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【第二話】シェアハウスって夢がある
お前はなにひとつ、残せはしない
思い出、愛に名声。それらは無価値なもの
お前はなにひとつ、持ち出せない
【死】はすべてを奪う。例え神からでも
ただひとつ、確かなもの。そんなのはない
「 さあ、私とおいで」
囁き声は私を突き動かす衝動
「貴女は愛おしい傀儡」
あの日。
いつかの日に、私は死に。
そして今蘇る。何度でも。
蘇ろうとも、自ら目指す当てもなく。
|詩《祝詞》も忘れて
何度でも死ぬためにここに戻る。
人を望む愚かな妖怪
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紫苑 「|零《ゼロ》…あれって…」
紫苑の視線の先には耳が生えていた
人間の耳ではなく、いわゆる猫耳
紫苑 「人…じゃないだろ?」
コスプレの可能性もある
だが、不自然なほどピョコピョコと動く耳に紫苑は違和感を持ったのだ
よく見ると尻尾も生えている
零 「いくらなんでも、こんな所で耳見せる人はいないでしょ?」
紫苑 「あるだろ。現に俺とかそうだし」
零 「そうですけど…」
困ったようにしている零とは対照的に、顔を輝かせる紫苑
証拠に紫苑の尻尾が横に揺れている
紫苑 「…んじゃ、話しかけてくるわ~」
そう言って紫苑はその人に話しかけに行った
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紫苑 「なぁなぁ~お前、耳生やしてナニしてんの?」
初対面の人に余りにも高圧的に話しかけるものだから―
?? 「エッ…だ……誰ですか?」
耳と尻尾の生えた少女を驚かせてしまった
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紫苑 「なんやかんやで連れてきた訳だけとも…人いなくね?」
怖がっている少女―…|篠崎 猫鬼《しのざき ねお》を連れ、シェアハウスに戻ってきた二人
紫苑 「取り合えず座ってくれ」
立ったままの猫鬼を座らせ、紫苑はグラスと飲み物を取り出す
零 「|キミ《黒猫》も頭じゃなくて、椅子に座りなよ」
猫鬼の頭上で堂々と居座る黒猫をどかそうとする零
しかし、黒猫がそれを拒む
猫鬼 「だ…大丈夫です。………ソルは、そっちのほうが……落ち着くみたい。…あの、ソルは…猫の名前で………」
猫鬼はソルの頭を撫でる
ソル 「ニャン!」
紫苑 「本人がいいなら俺らはなん言わねぇから安心しろ」
紫苑はグラスを零と猫鬼に渡す
ほんのりと甘い香りのするオレンジのジュースだ
グラスには水滴が流れている
猫鬼 「ありがとう…ございます……」
反射的に受け取ったジュースをじっと見つめる猫鬼
紫苑がジュースを飲んだことを確認すると、猫鬼もおそるおそる口をつける
猫鬼 「美味しい…」
零 「良かった。しおんが変にこだわって徹夜で作りましたからね」
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【補足】
そのジュースは、カフェの新メニューのための試作品です⭐
変なところで神経質な紫苑。
他の人にも手伝って貰ったけど、結局徹夜でした⭐
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紫苑 「お前らが雑なんだよ。ま、これなら店に出せんだろ」
猫鬼 「……お前ら?…………お店?…」
紫苑 「…っとな、俺はここでシェアハウスしてんだ。んで、外のトコでカフェもやってんだ」
紫苑は自分のグラスに残ったジュースを飲み干す
カランと、氷が音をたてる
零 「ちなみに俺もシェアハウスの入居者。他にもいるよ」
紫苑 「ちなみに、入居者全員人外。俺も含めてな」
猫鬼 「…みんなも?」
キョトン?とした顔で首を傾げる猫鬼
零は優しそうに微笑む
零 「しおんが許可した人は、ここに居ることが出来るんだよ。ただし、人にダメだけど」
紫苑 「………人間はろくなことにならない。対して人外は居場所がないとかで簡単に丸め込めるからな」
猫鬼 「そう……なんですね……」
紫苑 「………」
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暗がりに転がる愉しみを
後悔しない選択を
正しさを
大人様がほっとくわけがないじゃないか!
人生の主人公を見つけ出し、引きずり出してスポットライトを浴びせたおせ
「ソシテ喰ライ尽クセ‼」
それが我々の生きる道
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零 「しおん?聞いてますか?」
紫苑 「あ、あぁ…悪い。聞いてなかった」
夢から覚めた後のような感覚に違和感を覚えつつ、紫苑は答えた
紫苑 「俺を楽しませること。それがシェアハウスに住む条件だ」
猫鬼 「…えっ?」
理解出来ないとばかりに猫鬼は戸惑う
ソルも飼い主(?)の心を察したらしく、たじろいでいる
零 「全くもう…」
零はクスリと笑い、ジュースを飲む
紫苑の気持ちは分かるから好きにしろ、という零なりの合図だ
紫苑 「お前がもしよければ…一緒に暮らさないか?」
※告白ではありません
本日の参考
幽鬼傀儡
リアル初音ミクの消失
初登場
まろんさん提供