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愛は、時代を越えて。 6話
明日。とうとう明日、関東大震災が、起こる。いやマジでどうしよう考えただけでなんかもうヤバい。
「よっ。朝から何考え込んでんの?」
えーっとこのチャラいのは確か……和音に年が近い方の弟の和樹くん……だっけ?
「おはようございます。かぐやさん。とうとう、明日ですね。」
「うん。そうだね。」
「え、明日なんかあんの?かぐや姉ちゃん出ていっちゃうの?」
ね、姉ちゃん……
「いや、そういうことではない。ないよ。うん。」
「じゃあ何ー?」
「かぐやさん、あの事話すべきでしょうか。」
あの事、とはやはり関東大震災のことだろう。
「これからを考えたら話した方が良いかもね。」
私は、和音の家族みんなの方を向いた。
「あの、話したいことがあります。」
「どうした?」
新聞を読んでいた和音のお父さんも、朝ごはんを膳に並べていた和音のお母さんもこちらを向いた。
「私は、実は未来から来ています。今から100年後の、2023年から。そして、明日は関東大震災という大きな地震が来ます。正午頃に。かなり規模が大きいので、おそらくこの辺りの多くの家が倒壊し、火事も起きるでしょう。」
「それ……本当?」
和音の妹の和実ちゃんが不安そうな顔で私を見た。
「本当です。1923年、9月1日に。なので、皆さんにはいつでも逃げられる準備をしていてもらいたいです。私が生きている時代は避難所というものがありますがこの時代だとその辺はあまり整っていないでしょう?なので、いざという時には大事なものだけ持って逃げてください。」
「じゃあ、お気に入りの服とかは……」
「地震が起きた時の状況によりけりだけど、生きるのに要るか要らないか自分で判断して。でも、もし何か危ない状況になったら、諦めないといけないかな。」
「そっか……」
うん。悲しそうな顔されるとなんか申し訳ない。ごめんよ。
「一応、誰がどう逃げるか決めておきませんか?母さんは和実と、父さんはできれば和樹と和佐どちらも連れて逃げていただけないかと。僕がかぐやさんと逃げます。」
「そうね。それがちょうど良いかもしれないわ。」
「よし。じゃあ父さんから全員に必ず約束して欲しいことがある。かぐやちゃんにもな。死んだらもう会えないけど、死んだらその運命をちゃんと受け入れること。もし生き残れたら、それから出会った人をちゃんと大切にすること。人の和を大切に、が時和家の家訓だ。もし一生会えなくても、それは絶対大事にすること。良いか?」
「はい。」
「わかりました。」
「私も、ちゃんと心に留めておくわ。」
「名前に和って文字が入ってるんだ。生きてても死んでも和は大事にしないとな。」
「あたし、しっかり覚えておく。」
いい事を聞かせてもらったな。
「かぐやちゃんはいつか、自分の生きている時代に戻らないといけない時が来ると思う。でも、自分の時代でも、時和家のこと忘れないでくれよ。」
「もちろんです。」
私は明日に向けて、しっかりと決意を固めた。
春休みよ、終わるな。