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懺悔室の告白
少し閉鎖的な空間で聖書を開きながら、誰かの訪れを待っている。
私がこの館の司祭を務めるようになって、もう十年になっていた。
今日もまた、夜の闇に紛れて、一人の哀れな魂が懺悔に訪れるが、今夜の訪問者はいつもと少し毛色が違うようだ。
|日村《ひむら》|修《おさむ》、探偵を名乗る男だ。
彼は、この神聖な懺悔室の敷居を跨ぐやいなや、私に向かって深い緑の瞳でにこりと笑みかけた。
その笑顔は、信仰心とはかけ離れた、まるで子供が新しい玩具を見つけたような無邪気さを含んでいた。
隣には、常に彼に小言を言い、やや論破を試みているらしい助手、|和戸《わと》|涼《りょう》の姿もある。
彼は、形式的な敬虔さを装いつつも、その実、日村の奇行を内心冷ややかに見つめているのが透けて見える。
私は、彼らを迎えるにあたり、いつものように深々とフードを被り、顔を隠した。
何しろ、私が“聖職者”としてここにいること自体が、最大の偽りなのだから。
「こんばんは、司祭様」
日村は低く男のようで、抑揚のない声で言った。
「今夜は懺悔ではなく、少しばかり《《死》》についてのお話を伺いたくて」
私は内心、冷や汗をかいた。この男、どこまで知っている?
「……ここは、神に罪を告白し、許しを乞う場所です。そのような世俗的なお話は、他所でなされるべきでしょう」
私は低く、威厳のある声を装って答えた。すると、和戸がすかさず口を挟んだ。
「司祭様、彼はいつもこうで…すみません。ただ、彼の『死体ごっこ』の趣味が、今回の事件解決に役立つかもしれないと思いまして…」
「死体ごっこ?」
私は声を荒らげないよう、努めて冷静を装った。
「それは、冒涜的な……」
「ええ、その通りです。司祭様」
日村は私の言葉を遮り、楽しそうに言葉続けた。
「私は昨日、美しい《《死》》を体験しました。
完璧な密室、完璧な毒物、完璧な偽装工作…それはもう、芸術的でしたよ。
犯人の緻密な計画性には、心底のところ感銘を受けました」
私の心臓が早鐘を打つ。昨日。密室。毒物。偽装。全てが、私が仕組んだあの男の殺害状況と一致していた。
日村は、不意に懺悔室の小さな窓から身を乗り出し、私を見つめた。
「犯人は、きっとこの『館』の内部事情に精通している人物でしょう。
教会の裏口の鍵の場所、礼拝堂の隠し通路、司祭様しか知らないはずの秘密まで利用している」
日村のあまりにも急な迫りように和戸がため息をついた。
「日村さん、いきなり核心に迫りすぎです。司祭様も困惑されています」
私は、震える声で尋ねた。
「……なぜ、私が知っていると?」
「簡単な話です」
日村は、まるで舞台役者のように身振りを加えた。
「犯人は、自らが聖職者であるかのように振る舞うことで、事件現場となった部屋への出入りを容易にしていた。
そして、決定的な証拠は…これでしょうか」
彼は、懐から小さな銀の|十字架《ロザリオ》を取り出した。
見覚えのあるものだった。私が慌てて処分し忘れた、唯一の遺留品。
「これは、被害者のものではありませんでした。司祭様、これは貴方のものでしょう?」
日村は、挑戦的な笑みを浮かべた。それがまるで、地獄で嘲笑う悪魔のようだった。
「貴方は、神の名の下に裁きを下したつもりでしょうが、私にとっては最高の《《趣味》》の舞台提供者です」
私は、もう聖職者の仮面を被り続けることはできなかった。全てを見透かされた敗北感と、奇妙な高揚感が入り混じる。
日村は更に言葉を続けた。
「被害者は、貴方の過去の不正を知っていた。貴方は、教会の権威を守るため、彼を亡き者にした。違いますか?」
和戸は、日村の完璧な推理を聞きながら、「司祭様、もう良いのではありませんか?」と、とどめの一言を浴びせた。
私は、もはや逃れられないことを悟り、静かにフードを下ろした。
「……私の負けです。しかし、どうやってそこまで?」
日村は満足そうに微笑み、私の|十字架《ロザリオ》に触れながら応えた。
「犯人目線で、完璧に《《死》》を演じてみたら、貴方が隠したかった《《祈り》》の声が聞こえてきたんですよ」
静かな懺悔室に、彼の奇妙な笑い声と、和戸の冷ややかなため息だけが響き渡った。
これが聖職者パロ()