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この青空の下で、
※注意※
やや過激な描写を含みます。
「みさとー帰ろー」
「うん」
ごく普通の学校。ごく普通のクラスメート。ごく平凡な毎日。
「でさー、私思わず吹いちゃって」
「えーマジかwwウケるーww」
友達とくだらない会話で笑えるような、そんなありふれた生活、ごく普通の生活。
錦川美知、は、ごく普通の中学生。
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「そんときはマジ気まずかったー」
「ふはは」
後ろから足音が聞こえた。ぺた、ぺたとした、独特な音。
私には、それが佐伯ひろむのものだと気づくのに数秒とかからなかった。
佐伯ひろむは私の横を通り過ぎていった。
私はしばらくの間、彼女の背中を眺めていた。
その酷い猫背は、今までに彼女に起こった悲劇を物語っているようだった。
かわいそー。私は心の中でそうつぶやき、あかりとの会話に意識をもどした。
「みさと、今日やけにぼんやりしてるねー」
「え、そうかな」
「部活で疲れたからかも」
「あー、なる」
彼女の話し声は、すべて左耳から右耳へと流れていった。
十分後。私はバス停で彼女と別れ、予備校へ向かった。
楽しい時間はここまで。
バスに乗っている間、私の頭の中は空っぽだった。
予備校での授業は退屈だった。
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家についた。ドアを開けると、いつも通り母親がキッチンに立っていた。
「おかえり美知ちゃん。今日、学校どうだった?」
「休み時間は高島さんと話したよ。」
私は嘘をついた。高島さんは、つねに成績学年トップのガリ勉だ。
すると母親は、途端に顔色を変えてこう言った。
「高島さんに話しかけてもらったのね〜!あんたみたいな落ちこぼれが話しかけてもらっているだけ感謝しなさい。もう夕飯できたから、早く勉強の準備しなさいよ。」
私は予備校の教材を広げ、勉強し始めた。
・・・私はいつまで母親に縛られるのだろうか。いつまで優等生でいなければならないのか。
正直、この生活に嫌気がさしていた。
私は、ケアレスミスを直すと、ノートの隅に鎖にしばられる女の子の絵を描いた。
そして、その上に小さく、こう書いた。
「らくになりたい」と。
母親が階段を昇ってくる音がした。
私は咄嗟に落書きを指で隠し、勉強に集中するふりをした。
母親はその様子を見て安心したのか、機嫌よく「夕飯よ」とスープを置き、階段を降っていった。
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ベットに入り、スマホの電源を入れた。寝るまえの唯一の気休めだ。
開くと、グループラインからの通知が溜まっていた。
「やばすぎw」「えまじ佐伯かわいそーww」スクロールすると、一本の動画があった。
私は再生ボタンを押した。
それには案の定、佐伯ひろむのいじめ現場が映っていた。
下半身を脱がされ、四つん這いになる佐伯ひろむ。
いじめっ子たちはそれを取り囲み、満更でもない表情を浮かべる彼女を見てクスクスと笑っている。
自慰強要。小説でしか読んだことのなかった私は、ただただ衝撃を受けた。
私はその動画を何度も、何度も見返した。
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翌朝。私はアラームがなっていることに気づいて、重い上半身を起こした。
まだあの動画は、鮮明に頭に焼き付いていた。
私は学校に行く準備を済ませ、いつも通り駅に向かった。
早くあかりと会いたい。他愛もない話がしたい。
心無しか、歩調が普段より早くなっている気がした。
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き ょ う も み さ と は へ い わ で す ! !