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【魔導院結界】参
「闇鍋よ〜、かき混ぜかき混ぜおいしくなぁれ〜」
とても大きい鍋に、紫、赤、青、緑。
何とも言えない奇妙な液体?汁が。
そしてとても大きいおたまでかき混ぜる、少女がいた。
彼女の名前はリナーメル。
この国の姫であり、女王ミーナルの義理の娘。
かつてはミーナルの親戚の娘であり、諸事情により引き取られたエルフの少女。
エルフは治癒魔法に長けており、基礎魔力も高く、魔術界において優秀な種族だ。
「う〜ん、あんまり美味しくないなぁ〜」
よく混ぜられたその奇妙な液体をお椀に注ぎ、口に含むリナーメルは、緩く顔をしかめる。
その時。
コンコン、とノック音が響いた。
「はい?」
ガチャリと扉が開かれる。
「こんにちは、只今お時間ありますか?姫様」
こそりと覗いた顔はラン。
「何の御用で?」
「ルノア教授から、貴女に話があるとのことで」
ランは、頭を少し下げて言う。
「お二人きりの会話を望まれているのですが、どうしますか?」
「…それなら、そうする」
リナーメルは僅かに困ったような表情になり、頷いた。
そして、面会室めいた部屋へ、静かに入って行った。
「あら、リナーメル様。この度はお呼び立てして申し訳ありません」
「全然いいよ、たまにはお喋りしたかったし。…で?話があるって聞いて来たんだけど」
ルノアは急にリナーメルへ顔を近付けた。
「あなたレヅサとルィと関係があるようで?」
ーーーー。
「ルィ、ランどこにいるか知ってるか?」
ラウニャはルィに聞いてみたが、「知らない」と言われた。
追加でルノアも来ない。
ルィにとっては睡眠時間的に良き良きTimeだが、ラウニャは早く授業を終えて帰りたい気持ちが強かった。
他の生徒たちもざわついている。
『王国とか、めちゃ大変だよな〜。
つくづく思う。
特に、このレベリアー皇帝国。
魔術にも政治にも必死になって。
おかげで、他国との乱闘に圧勝圧勝。
私も何度か戦争に巻き込まれた。
が、これが他国の騎士たちは弱く、脆かった。
少し話せば揺らぐその心は、暗く、逆に美しいまであった。
それはそれは良い思い出。
呆然と佇む騎士たちが、私に次々と斬り落とされていくあの光景。
そしてこの国は、エニアス銃刀権利戦争に勝利を刻んだ。
というのは五十年ほど前の話。』
黙々と、衰えた騎士はこんな風に、自分が前線に立っていた時のことを書記に残していくのだ。
中には「怖かった」「恐ろしかった」などと怯える騎士の書記もあったが。
上記に記されている文章は、楽しんでいた。
それこそ、悪の組織のボス的に。