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俺の家族 #番外編
話を進める前に、少し主人公の家族のお話について書かせてもらいます。
残酷な日々を暮らす中でも、主人公は諦めず笑顔を作ろうと頑張りました。
現在の時間は6時半、いつもは7時半まで寝てるのに。ここ最近はこんな感じで早く起きてしまう。それはきっと、家庭の問題だろう。
俺には7歳の時から父親がいないため、女手一つで育ててくれたのが母だった。親戚には頼れる人がいないので、寝る間も惜しんで働いてくれていた。でも、母さんは死んだ。交通事故が原因だった。飲酒運転をしていた大学生ドライバーと、仕事に疲れ切っていた母さんが事故を起こした。何一つ、恩返しができなかった。
姉ちゃんは部屋は部屋からあまり出ず、兄ちゃんは高校1年生なのにバイトを一日中やっていた。これでは唯一の家族がばらばらになってしまうと思い、思い切って提案した。
「市役所に行って、親族を探してもらわない?葬式をあげたから、報告はしないといけないと思う。それに、これからのことについても話さなきゃ。」
姉ちゃんは泣きはらした顔で「うん」と一言答えた。兄ちゃんは、「じゃあ俺が今から行ってくるよ」とふらついた足取りで玄関に向かった。でも今は夜だ。
「兄ちゃん、明日にしよう。もう夜だよ。それにバイトで疲れてるでしょ?」
「何かを…何かをしてないと考えちゃうんだよ…」
母さんのことだろうか。今にも泣きそうな声で言う。
「俺、もう誰にも死んでほしくない…兄ちゃんも先に逝かれたら困るよ…」
限界が来た。本当に母さんみたいに疲労で疲れてほしくない。死んでほしくない。疲れと恐さで泣き出してしまった。兄ちゃんも泣き出してしまい、市役所は明日行くことになった。
市役所に来た。受け付けで親族を探してもらう。久しぶりのしっかりした姉ちゃんを見れて嬉しかった。何より、3人揃っての行動をできることが嬉しかった。
「えっと、岸部さん家のご親族は東京都に住んでいますね。こちらが個人情報になります。」
「母さんが親戚に頼りたくないのには、なにか理由があったからだよな。一応父さんのことも調べてもらおうか。」
兄ちゃんの意見に俺は大きくうなずいた。でも、姉ちゃんは賛成しなかった。
「やめよ、関わらないほうが良い。もう終わった相手の子供の連絡なんてどうでもいいよ。あの人は。」
何かを知っているように言う姉ちゃんは、澄んだ目で力強く言った。それは兄ちゃんも思っていただろう。
「わかった。じゃあこの親戚の人に連絡してみよう。」
連絡してわかったことが2つある。1つは、結婚を反対したのに結婚したこと。父さんはろくでもない人だったらしい。そんなこと、わかっているはずなのに母さんは結婚をした。そのとき縁を切って出てったらしい。2つ目は、面倒を見てあげられないということ。なんでか疑問に浮かんだので聞いてみた。
「なんで面倒を見てくれないんですか?母さんが死んで、困ってるんです。」
「それほど甘やかせれているということだろう。できの悪い娘だったからな。死んで当然の報いなんじゃないか?それに、もうあんたの家と私の家は縁を切っている。なんで面倒ごとを押し付けられれるんだ。そんな仕打ちゴメンだ。」
なんてひどい叔父なんだと思った。できの悪い娘?あんたの理想を勝手に押し付けてるだけじゃないか。母さんが親戚に頼りたくないのもよく分かる。こんな家、連絡するんじゃなかった。怒りが爆発しそうになっている僕を差し置いて、爆発したのは兄ちゃんだった。
「ふざけんな!母さんができの悪い娘?お前は何を見てもの言ってんだよ…母さんがどれだけ苦しい思いをして家計を支えてくれてたか知らないだろ!そもそもお前が頑固だから母さんは嫌になったんじゃないのかよ、声からうざったいもんな。なんでも縛ってきそうだ。仕事、恋愛、金、人生、どれだけお前の行為によって母さんの自由が奪われた!」
こんな大声を出している兄ちゃんを初めてみた。姉ちゃんも兄ちゃんに続いて怒りをぶつけた。
「お母さんができない娘だ、死んで当然だとか言ってんけど、お前が死ねばよかったんだ!!お前が死ねば、母さんはここで笑って…笑って過ごしてたかもしれない!お前のせいだ!お前の身勝手さ、傲慢さのせいで母さんは死んだようなもんだ!返せ!人殺し!どーせ、暴力振るってたりしたんだろ!人殺し!」
泣きながら叫んでいる姉ちゃんを見てられない…兄ちゃんも地べたに手をついて泣いている。でも、現実からは目をそらせない。
「あいつが、あいつが言うこと聞かないからやったんだよ。お前らもあいつと同じようにぶん殴ってやろうか!!二度とそんなこと言えないようにしてやるぞ!!」
母さんに虐待をしていたんだ。その瞬間に何かが切れる音がした。俺の理性かもしれない。
「俺たちを母さんと同じように苦しめたいんだ?どうやって?」
「何回も叩いて、真冬に外へ放り出してやったわ!!!お前らも同じ目に合わせてやる!!」
「母さんにそんなことしたあんたは間違いなく地獄に落ちるべきだ。今の内容、すべて録音してある。だから、警察に届ける。例え虐待の時効があったとしても、必ずあんたには母さんの味わった苦痛を受けてもらう。子供だからってあまくみてんじゃねえぞ!!!」
『プツ』
一方的に電話を切った後、しばらくみんなで泣いた。母さんが受けた苦痛、そんな重いもの背負って生きていたなんて…ショックだった。気付けなかったことが。
「みんな、お母さんのこと好きすぎでしょ。ブチギレ半端ない…」
最初に話したのは姉ちゃんだった。
「あのクソジジィ、いちいちムカつく。その場にいたら殴りかかってたかも。」
「兄ちゃんの言う通り、俺も殴ってた。」
「蒼汰、本当に録音してたの?」
姉ちゃんが目を丸くして聞いてきたので、深くうなずいた。
「兄ちゃんが言わなかったら、録音なんてしなかった。」
「俺、なんか言った?」
「母さんが親戚に頼りたくないのには、なにか理由があったからだよなって言ってたから、もしかしたらすっげー嫌なやつかもって思って。」
「あー、俺たち流石だな。」
そんなことを話しながら泣いていたら、電話がかかってきた。兄ちゃんのスマホからだった。でも知らない番号だ、緊急のことかもしれないと兄ちゃんは出た。
「もしもし?どちら様でしょうか?」
「あんたらの母さんの妹、美香子(みかこ)っていうんだけど。私、ずーとあの家から出られなくてね、たまたま父さんの電話の内容聞いてたら姪と甥がいること知ったんだ。住所教えて。あんたらの面倒、私が見てあげる。」
希望の光が見えた。罠かと思ったりしていたけど、そんなことはないと心にい聞かせ、住所を教えた。
「改めまして、父が大変な失礼と数々の無礼、本当に申し訳ありませんでした。」
美香子さんが家に来てそうそう土下座をして謝ってきた。いつもあのクソがこういう行動するたびに謝るのは美香子さんなんだろう。
「美香子さんが来てくれてよかったです。子供だけじゃ生活できないので…」
「罪を償うために来たと言っても良いんだ。私、由香子(ゆかこ)が虐待されてるの見てみぬふりしてたから。」
由香子は俺の母親の名前だ。
「でも、お母さんが出てってから当たり散らかされるようになったのは美香子さんでしょ?」
姉ちゃんが美香子さんの体を見て言う。確かに、バンソコウや包帯だらけだ。
「そうだけど、由香子はもっと苦しんでたと思う。」
「出てきて大丈夫なんですか?あのクソジジイになんかされませんか?」
「大丈夫、でもあんたのスマホ、番号わかっちゃってるからねー。」
「あ、やば。」
「この際、ケータイも新しいの買ってあげる。」
「そんなにお金あるんですか?」
そうだ。美香子さんはクソジジィの元にいたんだ。金なんてあるのか?
「事故を起こした相手から損害賠償が払われるでしょ?あれを使ったり、私もそこそこお金を貯めてたから買えるよ。」
「「「あー。」」」
3人同時の納得に美香子さんは「さすが兄弟」と爆笑していた。
「名前教えてよ。あんたとかじゃ嫌でしょ。」
「長男の真琴です。」
「真琴と双子の美琴です。」
「次男の蒼汰です。」
「双子とか面白いね。しかも一卵性双生児か。興味がある。あと、蒼汰。あんた頭はいいよね。そっちも興味があるな。」
謎の興味を持つ美香子さんに笑ってしまった。普通に暮らせて、普通に笑える。これが俺の望んでいた暮らしかもしれない。母さん、今まで苦労をかけてごめん。今まで育ててくれてありがとう。今まで愛してくれてありがとう。
ー次の日ー
「あれ、蒼汰って中学3年生なの!?待って待って、進路は?」
「あ、心配しなくても大丈夫です。兄ちゃんと姉ちゃんと同じ高校行くので。」
「そっか…行ってらっしゃい。」
行ってらっしゃい、普通の言葉だ。でも、それをかけてくれることが嬉しかった。もうすぐ高校生、ドキドキとワクワクが止まらない高校生になりそう。母さん、天国で見ててね。
長くなってしまいましたけど、家族編終わりです。
言葉遣いが荒くなる一面もありましたが、お母さんが大好きと伝わればなと思っています。
由香子(ゆかこ)は主人公のお母さん。由香子の妹が美香子(みかこ)でした。
元父親の謎も物語の中で解き明かしていきたいと思います!
それではまた。