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名前呼んで
「……ほら、言ってみて? 『九郎』って」
床に押し付けられたまま、耳元で執拗に囁かれる。
はじめの心臓は、図書室の静寂を壊しそうなくらいバクバク鳴っていた。
いつもは「九郎くん」って呼んでるのに、呼び捨てなんて恥ずかしすぎて無理!
「っ……む、無理だよ……恥ずかしいもん……っ」
はじめが顔を真っ赤にして首を振ると、九郎はさらに重心を低くして、
はじめの鼻先が触れるくらいの距離まで顔を近づけた。逃げ場はどこにもない。
「無理じゃないだろ。俺はお前のこと、ずっと前から『はじめ』って呼んでんのに」
九郎の手が、はじめの手首を床に固定したまま、指先を絡めてくる。
「……言わないなら、もっと意地悪するよ?」
その意地悪な瞳。
でも、よく見ると九郎の視線もわずかに震えていて、彼も余裕があるわけじゃないのが伝わってくる。
はじめは、ぎゅっと目をつぶって、心の底から名前を絞り出した。
「……っ、く……九郎!!」
図書室の奥、本に囲まれた小さな空間に、はじめの声が響く。
初めて呼んだ、大好きな人の名前。
目を開けると、そこには固まったままのはじめを凝視する九郎がいた。
ドSな笑みはどこかに消えて、彼は一瞬で顔を耳まで真っ赤に染めている。
「……あ。……あー、もう……。」
九郎は耐えきれなくなったみたいに、はじめの首筋に顔を埋めた。
「……反則。……今ので、俺の我慢、全部飛んだんだけど」
「え、九郎くん……あ、九郎?」
「……もう一回。……もう一回、名前呼んで」
はじめは、自分の名前を呼ぶ声が少し震えていることに気づいて、愛おしさが爆発しそうになった。