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MEET
「お前は|銃《それ》を持て。私は《《これ》》を持とう。」
彼はそう言って、大ぶりの弓矢を自分の前に掲げた。
「今は真夜中だ。」
その言葉で、自分の周りに一瞬霧散した煙が戻って纏わりついているのに気づいた。
銃を握る。空中に向けて引き金を引く。煙は再び消えた。
夜というだけあって、一寸先は闇。何も見えず、距離感も存在感も掴めない。
「だが、迷うことはない。この弓矢で、私はお前に場所を教えよう。」
彼が弓を構える。天に矢の先を向けた。ゆっくりと、矢を握る右手を引く。離した。ギュイイ……ン、と独特の音を発して、矢は夜の闇に消えていく。
そして———花火のように、矢は空中で|爆《は》ぜた。
出発だ、という声で 走り出した。
「自分たちはどこへ向かう?」
自分が問う。
「そんなものはない。止まることもしない。」
返事が返ってくる。
何度も、足がもつれた。
しつこくしつこく、何度も雲と化した煙は 自分に張り付いてくる。
走れない。動けない。
その度に銃を撃って、時折 天に爆ぜる矢を頼りにして、走り続けた。
硝煙が目に、鼻について気持ち悪い。
つまづいて転んで、膝を擦りむいた。痛みが走って、思わず銃を握りしめる。
走る音も、布擦れの音も、呼吸する音も聞こえない。見下ろしても、自分の体は暗く見えない。もちろん、彼の姿だって見えない。
ギュイイン、という音とともに、空が|眩《まばゆ》く光る。
闇と静寂の中を、ひたすら走り続けた。
どこに行くのか。それすらも分からない。
真っ暗な空が、茜を帯びる。
地平線が姿を現す。黄土色の地面が見える。
前で走る、彼の姿が見える。肩までの黒髪が揺れている。
背中に背負っている大ぶりの弓は、|赤銅《しゃくどう》色をしている。
———夜が明けた。