閲覧設定

基本設定

※本文色のカスタマイズはこちら
※フォントのカスタマイズはこちら

詳細設定

※横組みはタブレットサイズ以上のみ反映

オプション設定

名前変換設定

この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります

公開中

くるり、時もどし(後編)

「こいつ、びくともしねぇ!」 デシデシと頭、背中、足、腕を叩いて、蹴られて… ガキの力だからそんな痛くもなんともねぇ。 オレが動いたら…逆にケガさせてしまうほどに、コイツらは弱い。 「おい!なんで殴られてるのかわかるかっ!」 1人の子どもが話しかけて来た。 理由はわかってる。 なにせ、オレがコイツらが仕掛けていた虫を獲るための罠を潰して、その挙句にでかい虫を逃したからだ。 最悪なことにコイツらはオレのしたことを見ていた。らしい。 ていうか、そこが罠だってわからなかったし、気づかなかった。 「だからわりぃって言ってんだろ。」 「全く反省してねぇ!」 バカ、アホ、言われ慣れた言葉をバーっと浴びせられて、蹴りも殴りも一段と強くなっていった。 気づけば、顔からも鼻血が出て来た。 「…あー、あきた!これに懲りたら反省しろクズ!」 「新参者がしゃしゃんじゃねーぞ!」 捨て台詞を吐いて、ガキどもは帰って行った。 「ほんま、アホらしー。」 オレは、オレの街が空襲で焼けちまうってことで、ここにやって来た。イーハトーヴって言うらしい。 不思議とここに来てから、飛行機も、兵隊も見なくなった。 オレの故郷は今頃、戦火に焼けている頃だろう。 だけど、一番困ったことはただ一つ。 妙に嫌われているってことだけだ。 大人たちはまだ優しい。だけどどこかぎこちない。 問題はガキどもだ。フツーに殴ったり蹴ったりしてくる。 あの時の宴会だって、オレが参加したってだけで理由をつけられて… 「…な、なぁ。大丈夫か…?」 優しそうな声に話しかけられた。 ジュンだ。最近この村に来たやつだ。 だけどオレとは違って、コイツは愛想もいいし、優しいやつだから、来たばかりでもあのガキどもとも仲良く遊べている。 「大丈夫だ。でもオレに話しかけんな。お前まで嫌われちまうぞ?」 オレは答えた。 「ううん、いいよオレ。なにせアンタにオレは助けられたし。あのガキに嫌われても構わないよ。」 「…言うなぁ、お前。」 ジュンは唯一オレと仲良くしてくれるヤツ… いわゆる、ダチってヤツだ。 ジュンは元々親に愛されてなくて、メシもまともに食わせて貰らえなかったらしい。 そしておこぼれをちょっとあげただけで、こうしてオレに仲良くしてくれた、チョロいヤツだ。 「ところで、さっきはどうして…」 ジュンは聞いて来た。 「オレが悪いんだよ、あいつらの罠を潰して、オレが虫を逃したのが気に食わないんだってさ。気づかなかったさ、だってなーんにも印とかなかったし。」 オレは正直に答えた。 正直、ちょっとキンチョーしてる。 「…バカじゃねぇか、ソイツら。しかも見てたんだろ?オレ、ソイツらがナツキをはめたとしか思えねぇ。」 「…ぷっ。」 「…何がおかしい!」 嬉しくなって、思わず笑いが込み上げてきた。 「いーや!お前が、バカみたいに素直に信じてくれたのが嬉しくってさ。あぁ、全部本当さ。信じてくれたの、お前だけだよ。」 「誰も信じねぇなんて、あいつらバカチャウネン!ほんと、ナツキは優しいヤツだって、見抜けねぇとかバカだ!」 力強く、ジュンは話してくれた。 「オレのこと、「チャウネン」じゃなくて「ジュン」って、ちゃんと呼んでくれるの、ナツキだけだ。オレ、口癖バカにされるの、ほんとは好きチャウネン。だから、オレ、ナツキが繊細で優しいヤツだってわかる。」 「はっ、バカかよ。」 オレはケラケラ笑い飛ばした。 それにつられたのか、ジュンも笑い出してる。 「バカすぎて、お前好きだわ。」 赤い夕焼けの中で、2人は笑い合った。