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【立入禁止!ネジ外れ学級】雨と屋上
花束。
「今日は雨かよ!釣りに行けねえじゃん」
そんな大声が耳に入ってきてようやく気づく。
今日は雨だ。
カレンダーはいつのまにか6月の可愛らしい紫陽花が描かれたページに変わっていた。
窓の外を見ようとするとこの前の学活で作った色とりどりのてるてる坊主が嫌でも目に入る。
「浮空さん。ふー、らー、さん。」
名前を呼ばれ声の方に視線を向けると、学級委員の天水才がプリントを抱えて立っていた。
「さい君、どうしたのー…?」
「さっきからずっと読んでたんだけど…。どうしたもこうしたもない。課題出して。」
成程。プリントを持っていると思ったら課題の回収だったのか。
ずっと名前を呼ばせていたのは申し訳ない。早々にプリントを渡し、また窓の外を眺めた。
「雨…。」
雨音が騒がしい教室に静かに響いていた。
「で、あるからして、ここの数値は…」
いつもと同じ先生の声。勿論黒板なんて見るはずも無く。
簡単すぎる内容を50分掛けて説明する理由がいつまで経ってもわからない。
今日は雨だから屋上にサボりにいけるわけもなく、ふと気を紛らすように横の席を見た。
席は空っぽだった。
思わず二度見した。そこの席は浮空の席のはずだ。
どこに居るのか。もしかして迷子か?いや…、浮空は方向感覚が鋭かったはずだからそれはあり得ない。
「もしかして、屋上…?」
毎度のように授業をサボるために屋上にいるとそこで彼女は空を見ている。
もし、今日もそこに居たとしたら?雨の中いたとしたら?
転落事故
その4文字が頭の中でフラッシュバックした。
彼女はまえも転落事故を起こしている。視界が悪い今日なら尚更その可能性が高い。
「おい、才、どこ行くんだ?」
「ちょっとサボりに。」
前の席の赤羽に声をかけられたが構わずし席を立って教室を飛び出す。
授業中の廊下を走り、階段を駆け上がる。やっとのことで見えた屋上の扉を蹴って開けた。
そこには雨の中ずぶ濡れで立って空を眺めている彼女がいた。
彼女の目の前は手すりで下手したら乗り出して転落してしまう。
思わず近くに寄って手を取りこちら側に引っ張った。
心底ホッとしている俺をよそに彼女はキョトンとしていた。
「さいくんー…?どーしたのー…?」
「どーしたのじゃねぇよ…。こんな雨の中空を見ていたっていうのか?」
そう俺が呆れながら問いただすと彼女はコクリ、と頷いて空を見上げた。
そして手を上に伸ばして手のひらに雨を受けた。
「雫がいろんな形しててきれーなんだよー…?」
「そういうことじゃない。風邪引くぞ。」
そう言って持ってたタオルを無造作に渡した。
彼女はそれを羽織ってボーッと空を眺めた。俺が声をかけようとすると彼女は急に手を動かして弧を描いた。
「今日はこの雨の量だから虹が出るねー…」
「だから何言って…!」
「クラスのみんなで見たいねーって言ってたよねー…、叶うよー…?」
その発言に驚いた。
この前のてるてる坊主作り。みんなが割と乗り気な中、彼女だけがあまり乗り気では無さそうだった。
と言うよりかはボーッとしていて何も聞いていないと思っていた。
その時に騒がしい女ー、もとい猫宮恋愛がこう発言したのだ。
『雨が晴れたら虹出るよね〜!こあ、クラスのみぃんなで見たいなぁ♡』
その言葉にみんなが乗り気だった。そんな中彼女だけは表情が変わらないでいた。
だから興味がないと思っていた。けど、違った。彼女はみんなで虹を見るために雨の中屋上に行き観察していたのだ。
「………だったら尚更教室帰るぞ。風邪ひいて浮空さんが保健室とかなったら全員じゃない。」
そう言って手を引いて歩き出した。
暫くどちらも黙ったままで雨音だけが聞こえていた。雨で濡れた髪から滴ってくる雫は妙に冷たかった。
それから彼女が話し出した。
「………そう、だねー…!ありがとうー…。」
そう言った彼女の声がいつもより震えていてゆっくりで、それでいて明るい声だった。
そのまま教室にたどり着くともう休み時間だったようで。教室ではアホどもがどんちゃん騒ぎをしていた。
「……!、潤色様!天水様!こんなにずぶ濡れでどこに行かれていたのですか!こっちにきてください!」
教室に入るなりブレザー制服の拳銃を常備したメイド、蜘蛛火メイがとんできた。
メイはいまだにボーッとしている彼女の髪や服をタオルで拭きながら説教を始めた。とても器用。流石メイド。
猫宮もやってきてドライヤーを取り出して彼女の髪を乾かし始めた。ドライヤーは持ってくるのは違反だ。
今度取り締まらなければいけない。
「天水様が連れ戻してくださったんですか?ありがとうございます!」
「いや、感謝すべきは浮空だ。」
俺に頭を下げて謝り、謝礼を入れるメイにそう答えるとメイは首を傾げた。
いつのまにか猫宮が髪を乾かすのを終わらせておりドライヤーの音が消えていた。
雨音がしっかり聞こえる。
「みんなー…、窓の外見てー…、!」
そう彼女が言うと遠くの方の雲が分かれ、光が差し込んだ。
青色の快晴が雲の間から垣間見える。神秘的な光景だ。
そのまま眺めていると七色に光る架け橋が綺麗に空に掛かった
雲が丁度開けた小さな青空に。
「わー、!虹だー!すげぇー!!!」
「願い叶ったぁ♡やったぁ〜!」
各々歓声を上げるクラスメイト。
彼女は猫宮に抱きつかれ少し苦しそうにしている。
俺と目が合うと彼女はふわりと微笑んだ。
思わず笑い返す。
「あー、才達笑ってんじゃん」
「ほんとだ!」
そう指摘されても尚笑い続けた。
次第にみんな笑っていきクラスメイト全員が大爆笑になった。
梅雨の時期。どこか雨色模様だったネジ外れ学級。
今は快晴のような笑顔が広がり満ちていた。
天気予報は雨のち晴れ。
そう言っていた今日のニュースは正しかったようだ。
登場人物
潤色浮空(うるねいろ ふら)女
天水才(あまみ さい)男
蜘蛛火メイ(くもび)女
赤羽射(あかばね いる)男
猫宮恋愛(ねこみや こあ)女
瀬戸釣海(せと つるみ)男