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絶対に、叶わない。
僕は最近自覚した。
あいつ、|マーダー《幻覚野郎》が好きなのではないか、と。
いや、まだあくまでも仮定だ。確定なわけじゃない。ハナから恋愛感情なんて持つつもりは無かったし、友情も無かったと思う。それなのに、どうしてこんな事を思ってしまったんだろう。
自分でも疑問だ。最初っからずっとEXP集めの邪魔だったし、何より性格が合わない。澄ました顔で僕の事を煽ったり見下したり・・・あぁ、思い出すと少し不快になる。
でも、それでも・・・いつものその澄まし顔が、崩れた時。昔を思い出した時、とか。そんな時は、脆くてすぐ何処かへ消えて行ってしまいそうな|王女様《プリンセス》の様で。あいつだって僕と同じで、たくさんの|同族《モンスター》を殺して来た。罪の意識がある事だって、たくさん殺した僕なら分かる。分かってあげられる。
・・・僕には寄り添う事なんて出来やしないけど。
僕だって、本当は支えてあげたい。ただ見過ごすなんてしたくない。
でも、いつだって、そんな時に支えるのはホラーかボス、他の|仲間達《闇AU》だった。
二人が嫌いな訳じゃない。むしろ、|幻覚野郎《マーダー》と比べれば仲が良かった・・・と思う。__・・・ボスは、仲が良いとは言い辛いけども。__
何か、胸がもやっとする。言葉には表せない。けども、凄く、気分が悪い・・・。ソウルがぐちゃぐちゃに弄られてるみたいだ。
今日も、僕はこの気持ちを隠す。バレたらきっと笑われてしまうし、何より僕はあいつを嫌ってた。それが変化してしまったなんて、軽い奴だと思われてしまう。
クロス「ああ、先輩、おはようございます。」
いつもの様に笑い掛けて来たクロス。対して仲良くも無いけど、後輩だしイジりがいがあるから関わっている。
キラー「異物君おはよ〜。」
クロス「はあ、いい加減その呼び方止めてくださいよ・・・。」
少し呆れて直す気も無いと分かっている様に言った。やっぱりイジるのは楽しいな〜。
キラー「止めないけど〜?それより、朝ご飯もう出来てるよね?」
クロス「はいはい・・・。出来てますから、食べておいてください。」
怒ったような声で言われた。これ以上触れれば流石に・・・。そう考えて、僕は大人しくダイニングに向かった。
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ホラー「ん・・・キラー、おはよう!」
キラー「おはよ〜。あ、美味しそうじゃん!それじゃいただきま〜す!」
誰にも察せない様に平然を装いつつ、すぐ食べ始める。誰とも目が合わない。まず、合わせる気も無いってのが本当だけど。
まあ、どうせバレないでしょ、と鷹を括っている。
だが。
エラー「・・・気ノセいか知らナいが、何か急いでなイか?」
平然を装っているとしても、バレてしまう事はあるらしい。
キラー「え?い、いやぁ・・・。早く|EXPが欲しい《モンスターを殺したい》から、ちょっと急いでるんだよね!」
ホラー「本当か?」
エラーに言われホラーに言われ・・・。この話題から逃げようと、まだ結構残ってるご飯をガッとかきこんで、ちゃんとごちそうさままで言ってからダイニングから出て行った。
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キラー「バレてないかなぁ・・・。」
と憂いたのも束の間、食べたまま皿を放置していた事を思い出した。後でクロスに怒られる・・・けども、今はそんな事気にしてたらさっきの二人に問い詰められてしまう。
早歩きで廊下をツカツカと歩いていると、ボスの部屋から何か声が聞こえて来る。よく耳を澄まして聞いてみれば、何か怒っている様なボスの声が聞こえて来た。
ナイトメア『はぁ・・・何回も言っているだろう?そんな体で無理するな、と・・・。』
言葉の通り繰り返しているのか、ボスも随分呆れた声だった。怒られてる奴も随分堪えているものだ・・・と思ったが、今さっきのダイニングの状況から考えてみると、クロスは家事をしていて、ホラーとエラーは朝ご飯。怒られているのが誰なのかは明白な事だ。
キラー「__マーダー、怒られてるのかぁ・・・。__」
ドアに手をついて耳・・・スケルトンに耳は無いけど、聞こえやすい様にドアに当てて、会話を盗み聞きしていた僕は、何故だか悲しそうな声が弱くぽつりと出て来た。
キラー「はあぁ・・・。」
どうしようもなくため息が出る。事態が分かってちょっと安心したかよく分からないけど、背中にドアを当てて、そのままズルズルと床まで降りて座り込む。
何回かドアに耳を当ててみたけど、大体無音かボスの声。マーダーは黙りこくってどうしたいのだろうか。
しばらく聞いていたら、こっちに向かって来る様な音・・・足音が聞こえた。もしやバレた・・・?そう考えている間にも、どんどん足音は近付いてくる。口元を音を立てない様に手で覆って、なるべく動かないでいる。足音に少し怯えてしまうが・・・ボスならやりそうだな、とも思った。
ついにドアの近くまで来てしまったのか、聞こえていた足音が止まった。
ガタッと音を立てて、ドアが開く。
ナイトメア「お前のカバーが足りないそうだが・・・どうなんだ?キラー。」
キラー「はぁ、ボスにはバレてたよなぁ・・・。」
もう全部を諦めて、投げ出して言った。どうせあの性悪タコの事だ、最初から普通にバレていたと思う。
部屋の中が目に入る。いつもの高そうな室内に、ポケットに手を突っ込んでこちらを睨む様に見つめるマーダー。あいつにこんな部屋合わないや、とか考えてしまった。
ナイトメア「・・・で、答えは?」
しばらく見ていたらそう言われた。確かに聞かれてたっけ、と思い出して話す。
キラー「僕のカバーが足りない、って話だよね?・・・全くそんな事は無いよ!|マーダー《幻覚野郎》がちゃんとやらないからじゃない?」
・・・《《また》》、悪態をついた。でも、バレたらイジられるし・・・。
マーダー「は?・・・元はと言えばお前が見付けられなかったからだろ。」
眉間に寄っている皺を一層深くさせて僕を睨むマーダー。心の内まで見透かされない様に目を逸らした。
キラー「そっちだって警戒してたのに?」
マーダー「あの時はお前が手持ち無沙汰だったからそいつもお前がやるべきだった。」
キラー「そんな事言ったって僕は後処理をね〜・・・。」
いつもの様に言い合いが始まった。本当は喧嘩したくも無いけど、この時だけはマーダーがこっちを真っ直ぐ見てくれる。
そんな感じの事を考えながら内容がまるで無い口喧嘩をしていたら、呆れたボスが口を挟んで来た。
ナイトメア「そう喧嘩をするな・・・。まず、俺はマーダーが無理しすぎる事に叱っているんだ。」
いつもあんな薄情なボスでさえも心配するくらいに無理をしているらしい。珍しいなぁ・・・。
ナイトメア「おいキラー、今失礼な事を考えただろ。」
キラー「チェッ、バレてたかぁ。プライバシーが守られてないじゃん。」
いつもの事ではあるんだけど、この調子で心が読まれてしまったら色々バレてしまうのを危惧して、自分の気を逸らした。
ナイトメア「それで、何故キラーは平然とここに残っている?」
キラー「え・・・ぼ、僕、いちゃいけなかった!?」
まさかそんな事を言われるとは思わず、凄く動揺してしまった。当事者なのにいちゃいけないってどういう事??
ナイトメア「当たり前だ。どうせ暇だから覗きに来たとかの理由だろう。・・・任務を受けるか、ここから出て行くか。選べ。」
キラー「どっちもほとんど同じじゃん・・・。じゃあ任務受けるから!どこ!?」
半分投げやりで答えた。本当に当事者なんだよね・・・僕?
ナイトメア「はあ・・・さっさと行って来い。」
そうボスが言うと、僕のちょうど下に沼?が現れて、それに飲み込まれる様に別のAUへと移動してしまった・・・。
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キラー「はぁーあ、本当にひどいなぁ・・・。」
そうボスへの愚痴を溢しながらも、このAUに居るモンスター達を蹂躙して行く。ストレス発散になるし、自分のLOVEも上がるから、これはこれでまた良い。
痛みを堪える声、僕に怯え叫ぶ声、恐怖に囚われ何も考えられなくなった声。そのどれもが、僕に楽しさを与えてくれる。
キラー「ここの奴等は後何人かな〜?」
辺りをさっと見回してみても、人の気一つ無い。地面に散らばった塵ばかりだ。
キラー「あれ、もう居ないのかぁ。つまんないの・・・。」
ブツブツと独り言を言いながらも、少しこのAUを観光してみる事にした。どうせボスにははぐらかせるし。
普通に考えてそうだとは思ったけど、僕が元々居た世界と大差無かった。思い返したくもない過去だけど・・・。
キラー「歩いて来ちゃったら疲れたなぁ・・・。」
そう言いつつも、とりあえず足は進める。本家とも特に違いが無いから、ここはATなんだろうな、とか、こんな所もあったっけ、とか考えながらも、普段中々出来ないAU観光を楽しんだ。
どれくらい経っただろうか。
初めにここに来た時はスノーフル辺りだったはずなのに、殺しながら来ていたら、いつの間にか最後の回廊辺りに来てしまった。
キラー「そろそろボスが迎えに来る頃だよね?」
疑問を抱きながらも待っていると、ここに来た時と同じ様に、沼からボスが出て来た。
ナイトメア「何道草を食っているんだ。」
いつものブスッとした顔にもっと眉間に皺が寄って、凄く機嫌が悪そうに見える。
キラー「僕だってたまには遊んで歩きたいんです〜・・・。」
どうでも良い理由だと思って聞いたのか、想定していた、という様にボスはため息をついた。
ナイトメア「とにかく、さっさと帰るぞ。」
キラー「はぁ〜い。」
適当に返事をすると、ボスは僕のパーカーのフードを雑に掴んで、またあの沼?に引きずりこまれて行った。
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ナイトメア「帰って来たぞ。」
クロス『あっ、先輩!?ちょっと手伝ってもらって・・・良いですか!?』
リビングのドア越しに聞こえるのは白黒君、クロスの声。凄く忙しそうで、焦っている様にも思える。
キラー「どうしたの異物君、そんな焦っちゃって〜・・・。」
そう言ってドアを開けると・・・。
エラー「そッチ、クロス!パスだ!」
クロス「はいっ・・・マーダー先輩!そろそろ焼けますよね!?」
マーダー「ああ、すぐだ。でもそろそろ食材が・・・。」
クロス「誰か買い出し行きましょう!ホラー先輩、どうぞっ!」
ホラー「もぐもぐもぐもぐ・・・。」
留守番(?)していた4人の内の3人は謎の連携を見せつつもホラーに餌付けして、ホラーは次々と前に出されるご飯を食べる・・・その繰り返し。
キラー「ごめん・・・状況説明お願いして良い?」
何が何だか、状況を読み込もうとしても全く飲み込めない。これ以上考えると頭がパンクしてしまいそうで、状況説明を頼んだ。
クロス「ええっと、ホラー先輩が急にお腹空いたって言い出して・・・その時から作り続けているんですが、いつまでたっても満腹にならず・・・。」
クロスがそこまで言った所で、ようやく全てを察せた。つまり、腹の減ったホラーの為にご飯を作ったけど、満腹にならず今も作り続けていると。
・・・僕がいない間、カオスだったんだなぁ・・・。
エラー「そロそろ本気で食材が無クナるぞ、誰か買い出シに行かせろ!」
エラーがそう言って思い出したのか、クロスとマーダーは顔を見合わせて少し悩む。少し経ったかと思えば、クロスが口を開いた。
クロス「そうだ、マーダー先輩とキラー先輩、買い出し行って来て下さい!」
ツッコミどころしかない事を言って、つい手・・・じゃなく、ナイフが出る所だった。
確かに、僕にとっては嬉しいし・・・でも、でも!!あいつとは常に喧嘩してるみたいなもんだし、不仲だって分かってるのにどうして僕がマーダーと??
そんな事をごちゃごちゃ考えてしまって、声を出さない様に抑えるので精一杯だ。
マーダー「・・・分かった。」
ついさっきまで沈黙を貫いていたマーダーが口を開いた。了承である。
クロス「は、・・・じゃあ行ってきてください!!お願いします!!」
まさか、クロスも了承が帰って来るとは思わなかったのか、少し動転しながらも僕達を送り出した。
一番驚いてるのは僕だってのに・・・。
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キラー「はあ、何でわざわざマーダーと行かなきゃいけないのかな・・・。」
隣のマーダーにも聞こえる声で言った。不満なのか、とでも言うように、こっちに視線をやるマーダー。
僕達は買い出しに、とあるAUまで来ている。ある程度賑わっていて、ボスの言う「ポジティブ」が多そうな所。
キラー「めんどくさいな・・・。」
ボソボソと口には出しつつも、心の内では確実に喜んでしまっている。だって横に居るマーダー、可愛いし格好良いし本当許せないよ・・・!!
マーダー「おい、何ぼーっとしてんだ。」
キラー「んぇっ・・・ちょ、ちょっと、急に声かけないでよ!」
や、ヤバい、変な声が出てしまった。こう思っている事がバレたくなくて声を荒げてしまった。少し警戒しながらもマーダーを見ると、きょとんとした顔をして僕の事を見ている。そしてその後にやけたかと思えば、
マーダー「くっ、ふふっ・・・。」
若干堪えながらも笑っている。その後、何かが瓦解したかの様に大笑いし始めた。
キラー「笑わないでよこの幻覚野郎!」
ナイフを構えて、笑わなくなるかと思いきや・・・。
マーダー「いやぁ?・・・これを|彼奴等《闇AU》に伝えたらどうなる事やらw」
不敵な笑みを浮かばせ、僕の事を嘲笑ったマーダー。悪魔の様で・・・何故だかとても可愛く、愛しく思える。
キラー「それだけは絶対止めてよね・・・。」
言ったのは冗談だと分かっているけど、念のため釘は刺しておいた。そうでもしないと恥ずか死ぬ・・・。
そんな感じで僕とマーダーは買い出しを続けた。ホラーが待っているにも関わらず、喧嘩も挟んじゃったからかなりの時間がかかってしまった。
でも、マーダーを独り占め出来たこの時間は、今まで過ごして来たどの時よりも有意義で、楽しかったと思う。
そして、アジトに帰りたくない。そうも思った。
急にって訳じゃない。何でかなんて分かってる・・・分かってるんだ。
マーダーを好きなのは僕だけじゃないんだから。僕だけのものには出来ないから。
僕達みんなマーダーの方を向いてるのに、マーダーは誰か一人にしか向いてくれない。
そう、ぐるぐる考えてしまって、
キラー「__意味分かんないや。__」
口から、一言溢れ落ちた。
マーダー「おい、今何か言ったか?」
聞かれてしまった、そう思ったけども、内容まではバレていなかった。
キラー「いや・・・何でもないよ。それより、早くアジト帰ろ?僕疲れちゃった。」
この恋心を押し込んで、いつもの僕を演じた。不審に思われたって仕方無いや。
マーダーは、僕の言葉にそうかよ、と答えて、アジトに繋がるポータルへさっさと入って行ってしまった。
キラー「はは・・・やっぱりマーダーには、絶対に、かなわないなぁ・・・。」
・・・これで良いんですかね。
まあ、これはキラー君の一方的片思いのものですね。マダさんは誰に対して恋愛感情を抱いているのか・・・そんなの分かりませんね()
最後の方とか無理やりで・・・本当に情けない。すみません。
後、最後の「かなわない」はわざと平仮名なんですよね。どっちと取っても良いじゃないですか、こう言うの。
という事で期間が長くなりましたがリクエストでした!
6150文字です!!