
世はまさに、藤原の時代だったのだ。
「そして、国が乱れていったのもこの時期だった。」
税制が租調庸でなくなったためか律令国家が乱れ、
地方の政治を国司にまかせていたため、地方政治が乱れた。
「光があれば影がある、ってことだね。」
「でも、良い文化があったことには変わりない。見ていこうか。」
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「このころ、唐の力が衰えていた。だから遣唐使が廃止されたんだ。」
菅原道真、学問の神として祀られている彼が、声を上げたことで検討された。
―――決して、遣唐使と検討をかけたダジャレではない。
「そうやって、文化の日本化が進んでいった。その結果、国風文化が生まれた。」
唐にならいつつも、日本人にあった文化として知られている。
Mが手を叩くと、大きな屋敷が見えた。
「寝殿造、っていうんだ。ここに貴族たちが住んでいたんだよ。」
屋敷の中で、念仏を唱えている人物がいた。
「浄土信仰だね、念仏を唱えて阿弥陀如来にすがるものだ。」
「むこうに見えるのが10円玉でおなじみの平等院鳳凰堂だよ。」
極楽浄土へ生まれ変わりたい、その一心で念仏を唱えている。
「まあ、僕は来世じゃなくて、今がんばりたいけどね。」
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「ひらがなやカタカナなどの仮名文字、が使われたのも平安時代なんだ。」
古今和歌集や源氏物語、枕草子などの有名な作品が生まれたのだ。
国語で習う人も多いのだろう、みな頷いている。
「大和絵や年中行事が生まれたのもこの時代だね。」
少しずつ現代に近づいているような、そうでないような感覚。
歴史の軌跡をなぞるのもそう悪くない。
そう思う君たちだった。