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焔凍不鉄-8
夏色だった風はもうとっくに冷え切って、紅葉や銀杏を落とすようになってしまった。
枯れ落ちた葉の中に魂が抜けたように倒れ込み、身を埋める。服に土や枯葉の残骸が張り付くが、そんな事気にするほど繊細じゃない。
柵に投げつけた本を手に取る。
神々、ふと何処か消えたる。
何になりけるか、人知る由もなし。
神祀りたる場所にありたる人達すらも、何ぞ知らぬと言いける。
有る人、「有名ですけど、どこにいるのかは分かりませんね」と言いたる。
また、他有る人「さあ、意外と近くで見守ってたりするんじゃない?」と言いたる。
事は誰も詳しく知らず、謎多き神々なり。
「っは……」
力無く、枯れるような声で笑った。
「菓子谷先輩…何があったんですか…!?」「何が」
帰路、瀬野が聞く。
「制服めちゃくちゃ汚れてますけど…落ち葉合戦でもしたんですか」
「高校生にもなってそんな事するわけねえだろ」
「それもそっか…中学ですらやらないですもんね…」
そう言いながらも菓子谷の背に付いた落ち葉を取りながら瀬野は着いていく。
「…そんくらい自分でできるわ、余計なお世話だけど礼だけ言っとくよ」
菓子谷は歩くスピードを上げた。
「あっちょっ、待っ…」
「オレ今日用事あるから神社行けねえ、じゃあな」
そう言うなり菓子谷は帰路から外れ、交差点の向こうに消えた。
風に剥がされた落ち葉の残骸だけが、妙にスローモーションで見えた。
「おかえり奏架…あれ、勇也は?」
神主弟が出迎える。
「ただいま、菓子谷先輩は用事あるらしくて先帰った。こっちからも聞かせて、兄貴は?」
「んーなんて言ったらいいかな…お前らで言う塾的な?」
「なるほど?」
石段に腰掛けた。
視力が悪いせいか意識がぼんやりしているせいか分からないが、見下ろした街がぼやけて見える。
少し前までは陽炎で歪んで見てたのにな、と過ぎる時の速さに舌を巻く。中3の受験期来んな、ずっとこのままで居させろ。心の中で静かに願った。
夏を捨て切った風が吹く。
「うーっ寒っ…そろそろ半袖引退した方がいいかな…」
寒さに鳥肌を立てた。
「当たり前だよ馬鹿野郎。風邪引いたらどうすんだ、彼女といちゃつけなくなるぞ?」
そう言って神主弟はトランペットケースを指差し、揶揄うようににやにやする。
「それはやべえ…半袖引退しよ!!」
瀬野はトランペットケースを抱き抱える手をきゅっと強めた。