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秘める恋心 其の一
花火
自分の恋心を自覚しそうになるしのぶさん。
この世界線の義勇さんは二週目の世界の義勇さんです!!
ここまで、いつこられるのやら。
今宵の任務は冨岡さんとの合同任務。夏の暑さが厳しくて判断が鈍りそうなそうな天気だった。十二鬼月の可能性ありと知らされていたが、実際はすこし面倒な投てきを得意とするだけこの鬼だった。
そのせいで、走り回ってしまい夜明けが近いところでの討伐だった。もともと夜明けが近かったとはいえかなりの体力を消費した。……足もすこし挫いてしまった。
「この山を越えた先に藤の家の家紋がある。そこへ行こう」
「へぇ、この近くに知りませんでした」
「ここは、俺の警備範囲だからな」
近くなら足も大丈夫か。そう思っていたのだが、歩こうとするとふらりと揺れてしまう。気づかれないようにしないと。
「胡蝶。足が」
「大丈夫ですよ!このくらい」
「見せてくれないか」
誤魔化すことはできなさそうだ。おとなしく見せると自分でも驚くくらい腫れていた。
(こんなに腫れてるなんて)
「胡蝶。すまない」
そう言うと彼は慎重な手つきで木の枝で支えを作り、手拭いの布で巻いていく。完璧ともいえる対処の仕方だ。
「すみません。冨岡さん」
「気にするな。おぶるぞ」
「い、いえそこまでしていただいては」
ただ一歩歩くだけでふらつき、転びそうになる。思ったよりも容態がひどい。申し訳ないのだが、これは仕方がないだろう。
彼の背中はとても広くがっしりとしている。そして、視点がいつもよりも高い。歩幅が私のために狭くあまり揺れない。この気遣いのか溜まりのような人なのだ。
「すみません。ここまでしていただいて」
「気にするな。胡蝶は頑張っているからな」
「ありがとうございます」
しっかりと彼の背中にしがみつく。彼の匂いがし、安心する。このまましのぶは夢の世界へといくのだった。
次起きたときは、心地よい匂いと共に目を覚ました。あぁこの匂いは。
「胡蝶起きたか」
「は、はい今何刻ですか」
「丑の刻だ」
「そんなにも」
「もう少し休んでおけ」
最近寝不足だったのだ。その事も彼に見透かされているように感じる。お言葉に甘えてもう少し寝るとするか。
「それでは」
「もう一部屋とれてたんですか?だったらなぜここに」
「体調が悪そうに見えたからな。熱でも出したら心配だ」
この人は本当に優しい。その優しさが嬉しいのだ。私は皆の姉だが、ここではもう良いだろう。優しさに甘えてもいいだろう。
「じゃあな。報告書は変わりにやっておいた」
そして、この部屋には私だけが残る。寂しさを感じるが、すこし休憩しようと思うと、ふとすこし空いている襖の隙間に目をやるとあろうことか隣の部屋のおそらく冨岡さんの部屋に入っていく、一人の女の影が見えた。
(どういう、こと?)
冨岡さんにもそういう相手がいるのだろうか。でも、冨岡さんだって齢二一の青年だ。いてもおかしくはない。あの美貌の、あの性格なのだ。女の方からすり寄るのではないか。
これ以上は踏み入れてはいけないのだろう。ただ寝ようとしても頭からその光景が離れない。無理やり寝入ろうとし最終的には寝付いたのだが、モヤモヤは消えなかった。
「う、うん?」
寝過ぎてしまった。今の時刻は寅の刻。蝶屋敷に帰らなければいけないのに。
「胡蝶。入るぞ」
「冨、岡さん」
昨日の事が頭から離れず、動揺してしまった。ただの同僚なのだから別によいはずなのに。
「すっかり朝になりましたね!」
「そうだなぁ。足は大丈夫か?」
「はい!よくなりました」
笑顔を取り繕ってはいるが、実はまだすこし痛い。すこしならいいだろうと思いそう答えたのだが。
「今日は任務はなかったよな」
「……?はいそうでが」
「警備範囲は変わりにやっておく。もう少し休め」
見にかれているのだろうか。
(また、貴方の優しさに救われてしまいます)
「ありがとうございます」
「そうか。しっかり休めよ」
そういってどこかへ行こうとする。
「待って!」
ほぼ反射でいってしまう。彼が振り向く。どうして、呼び止めたくなったのだろうか?ただ行ってほしくないと思った。
「あの話したいことがあるので今日の夜また、来てくれませんか」
なんてことをいったのだろうか。柱は多忙なのに。
「わかった」
そう柔らかく微笑みながらどこかにいってしまう。
足が少し痛むためあまり歩き回ることができず、藤の家紋の人達に大変お世話になってしまった。
ご飯も頂いて感動するほどおいしかった。
湯船が酉の刻には炊き上がるそうなので、それまでは医学書を読ませていただいた。ここの藤の家紋は、本が充実していて、洋書まであるほどだ。すっかりと読み込んでいると、時刻は刻々と進んでいき、湯船が炊き上がる時刻になった。
「蟲柱様。湯船の用意ができましたが、足が少し染みるかもしれません」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「そうですか。では此方です。着いてきてください」
若い女性だ。どうやら透葉山を越えた先にあるこの藤の家紋は、この人しか若い女性はいないように見える。
(この人が冨岡さんと?)
外見を見ると人を引き寄せるような容姿に、柔らかそうな肌。そして、顔も物凄く美人。この人なら、冨岡さんとも釣り合う気がする。
「蟲柱様は、鬼殺隊の医療所もしているのですよね。すごいですね」
「ありがとうございます。ですが、藤の家紋の方達も鬼殺隊の皆さんにとってとても重要な場所です」
「そういっていただけると嬉しいです」
そんな他愛もない話をしていく。しのぶ的には、昨日の事について聞きたいのだが。
(話の流れで自然と)
「そういえば、この辺りでは求婚をする人が大勢いるのですよ」
「そうなんですか?あまり来たことがなくて」
「そうなんです。そのお陰でこの山一帯は一般の方も大勢いるんです」
冨岡さんは、この山も警備範囲に入っているから、大変だろう。
「まぁ、でも最近は来なくなったんですけどね」
「?どうしてですか」
「もともとこの山には赤いバラが咲いていたのでけど。あんな事件が起きてしまって」
あんな事件とはなんですか?と聞きたかったのだが聞いてはいけない雰囲気が、漂う。
(少し、気まずい。ここは、新しい話題を)
「冨岡さんは、よく来るんですか?」
新しい話題を出すために、冨岡さんの話を出す。詳しくこの女性と冨岡さんの関係性について探りたいのだけど。
「えぇ、義勇さんにはいつも利用して頂いています」
義勇さん?当たり前のようにその名を呼ぶ。この事だけで、もうわかってしまう。冨岡さんは、基本的に自分の名を呼ばせようとはしない。
(やっぱり、そうなのね)
「?蟲柱様大丈夫ですか」
はっと気づく。目に涙が溜まっているではないか。
(どうしてなの何も悲しいことなんてないはずなのに)
「目にゴミが入ってしまって」
何となくの言い訳をする。このあと言及されるかと思ったが、深入りはしなかった。
「此方です。ゆっくりとお過ごしください」
そういって、一人の時間へとなる。身に付けている隊服を脱ぎ下着の姿になる。ここの藤の家紋は本だけではなく他の設備が揃っていて、鏡もあった。
そして写る自分の姿。自分でも綺麗だと思うのだが、あの女性を見たあとだとどうにも霞んで見える。
冨岡さんはあのような女性が好みなのだろうか。きっとあの女性の着物の下も綺麗な肌なのだろう。想像は容易い。そして、自分の顔にまた涙が溜まっている。これ以上は見たくないと残りの身に付けているものも脱ぎ捨て湯船へ浸かる。
とてもいい湯だ。温かい。だが、体は温ためられても心は温められない。それどころか、自分の体が嫌でも見えどんどん凍りついていく。
(あの人容姿だけでなく、心も優しい。冨岡さんと同じだ)
考えれば考えるほど、お似合いの二人。心が締め付けられるように苦しい。
本当はもう少し浸かりたかったのだが、早めに上がり手拭いで自分の体を極力見ずに体についた水を拭き用意された着物を着る。髪も丁寧水気を拭いて、その場から立ち去る。
時刻は戌の刻。そろそろ食事が出される時刻だろう。ここに来て、時計を見る回数が増えた。これは、冨岡さんが来るのを待ち望んでいる現れだろう。食事が来るまで医学書を読もうとするが、いまいち集中もできず内容も頭のなかに入らない。《《あのこと》》が気になって仕方がないのだ。
暇さえあれば、考えてしまう。
私は、柱で冨岡さんともそれなりに任務を一緒にした仲だ。勿論宿が一部屋しか空いていないこともあった。それだけど、私には手を出さなかった。そんなにも魅力がないのだろうか。
美味しい食事も出たがほとんどが喉を通さなかった。藤の家紋の人には心配させてしまった。
時刻は子の刻。そろそろかそろそろかと寝ることはできなかった。
(早く来てほしい)
そんな子供のようなことを考え。
時刻は丑の刻。そろそろ夜が空ける。
襖が開く。冨岡さんだ。約束通り来てくれたのだ。
思わず抱きついてしまった。
本当にわからないのだが、咄嗟に体が動いてしまったのだ。彼は驚いたような顔をしたが、振りほどくことはなかった。
「顔色が少し悪いな」
暗闇の中でもよく見えるものだ。夜目がきくのだろう。
「冨岡さん。私のお願い聞いてくれませんか?」
「叶えられるのなら」
そして、深呼吸をする。そして、頬を紅く染める。これから、わたしがするお願いはそれだけのことなのだ。
「冨岡さん。私のことを抱い、て、はくっれ、ませ」
そして眠りへと落ちる。もう、体が限界なのだろう。本当は最後まで言いたかったのだが、また今度言えば良いだろう。
おやすみなさい冨岡さん
この物語終わるのでしょうか。心配になってきました。
子=0時 丑=2時 寅=4時 卯=6時 辰=8時 巳=10時 午=12時
未=14時 申=16時 酉=18時 戌=20時 亥=22時
赤いバラの花言葉 求婚
話の流れそのままです。