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第参話【真】
__寒い。__牢の中の気温はとても低い。__寒い。__誰かの足音が響く。__寒い。__誰かが牢の前に立った。__寒い。__あの男だった。__寒い。__あの男は去ってった。__寒い。__また誰か来た。私は顔を上げる。そこには、銀髪の可憐な少女が立っていた。少女は驚いたように目を見開いた。驚きたいのはこっちだ。
「誰?」
私はか細い声で聞いた。ここ数十日、まともに声を出していなかったから、かすれた、変な声になってしまった。
「私は、シラハ・カナリアス。貴方は?」
高く柔らかく、どこか不思議な声で少女、シラハは答えた。
「私は……………ユヲネ・ヒペリカム………。」
少し答えに戸惑った。まさか、名前も一瞬忘れるなんて自分でも驚いた。
「ユヲネ………さん?」
シラハは躊躇いがちに聞く。さん付けの呼び方になれない。
「ユヲネでいいよ。」
大分、普通に戻った声でシラハに言う。シラハは眉を少し下げつつも、頷いた。
「ここって………?地下牢………ですよね?なんでユヲネはここに?」
「成功例だから。時が来るまで、ここに閉じこめられてるの。知らないの?」
私が聞くと、シラハは真っ直ぐ頷いた。どうやら、本当に知らず、無関係ならしい。私は少し警戒の目を緩める。
「今、何時?」
真っ暗な中、数十日いると、時間の感覚を忘れてしまう。
「丁度、十二時くらいです。」
もうそんな時間か。急に眠気が押し寄せてきた気がする。眠気を振り払うために、軽く頭を振る。洗っていない真っ黒な髪がバサバサと気持ちの悪い音をたてた。
「取り敢えず、また来ます。」
シラハはそう言い残すと、また梯子のところへと戻った。寒い。彼女がいなくなってから、また寒くなった。私は溜め息をつく。明日が、楽しみになるなんて、ここ数十日、思いもしなかったな。私は深呼吸をすると、彼女がまた来ることへの期待を胸に、横になった。目を閉じる。しばらくすると、穏やかな寝息をたてて、眠った。
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そろそろ、時かも知れない。彼女が………の方を見たのであれば、きっとそうだ。待っててくれ。………よ。もうすぐ、迎えにいく。夜空に浮かぶ月が、顔を照らす前に、立ち去った。
あとがき
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
いよいよ三人目の主人公が登場しました!
物語が、とうとう動き出す。
次回も読んでいただけたら嬉しいです!