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両片想い
白衂
「お前マジでうざいんだよな」
俯いたままの女にそう言い放つ。
髪の先から雫が落ち、全身が水で濡れた女の側に転がるバケツ。
誰がどう見ても加害者がわかる程に酷い有様だった。
水滴の落ちる音と小さな泣き声の響く教室。
「ゎ、私、なにもしてな…」
床に落ちた眼鏡を拾おうとする手に気付き、既にフレームの歪んだ眼鏡を蹴り飛ばした。
追いかけようとする女の一つに纏められた髪を引っ張ってやれば、プチプチと抜ける音がする。
俯いてすすり泣く姿に余計に腹が立つ。
女の鞄をひっくり返すと、教科書や財布が床の水たまりに落ちる。
パスケースを拾い、学生証の裏に入っていた友人の写真を抜き自身のポケットに仕舞った。
確かこういうのはおまじないだったっけ。
だとすれば、この写真を入れてる奴は他にもいるんだろうな。
「掃除しとけよ」
それだけ言い残し、教室を後にする。
足跡を残しながら急いで階段を駆け下り校門まで走ると、退屈そうな表情の友人が居た。
「凛、ごめ…待たせた…」
「おせえ」
差し出される鞄を受け取って、二人で歩き出す。
「で、忘れ物はあったのかよ」
その言葉に動揺しながらも、バレないように話を合わせようとする。
「うん。まあ…」
隠さなければ嫌われてしまう。
いじめの理由が目の前の相手への好意からだとしても、きっと許してはくれないだろうから。
濡れた服の袖を握りしめて話を逸らす。
横顔を見つめる、全てを見透かした瞳には気が付かなかった。