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独白
晴瀬です。
独り言を言う少年の話です。
僕の話、聞いてくれるの?
へへ、ありがと。
僕のさ、めちゃくちゃな人生だったんだよね。
聞くのも、面倒で気持ちが悪くて胸がもわもわするような本当にやな話。
いつも死にたいって思った。
でも思うだけでさ、行動に移す勇気はこれっぽっちもなかった。
死にたいのに、死ぬことが怖かった。
殴られることが、蹴られることが、罵られることが当たり前になった。
お母さん、新しいお父さん。
何故僕を嫌うのですか。
何故僕に構うのですか。
何故僕を見るのですか。
何故僕に暴力を振るうのですか。
何故僕に、たまに優しくするのですか。
期待してしまうのです。
今日優しかったなら、明日も優しいのではないか。
これまでが夢で目が覚めたら皆優しくなって僕に笑いかけてくれるんじゃないかって期待してしまう。
いつもいつもそんな夢を見て、起きて、絶望する。
世界は何も変わらない。
友達もいない。
家族なんかいないも同然。
僕に頼るところはない。
面白いよね。
つまらないくらい面白い。
死ねって死ねって死ねっていつも言いたくて、言えない。言えなかった。
何も変わらないこの環境にも糞なこの世界も、それをしょうがないと受け入れようとしている自分にも。
全部死んでほしかった。
隕石でも落ちて、人類絶滅しないかなって、想像していつまで経っても隕石なんて落ちてこなくてまた絶望して失望する。
そんな毎日の繰り返しで、ある日僕は問いかけるようになった。
自分に。
何故生きているのかと。
何故お前は生きている?
何のために生きている?
自分のため?
これが自分のためになっていると思うか?
人のため?
これが人のためになっていると思うか?
なっていないだろう。
なっていないだろう。
死んでも同じ、生きても同じ。
なら、親という都合のいい言葉を都合良く使う|彼奴等《あいつら》を、彼奴等のサンドバックをなくして苦しめてやろうよ。
ねえ
僕が死ねば彼奴等は怒り狂う。
彼等のストレスの行き場がなくなって、どうすればいいか分からなくなる。
きっと僕と同じ状態になるんだろうよ。
僕みたいに何故生きているのか分からなくなる。
やっと働き出した脳に問い掛ける。
何故自分は生きているのだろう、と。
母親はどうするだろうか。
父親と名乗る彼奴は。
今の彼奴等の脳味噌は働いていない。
体だけ動かして溜まったストレスを僕に当たり散らして。
僕を失ったら、お前らは生きていけないだろう?
ああ、面白い。
楽しくて楽しくて仕方がない。
こんな想像に夢を憶えるようになったってことは遂に僕も終わりだ。
おしまいだ。
長い長い|噺《はなし》を聞いてくれてありがとう。
僕はこれから忙しいからさ。
ねえ、彼奴等どうなるかな。
彼奴等、僕がいないと生きていけないんだよ?
ねえ、ああ、楽しいよ。
とても楽しい。
愉快で愉快で仕方がない。
僕は、いなくなる。
ああ、僕がいなくなるんじゃない。
彼等に従い続けた馬鹿な奴がいなくなるだけ。
僕はいなくなったって彼奴等を見て笑うさ。
どんな風に周りに演じるか。
どんな風に怒るのか。
どんな風に狂うのか。
ああ、観察だ。
死んでしまうことに、夢を憶えるよ。
僕みたいに思う人は何人いるだろうか。
桜。
ちょうど桜が見えた。
綺麗。
でも、死んだら桜にでも生まれ変わって死にたい人を助けたり、したいかな。なんて。
あ、もう時間だ。
早くに発見してもらいたいんだよ。
血塗れの僕を。
1番憎い彼奴等に、血塗れのぐったりした僕を。
そろそろ彼奴等は帰ってくる。
ナイフを握る。
大きなナイフ。
料理をしないくせに、母親が買ってきた。
大ぶりのナイフ。
こんなことに使うとは思いもしなかった。
柄を持ち、ナイフの刃先を自らのお腹に向ける。
死んでしまえ。
自分も、彼奴等も。
僕は手に力を込めた。
桜は散った。