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天ノ子 弐
「遅くなりました。星が思いのほか綺麗だったもので。」
玄関からシャンデリアが飾られている。なんて豪華なんだ。でもシャンデリアより星の方がよっぽど綺麗に感じる。後ろを見るとしっかりついてきている死神がいる。死神はシャンデリアを見たのか、それとも広い廊下を見ているのか見とれたようになっていた。そもそも他の人から死神は見えるのか心配だが、何事も挑戦だ。
「おぉ、おかえり圭。今日の星々に名前を付けるとしたら何…ん?そこのお嬢さんは?」
階段から降りてくるブランド物のチェックシャツを着た茶髪の条おじさんがスリッパを履いてやって来た。髭が全くなく清潔感のあるこの人は、優しくおすそ分けなどを良くする人で近所からも人気者だ。そんな条おじさんは目を丸くさせて言った。フードで顔が見えていないのにどうして女性とわかるのか…すると死神はすぐに答えた。
「私は織斗と申します。この度は夜中に大変失礼しました。突然で申し訳ないのですが、今日からここに住ませて貰えないでしょうか?」
丁寧な言葉遣いだとは思ったが、住ませてと言うとは。
「お嬢さん、家は?」
「家はありません。親に捨てられてしまって…」
悲しげに言う大噓つきの死神だ。何となくわかる。条おじさんは異常にお人よしだ。これを断るはずがない。
「そうなのか、それは辛かっただろう。いいぞ。困ってる人を助けないのは一生の恥だ。ここは広い。どの部屋を使ってもいいぞ。」
「ありがとうございます!!」
案の定だな。死神も死神らしくない嬉しそうなオーラが漂っている。
すると、条おじさんはハハハと笑いながら執事の吉伴を呼んで部屋を案内させた。条おじさんはニコニコとして二階へ戻っていった。俺は死神が何するか不安があるため、ついて行くことにする。吉伴は一階から部屋を紹介していき、二階へ上がった。俺の部屋は二階。絶対ないと思っていた、俺の部屋の隣に住むなんて―。
「圭様、良かったですね。」
何故か嬉しそうに言うメイドに「良くないよ。俺の隣なんて最悪だ。」と言い返したが、そのまま笑顔で何処かに行ってしまうものだから、また変な妄想をしているのだと思い、部屋に戻った。モノクロの家具で揃えられている部屋はまあまあ気に入っている。風呂に入る気分じゃなかったため、朝風呂をすることにした。俺はそのまま着替え、ベッドに潜り込んだ。空を見ていただけなのに突然死神に出会ってしまった。今日は運が悪かったなと考えながら、眠りについた。
朝カーテンを開き、眩しい日差しが部屋を明るくさせた。死神は何をしているのだろうとほんの少しの興味で隣の壁に向かってノックした。すると壁からにゅーんと半透明の死神が現れて、俺の部屋に入った。
(透ける機能もあるのか、死神は。)
おはようと言うと、死神はおはよう?と疑問系の言い方で返してきた。死神は寝ないのかなと思いながら、部屋を出た。朝風呂に行く。死神はついてくる。
「今から朝風呂するんですけど。」
「えっあっごめんじゃあこの家グルグル周っとこうかな。」
そういうと死神はすぐに俺から離れて立ち去った。引き続きお風呂に向かおうとすると、床に何かが落ちているのに気が付いた。光に反射して美しく輝くものだから高級なものだろう。しゃがんで見てみると、ルビーのようなものがついたネックレスが落ちていた。そのネックレスにはとても不思議な感覚がしてこの世で最も高級なものなのかそれともこの世の物ではないのか、そんな気がした。多分さっきいた人だから、死神のものかなと思ったので、ネックレスを持って死神の部屋のドアに掛けた。やっと風呂に入ると、ストレスが無くなっていくようにとてもほっこりする。何も考えないのが一番いい入り方だと考え、心を無くして入っていた。湯気がもわもわと漂う中、死神に事だけが頭のいっぱいにした。