それが君の幸せであったとして。

「明日は短縮授業なんだ。」 突然彼の口からそうこぼれる。僕は「そうなんだ」 とありきたりな返事をすることしかできなかった。 「だからさ」 「一緒に帰って、そんで、飯食ってさ。」 「でも僕は、明日の授業は短縮ではないよ。」 「それくらい待つよ。」 またこの男は。 今僕のとなりを歩いている男、シマくんは、少し強引なところがある。 じんわりと汗が滲む季節になって、結構な日がたったというのに。 そんな中でたかが男一人を待ったところで、なんの得にもなりやしない。 僕が絶世の美女であれば、話は別かもしれないが。 「暑いよ」 「木陰で待っておけばいい。」 「…時間の無駄」 「俺が待ちたくて待ってんのに。」 ああもう。 「…課題」 「え？」 「作詞の課題、出てるから。良いフレーズ浮かぶまで、付き合って。」 むちゃくちゃな等価交換。 彼はさらりとした髪を揺らして、 「なんだそれ。」と無邪気に笑った。 それが仮に、君の幸せであったとして。 僕がその糧になるなら、いっそなんでもいいか。と思う。