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2話〜5話
1話1話作成するのめんどくなっちゃった
嘘から始まる放課後
キャラクター
七星ひかり
橋田優香
山内渚
咲口玲奈
綾瀬美優
2話
あいつは一体何を考えているんだ。私は頭を悩ませていた。クラスメイトの七星(ななえ)のことは、イケメン山内くんの近くをうろちょろしているうざいやつという認識だった。七星の友人も山内くんとはよく関わっているが、七星の方がより親しげで鬱陶しい。目障りだったし、絶対山内くんのことを狙っているんだと、それは抜け駆けだと、釘を刺さなきゃいけないと、校舎裏に呼び出した。
ところが聞いてみれば、七星には山内くん以外の好きな人がいるという。嘘だと直感した。私は言った。嘘じゃないなら、誰が好きなのか言ってみなさいよ。七星は視線を泳がせた。ほらやっぱり嘘じゃない。やっぱり山内くんのことが好きなんじゃない。内心で鼻を鳴らしていると、七星は答えた。
「橋田さん。」
私だった。七星は私のことが好きらしかった。気が動転した。嘘か、嘘じゃないのか、からかってるのか、この私を?顔がカーッと赤くなった。怒りからなのか恥ずかしさからなのかはよくわからなかったが、こんな姿を他人に見られるというのは屈辱で、私はあんたのことなんて大っ嫌いなんだからねーと怒鳴ってその場から走り去ってしまった。
しかし、冷静に考えてそれではツンデレヒロインみたいじゃないか。それこそ屈辱的ではないか。そう私は思うわけだ。あんなセリフが周りに伝われば、私のこれまで積み上げてきた女王様的な印象がガラガラと音を立てて崩れ落ちていってしまう。それは避けるべきだった。そんなわけで、私は再び七星を校舎裏に呼び出した。あのセリフについて、一刻も早く訂正をしなければならない。
「どうしましたか橋田さん。」いつも通り飄々とした顔で七星は私に訊いた。こいつが私のことを好きなのかと考えるだけで心臓が急にうるさくなる。だからもう考えない!どうせ嘘!そう割り切るのだ。それもなかなか難しいが。
「こないだのことについてだけど…。」七星が首を傾げる。「ほら、あれよ!!」自分で説明するのは流石に恥ずかしい。察しろ。そんな意味を込めて目の前のこいつを睨む。
「あ、あのツンデ、えーとあの言葉ですか。」「そうよ!!」多分通じてる。ツンデレって言いかけてたし。「あの言葉は、あれだから!本当はあんたのことが好きだけど恥ずかしくて隠すみたいなそういう意図じゃないから!!本当に嫌いだから!!」なんだか恥ずかしくて、好きだけどの部分だけ小声になってしまった。そのことで余計に恥ずかしくなる。顔に熱が集中するのがわかったが、顔を逸らしてしまうのもカッコ悪い。せめてもの威厳を、と眉毛を吊り上げて七星を見下ろす。
「了解です。」
あっさりと言って「じゃあ帰ってもいいですか。」と歩き出す七星を反射的に止める。「ちょっと待ちなさいよ!」「え、なんですか。」だが冷静に考えてこれ以外の要件はない。「…いや、なんでもないわよ!」「え、なんだったんですか。」「さっさと帰りなさいよ!!」「えぇ…。」
3話
最近、学校で変な噂が流れている。私が橋田さんのことを好きだという噂だ。
無論、そんなわけはない。だが火のないところに煙は立たないわけで、少し思い返してみたところ、火はちゃんとあった、はっきりあった。1週間ほど前、橋田さんに校舎裏に呼び出され、私の好きな人として橋田さんの名前をあげたじゃないか。あの時、もしかしたら誰かが会話を聞いていて、勘違いしてしまったのかもしれない。橋田さん自身が噂を流すというのはないだろう。めちゃめちゃ照れてたし、絶対違うと思う。
「で、本当なの?」
友人の綾瀬がずいっと顔を近づけ、問い詰めてくる。学校のHRの前、クラスはいろんな話題で溢れていた。
「本当に橋田さんのこと好きなの?」
「いや、嘘だよ。ありえない。」私は平然とした顔でそう答えた。実際嘘だし、今後も絶対ありえないとは言い切れないが、今の時点では私は橋田さんに魅力を感じていなかった。
「ならなんでそんな噂流れてるのよっ?」私が口を開いた時、教室のドアががらりと開いた。山内が入ってきた。「おはよー山内。」「おはよ。で、なんでそんな噂が流れ出したのってば。」綾瀬は山内なんかよりも噂の方が気になるようだったが、そんなのお構いなしに私が山内に向かって手を振ると、山内も同じように片手を上げた。こちらに近寄ってきて、「今なんの話?」と首を傾げる。私が返事をするよりも先に、綾瀬が言った。
「七星が橋田さんのことを好きっていう噂は本当なのか聞いてるの!」山内は意外そうに眉毛を上げた。
「まじ?好きなの、橋田のこと?」
「なわけ。」
「まああんまり見ない組み合わせだしな。」
「いやいやそんなのわかんないでしょ!意外だけど実は…みたいなことだってあるでしょ!」
あっさりと納得する山内に、綾瀬が言う。しかし山内はどうもしっくりこないのか、うーんと唸るばかりだった。
「もー橋田さんに訊いてよ。めんどくさい!」私はさじを投げるように天井を仰いだ。薄汚れている天井に、どうして天井が汚れているんだろうなんてどうでもいいことを考えた。「えぇ〜。」綾瀬は明らかに不満そうな声で続けた。「本当に好きだったら、ドラマみたいでドキドキするのに〜。」なんで第三者である綾瀬がドキドキするのだろう。訊いたらさらに話がややこしくなりそうだから、やめておいた。
4話
「七星さんって、優香のこと好きらしいよ。」パンを食べながら、友人の玲奈が楽しそうにそう伝えてきた。人の少ない屋上で、私は玲奈とお昼ご飯を食べていた。
反応が遅れた。数秒経って声が漏れた。「はっ?」七星の顔が頭に浮かび、慌てて消す。七星が私のことを好きだというのは知っているが、それがなぜ噂になっているのだろうか。そもそも今は七星のこと自体考えたくないので関わらないようにしていたが、これは不意打ちがすぎる。
「えー優香はどうなの。」思わず視線を泳がせる。顔が赤くなっていくのがわかる。玲奈ニヤニヤ顔で私の返事を待っていた。ここは冷静に反論するべきだ。じゃないと、本当は好きなのに恥ずかしいから嘘をついている、みたいな人になってしまう。屈辱のせいか照れのせいか、くちびるが震えるまま、私は口を開く。
「いや、そんなわけないでしょ!!」早く否定しなければという思いが突っ走り、お世辞にも冷静とはいえない声が溢れた。
「えっまじで好きなの?」
玲奈は意外そうに、しかしさらに頬を緩ませた。普通に反論しておくだけでよかったのだった。「いやいやいや、なっなんで私があいつのことを好きにならないといけないのよっ。」今からでもどうにか玲奈を納得させることができるかもしれないと、顔をブンブンと横に振った。だがそれでさらに勘違いを加速させてしまったらしい。わかりやすいなーなんて頷いている玲奈に、どうすれば良いのか思考を巡らせるも、何も良い案が浮かんでこない。これ以上激しく否定しても意味はないだろう。
この会話が原因で、新たに「橋田さんは七星のことが好きらしい。つまり2人は両思いだ。」という噂が流れ出すようなことだけは避けたい。まあ私と七星の恋愛話なんて大して広まらないだろうが。私は玲奈の勘違いを解くことを諦め、心臓を落ち着かせるために深呼吸をしたあと、できるだけ普段通りの調子で言った。
「このことは絶対誰にも話さないでよっ。」玲奈は親指をグッと立てると、「もちろん!」と頼もしそうに自身の胸をたたいた。
とりあえずこれでいいかと息をついた時、屋上のドアが開いた。そちらを見れば、山内くんである。玲奈が高い声で「山内くーん。」と呼ぶ。こちらに歩いてくる彼は、いつ見ても綺麗な顔立ちをしている。私の横に腰を下ろした山内くんに訊ねる。「なんでここに?」「なんとなく。なんの話してたの?」返事に詰まる私の代わりに、玲奈が答えた。
「今、噂流れてるでしょ?七星さんが優香のことを好きだっていう噂。あれほんとなのかなって話してたの。」その言葉に、山内くんはあぁと納得した様子で口を開いた。
「俺も今日聞いたけど、七星は違うって言ってたよ。あんま気にしない方がいいよ。」
「えっ。」私の声と玲奈の声が重なった。混乱した。どういうことだ。1週間前の校舎裏でのあれは、なんだったのか。玲奈の手が私の肩に置かれた。彼女の方に顔を動かす。微妙な顔で「気にするなよ。」と言われ、いや別にいいんだけどねと内心で思った。
5話
橋田さんの視線が妙に冷たい。そう気付いたのはついさっきのことだった。橋田さんの席は私の席の斜め後ろに位置していて、時々視線を感じるなと振り返れば大抵彼女と目が合う。多分「この人、私のことが好きなのかあ、わあ。」みたいなことを思っているんだろう。あっているのかどうかはもちろん不明である。
1限目、国語の授業中、視線を感じた。また橋田さんかなと思い、振り向くこともしなかったが、違和感を抱いた。はっきりとした違和感だった。
冷たいのだ。刺すような視線。と言って悪意が前面に押し出されているというわけではなく、軽蔑とか、その類の冷たさ。本当に橋田さんなのかとばっと体をひねったら本当に橋田さんだったわけで。
なぜ急にこんな冷徹な視線を浴びせられなきゃいけなくなったのか、私は不思議でならなかった。授業中必死に思考していたが全く思い浮かばなかった。七星(私)が橋田さんのことが好きだ、というもうほとんど聞かなくなった噂が彼女の耳に入ったとしても、辻褄はあっているだろう。もしその噂が、七星が橋田さんのことが嫌いだ、というものなら彼女は混乱して、軽蔑されてもまだ理解はできるけれど。
モヤモヤしたまま昼休みがやってきた。購買で昼食を買うため列に並んでいると、私の後ろにクラスメイトの咲口玲奈が私の後ろにやってきた。そういえば、咲口さんは橋田さんと仲が良かったよなと思い出す。私は咲口さんに声をかけた。
「ねえ、あのさ。」
「あ、私? どうしたの。」
「最近、橋田さんの様子がおかしいとか、感じる?」
問うと、咲口さんは数秒考えてから答えた。
「まあ、ちょっとおかしいよね? なんかテンション低いっていうか。やっぱり七星さんも気付いてる?」
「あ、うん。」
やっぱり、とはなんだろう、と理解が遅れたが、よく考えれば私は橋田さんのことが好きだということになっているのだ。
「え、ちなみに原因は知ってたり…。」
「いやー、訊いても教えてくれないんだよねー。」
そうか、と内心で落胆する。ふと前方に視線をやると列は進んでいて、私は慌てて一歩踏み出した。
キャラクターは私が忘れないようにするためのメモ。
山内の下の名前全く思い浮かばなくて、だから適当に渚ってことにしてるけど、後で変更するかもしれない。
まあ山内は山内なので下の名前が変わっても特に問題はない‼️‼️