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少女Sの切望(二)
第一章 『夕陽が溶けたリノリウム』
そもそも、僕が彼女と出会ったのは三ヶ月ほど前の一学期の終業式の日の放課後だった。机の中に数学の教科書を忘れたのでそれを取って帰ろうと訪れた教室は静まり返っており、あること以外はいつもの教室だった。
「は………?」
思わず呆けた声が漏れてしまった。
誰もいないはずの教室の机の上で、知らない女子生徒が踊っていた。見たところかなりの美少女で、透き通るような白い肌によく映える、腰まで伸ばした黒い髪がよく目立つ。
その女子生徒はこちらには気づいていない様子で、バレエのようなステップを挟みつつ机上でくるくると器用に回転しながら舞う。少女の身体が動くたびに風を受けて靡く長髪が陽の光を浴びて輝く。
しばらく、僕はその光景に見惚れていた。ただ、声を掛けるでもなく、 呆然と見つめていた。
暫く舞っていた少女だったが、僕の方に気づいたようで、ピタリと動きを止めた。机から音を立てずにひらりと飛び降りて、瞬きする間もなく僕の目の前に寄ってきた。
「ねぇ……君……」
詰め寄る彼女の瞳に僕の引き攣った表情が映り込んでいる。そんな僕のことにはお構い無しに、彼女は僕の耳に囁いた。
「私のこと……見えてる……?」
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「つまり、君は幽霊だと?」
向き合った二つの机。そこに座って向かい合うのは僕と一人の少女。先ほどの出来事があってから、彼女が僕に話があると言い出し今この状況に至る。僕が彼女を見つめると、彼女は落ち着かない表情を浮かべて俯いた。
「うん……まぁ……」
そうボソボソと呟いた少女をもう一度よく観察してみる。少しふわりとした癖毛の黒い髪。小さい顔には僕を怖がっているような表情が張り付いており、チラチラとこちらを覗いては僕と目が合いそうになってまた俯く。見たところ制服はこの高校のもので、黒を基調とした生地に首元まで趨る赤いラインの形状が一致している。校章も全く同じもので、この高校の生徒であることは間違いないだろう。
「実は私幽霊なのって言われても、まぁ信じることはないだろ」
「うん、私もそう思う」
なら何故言ったのだろうか。おちょくっているのかと鋭く睨むと、彼女は慌てて続ける。
「いや、そのっ!別に君で遊んでるわけじゃなくて……!!」
「本当に真面目な話なんだろうな……?第一君が自身を幽霊と認識する根拠はなんなんだ?見た感じただの女子高生のようなんだが」
「根拠って言われると難しいけど……」
少しだけ、少しだけ彼女の顔が歪んで、震えながら唇が言葉を紡ぎ出した。
「君は、下柳 霊 って子を知ってる?」