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EP3 スライムのゼリーケーキ 〜甘美なる風味〜
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「そろそろ従業員増やしませんか?あたし一人で厨房回すのいい加減キツイんですが。」
レイは常連のキャメロンが帰り、雨が上がりかけた頃、ジョンにこう話を切り出した。
ジョンは棚の上に埃が溜まっていないか点検していたところであったが、レイの声に振り返る。
「ふむ、そうですね。レイさんの言うとおり人を雇った方がいいかも知れませんね。求人を出しましょうか。」
意外にすんなりと受け入れられて、レイは少し肩透かしを食らった気分であった。
「いいんですか!?」
するとその様子を見ていたカレシスプとヴィアン、そして端っこの席で店からのおごりの『魔女の秘薬を使ったガトーショコラ』を食べていたクロードが話に参加した。
「新しい従業員を雇うゥ?マジでエ?どーせまたすぐ辞めンだろ」
イヤホンで音楽を聴きながらそう言い捨てるカレシスプ。
「今回のことがまた起きるのも大変ですしね〜。でも今まで一日で辞めた方は〜…えっと〜…ざっと20人ほどだね〜」
メモ帳をパラパラとめくりながらそう言い放つヴィアン。
「もぐもぐ……ほほひはあいほんあうおーうひおあいあうあえ?(この田舎にそんな都合よく人が来ますかね?)」
何を言っているのかあまり聞き取れないクロード。
なんとも言えない空気がレストラン内に立ち込める。
しかしジョンは笑みを崩さないままあるものを取り出す。
「はい、皆さんで求人ポスターを貼りにいきましょう!」
そうしてポスターをレイ、カレシスプ、ヴィアンに手渡す。
あまりにも量が多いので、渡された時にドサリと音がした。
「えぇ!?私たちが行くんですか!?」
「お前…オーナーは行かねえのかよ!!?」
「わ〜大量だぁ〜!しかも前に作ったやつの使い回しだ〜!」
ジョンはニコリと笑って言い訳をする。
「仕方ないじゃないですかぁ〜お客様がまだいらっしゃいますものねぇ」
そうしてクロードに軽く会釈する。
「あ、じゃあ私もう帰りますよ。」
「え。」
クロードは支払いを済ませて颯爽と帰っていった。
「おい、オーナー。」
三人の冷たい視線が引き攣った笑みのジョンに降り注ぐ。
こうして四人は一旦店じまいをして、それぞれ張り出し場所の担当を振り分けた後、ポスターを貼り出しに外に出た。
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以前使っていた求人をそのままの形で壁に張り出していく。
たがここは田舎町、かつ魔法が使える人材であることが絶対条件であるため、すぐには人が来ないことを承知し、ジョンは同時にちょうど良い人材がいないか街を練り歩いて探すことにした。
空は快晴である。大雨が去った後はいつも爽やかで清々しい大空になる。
レストラン デリージュのあるライという街はのどかな港町であり、店に続く陰気な路地裏を出るとあっという間に別世界だ。
潮風の香りが花の香りと混ざって唯一無二のフレグランスとなり、ウミネコの影が頭上を飛び交い、えんじ色やベージュのカラフルな小石が敷き詰められた地面が視界の向こうまで続いている。
そんなフォトジェニックな街の中をしばらく歩いていると、何やら催し物が行われている広場に辿り着いた。
人だかりのある方をよく見てみると『スイーツフェスティバル』と書かれている。
「スイーツ、いいですね。」
ジョンは甘い香りに|誘《いざな》われるミツバチのように人だかりの方へと歩いて行った。
「いらっしゃいませ〜」
「焼きバナナあるヨォぉお!」
「こちらで販売しているのがかの有名な〜」
皆口々に店の宣伝をしている。
通りすがる人々も両手に甘そうなお菓子を抱えて楽しそうな笑顔を浮かべている。
「私も一ついただきましょう。」
そう思って寄った店はカップケーキを売っている『ハピネス・イーツ』という野外スイーツ店だった。
ミントグリーン屋根と花の装飾が印象的である。
「失礼、この『あまあまりんごシュガシュガスライムのちょーかわゼリーケーキ』を頂けますでしょうか。」
この無駄に長く、言うのも憚られるような商品名をジョンは噛むことも恥じらうこともなく、微笑みながらさらりと言う。
その様子を見て店員の少女は少しギョッとした様子であったが
「わかりました。ゼリーケーキを一つでよろしいですね?」
そう言って笑顔で注文を確認する。
ジョンは単にゼリーケーキと言えばよかったことにやっと気がつき少し複雑な気持ちになったが、微笑みを崩さないまま少女に向かって頷いた。
「ええ、よろしくおねがいします。」
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受け取ったカップケーキは、表面がまるで海のように美しい青色をしていて透き通っていた。
一口食べるとほのかなりんごの甘みがふわりと広がり、みずみずしいゼリーが口の中でピチピチと踊り出す。
中に入っているレアチーズケーキのやさしい酸味が、ゼリーの甘みを柔らかな口当たりにする。
このケーキを食べた瞬間、彼の脳には電流が走った。
「こ、これは………是非シェフを呼んで礼をしたい…!」
独り言をぶつぶつと言って、周りから不審がられていることにも気が付かず、ジョンは出店に戻り店員の少女に声をかける。
「このケーキをお作りになられたのは貴方でしょうか?」
先ほど担当してくれた少女に向かって、『レストランデリージュオーナー ジョン・リドゥル』とだけ書かれた至極シンプルなデザインの名刺を差し出す。
「私、この街でレストランを営んでおります。ジョン・リドゥルと申します。」
名刺を差し出された少女は困惑した表情を見せたが、出店の奥を指さしてこう言った。
「このケーキを作ったのはあの子ですよ。」
少女の指の先にいた別の少女、左は金色、右はミントグリーンのツートンカラーのクラゲのようなハーフツインの髪でロリータ服を着ていた、は泡立て器を持って、きょとんとした顔で立っていた。
「はい、なのね?」
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「突然のことで申し訳ありませんが、もしよろしければ私が経営するレストランのパティシエになっていただけませんでしょうか?」
「はわ……?」
ジョンの突然の言葉にアリスティアは困惑して言葉を失った。
頭の中をクエスチョンマークが埋め尽くしているようだ。
そんな彼女の様子には気が付かず、ジョンは構わず話を続ける。
「私が経営するレストランは全従業員が魔法使いなのですが、」
「え、魔法使い…なのね?」
「ただいま料理人の人手が足りず、」
「人手不足…?」
「先ほどのスウィーツのお味がとても言葉では表せないほど素晴らしく、」
「はい…なのね…」
「是非、当店のパティシエになっていただきたいのです。それにこの香り、きっとあなたはそうなのでしょう?」
「そう、って何がなの…?」
ジョンはマシンガントークに目を回している様子のアリスティアに気がつき少し会話を止めた。
「申し訳ありません。少々饒舌になってしまいました。」
アリスティアは少しの間うーんと考え込んでから、口を開いた。
「まずは…知らないことにはなんとも…言えないのね」
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ジョンとアリスティアがレストランに戻った時には、すでに他のメンバーは揃っていた。
「え!?調理係が増えたって本当ですか?信じがたい!」
レイは今日のできごとを告げられると、嬉しさ半分懐疑半分の表情で思わずジョンを睨みつけた。
「はいもちろんです。私が嘘をついたことがありましたか?」
「いえ、違いますなのね。」
アリスティアが即座に否定すると、レイはさらに険しい表情でジョンを見た。
「どうも、ごきげんようなのね、アリスティア・シフォンテーヌと言いますのね。まだここで働くとは決まっていないけど少し様子を見せてもらってから…」
そう言って初めてアリスティアは店内を見渡した。
店内には豪奢なシャンデリア、隅々まで磨かれた滑らかなフローリング。落ち着く雰囲気の家具や小物たち。
「私…こんな素敵なところで働いても、いいのかしらね…?」
店内の息を呑む美しさに圧倒されているアリスティアの後ろで静かに頷くジョン。
「ようこそおいでくださいました。今日からあなたは当店の専属パティシエでございます。」
半ば無理矢理にアリスティアを迎え入れたオーナーは、いつもの貼り付けたような微笑みを浮かべた。
古株のメンバーも快く迎え入れてくれた。
「アリスティア、これからよろしく。気兼ねなく先輩に頼ってくれて大丈夫だからね!」
「まァ、よろしくな。__はぁァ〜〜、今度はどの期間もつか…__」
「アリスティア・シフォンテーヌさんですね〜しかとメモに書き付けました〜よろしくお願いします〜!」
「これから…よろしくお願いします、なの!」
彼女は知らなかった。
この決断がのちに彼女の身に何をもたらすのかを_
<キャラ原案>
アリスティア・シフォンテーヌ(パティシエ)_抹茶餅さん
ありがとうございます!