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〖奇怪な跡のような〗
語り手:橘一護
福井県のとある山中にて、従業員が汗水垂らしながら、接客に追われながら、マネージャーに怨みを募らせながら、今日も労働時間は8時間オーバー。
8日勤務制は未だに変わらず一刻一刻と無情に一年を刻んでいく。
終わりは...いつか、あるかもしれない。
●空知翔
23歳、男性。地毛は黒髪。黒髪を白で染めている。
実際にいたらお爺様みたいだね。
寺生まれ寺育ちの友人Tさんがいるとかいないとか...多分いない(断言)
霊感はないが、勘は鋭い方の残念なイケメンらしい。
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嫌な汗が首筋を伝う。何とも気味が悪く、この場から逃げ出したくなるような焦燥感に駈られる。
腰にぶら下げたグロック17のような形状をした銃器を取ろうとして、それが触れる前に宙に舞った。
正確には取ろうと手を伸ばした瞬間、触れてもいないのに宙を舞い、床に落ちたといった方が分かりやすいだろう。
「...なんだ?」
落ちた銃器を拾おうと屈んだ時、後ろから蹴り飛ばされるような感覚で前に倒れた。
「痛...なんなんだよ...」
立ち上がろうとして、今度は後ろから踏みつけられるような感覚に陥る。
そこで確信する。確かにそこに何かがいる。それも以前のように姿の見えない何かだった。
それに対応しようと落ちた銃器に手を伸ばし、そのまま構えて引き金を引いた。
銃撃音は鳴った。けれど、手応えはなかった。
何かに当たるわけでもなく銃弾はすり抜けるような感じだった。
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「...柳田さん...突撃部隊は何をしているんだ?」
施設の外で消費者が倒されるのを待つ清掃部担当の男性が呟いた。
それに続けて、惣菜担当の女性も愚痴を溢す。
「遅くても二時間で終わらせているのに...もう三時間よ?」
「ひょっとして、警報音の故障だったんじゃないか?」
「そんなはずないわよ、前に空知さんが水で故障してるかもしれないからって点検してたのを見たわ」
「じゃあ、一体...なんだって言うんだ?」
「ぼ...僕、変なのを見たんです!」
そう言ったのは従業員の中でも一際幼い青年だった。
「変なの?どんなのを見たんだ?」
「かっ、髪の毛の長い...顔の潰れた_」
その言葉を言った途端、青年が白目を向き泡を吹いて倒れた。
そして、気味の悪い笑い声が響いた。その笑い声の主は青年で、悪魔のような笑い声と裏腹に共に先程まで話していた全員の顔から血の気が引いた。
柳田や一護、空知は帰ってこなかった。
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「...やっぱり、何もいないですよね?」
「ああ...でも何か...気持ち悪い雰囲気じゃない?何か、暗いというか重いというか...」
「それは...そうですね...こうして歩くと、小学生の時に友達と夜に廃墟に言ったのを思い出します」
「へぇ?結構やんちゃしてたんだ。一護君、そんな風に見えないからさ」
「そうですか?八代...友達とかは、悪ガキグループだって言われましたよ」
「そんな時代もあったんだねぇ」
気ままに話す彼等の傍で
「あのさ」
はい?
「いつものにしない?これ、コメディなんだよね?」
えぇ?えぇ...えぇ?
「このままだと、完全ホラーで討伐なんて出来そうにないし...何より、消費者が強く、怖く見えるからそろそろ...」
あらやだ、怖いの嫌い?
「嫌いではないけど...このまま行くと...ちょっと...」
なるほど、なるほど...では...。
✄---------キ リ ト リ ---------✄
「...やっぱり、何もいないですよね?」
「ああ...でも何か...気持ち悪い雰囲気じゃない?何か、暗いというか重いというか...」
「それは...そうですね...こうして歩くと、小学生の時に友達と夜に廃墟に言ったのを思い出します」
「へぇ?結構やんちゃしてたんだ。一護君、そんな風に見えないからさ」
「そうですか?八代...友達とかは、悪ガキグループだって言われましたよ」
「そんな時代もあったんだねぇ」
気ままに話す彼等の傍で何やら物音が鳴った。
ゴトっとした物音に一護が目をやる。見れば、うつ向いた誰かがそこにいた。
「...誰ですか?」
「あんたも、誰なん?」
おうむ返しで話にならないようだった。それが何回も繰り返される。
「縺ゅs縺溘b縲∬ェー縺ェ繧難シ」
「.........」
やがて、それが奇妙な言葉になった。
「繧ヲ繝√?諞台セ晞怺豁鯉シ」
その言葉を聞いて柳田が携帯を弄って...
「|憑依霊歌《つかれいか》...能力は|霊格操作《ゴーストオペレーション》だそうだよ」
「え?早くないですか?」
「それが、解析部隊の方も突然機材が砂嵐になったり電源がつかなくなったりしているみたいで...色々と解析したらこの消費者が原因らしい」
「縺ゥ縺?@縺ヲ繧ヲ繝√?縺薙→縺悟?縺九k繧難シ」
「そうなんですね...どんな能力なんですか?」
「それが...」
唐突に憑依霊歌が拳を強く握って力を込めると何か複数の人がいるような気配が強くなった。
「...霊を創ったり操ったり、従わせたりするそうだ...」
「それは、また...非科学的ですね...?」
その場が雰囲気がとても重く、沈みこむほど落ち込んでいた。
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縺翫>縺ァ縲√♀縺?〒縲√♀縺?〒
「っ...クソが...」
あれが人間ではないのがはっきりと分かる。
目に見えるわけではなく、目を掠めて黒い霧のような嫌なものが微かに分かる程度だった。
きっと銃撃も斬撃も効かないのだろう。拳なんてもってのほかだ。
物理は効かない。これが厄介なものだと改めて思い知らされる。
「怪談とか、幽霊とか...怖くなんてないけど...ちょっと、苦手なものに加わりそうかも...」
縺翫>縺ァ縲√♀縺?〒縲√♀縺?〒
よく分からない言葉を言っているのか流しているのか分からない。
何か、打開策はないのか。物理的ではなく、呪術的な...。
廊下、従業員専用部屋、温室プール、食肉コーナー、図工コーナー...神棚のある、怪談で使ったあの部屋。
あの部屋なら...あの部屋には`神棚`があるはずだ。近くにはキッチンもある。やるなら、これしかない。
その黒い霧のようなものから離れて、キッチンへ急ぐ。
キッチン棚に塩とライターがあるのを確認し、急いで取って神棚のある部屋へ転がるように駆け込むと神棚に塩をやり、灯明をした。
そして、柄にもなくただ祈る。神力というのは...非常に融通が効かないと常に思わざるを得ない。
今も尚、何かは近づいてきているというのに何も出来ず、神職とは無縁なことにつくづく悪態をつかざるを得なかった。
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なんとなく、重い雰囲気がうっすらと晴れたような感覚がある。
「...菴輔r縺励◆?」
それでも、複数人がいるような気配はなくならない。
その気配が強いところに向かって近くに手を振ってみても風を切る音がするだけだった。
「柳田さん、やっぱり物理は効きません...」
「...グラビア雑誌とか...効いたりしない?」
「いくらなんでも、無理でしょう」
そういえば、あっち系は幽霊に効くって話どこから出たんでしょうね?
「...反応しないよ」
「ところで、これ、どうします?」
「ああ...お札とか持ってたりしない?」
「持ってるわけないじゃないですか!」
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何かが変わった。そんな気がした。
近くの何かが消え、目の前の塩にどこか安心感がある。
ただの塩。ただの塩に過ぎないが、もしかしたら...効果があるかもしれない。
塩を持って、複数人が暴れているような音を頼りに歩みを進めた。
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奇妙な感覚が後ろからしていた。どこか安心感があった。
後ろから白い粉のようなものが投げられて、それが憑依にかかった瞬間に肉が焼けるような音と匂いがして全てがすっきりしたような雰囲気に包まれた。
「...何ですか...?」
「...多分、終わったんだよ」
一護の言葉に空知が応えた。どこか憑き物が落ちたような顔をして、憑依の身体を抱き抱えて歩こうとした。
三人が廊下を歩きながら話していた。その中で不意に柳田が訊いた。
「...翔、この人はどこか異質な気がするんだけど...何をしたの?」
「別に。神頼みな覚悟で塩投げたら上手くいかないかと思っただけ」
「へぇ...その割には切羽詰まった顔してたように見えたけどね」
「そう見えました?」
「うん。まるで何かから逃げたみたいだったよ」
「......それは.....」
「また、怪談でもする?」
「勘弁して下さい」
後ろからついてくる一護が二人の会話を聞きながら呟く。
「商品の被害はなかったですけど、精神的にキツかったですね...」
「...それもそうだね。ここを出たら...」
柳田の言葉を遮るように空知が言葉を被せた。
「皆の対応に追われるね」
抱えた憑依を支えながら空知が誇らしげに笑う。
全員が扉から出た時、出迎えた他の部隊や消費者の安堵したような顔があった。
その後ろで一護は長い黒髪の女性を見た。
髪は垂らさず、艶やかな黒髪が風になびいていた。
言葉は口にしなかったが、ただ今日の本当の終わりと安寧を強く感じたと共に今日に限って暑く雲一つない青空がとても心地好かった。