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西部にて
都市「リンク」
この都市には、五つの区画がある。
最も治安が良いが、その治安の理由は上級民が下級民に高圧的な態度を取り、雑用することで抵抗できないようにしていることにある、「東部」
温度差が激しく、変異生物も多いため人口が著しく少なく、注意深いため内部の情報の漏洩が一切なく猛者ばかりの「北部」
全体的にスチームパンクのようで、西洋風の建物が多く、人口が最も多いが治安は中の下ぐらいの「南部」
天ノ嶺事件があったが、半分は復旧して、最も管理が行き届いており数多くの組織が展開されている「中央部」
そして、最も治安が悪く犯罪件数が最も多く、犯罪組織もまた夥しい量ある「西部」
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鉄臭い匂いが鼻を突き刺す。嗅覚だけじゃない。正確に人間の五感を抉ってくる。まず視覚だ。あそこには何が倒れている?四肢が切られている…いや、ミキサーにかけてグチャグチャにしようとしたが中途半端な状態でミキサーが止まったような感じのが。それも全身に。髪が出す現実的な質感が気色悪いほど吐き気を誘う。聴覚。何が聞こえるのか?日常茶飯事だが、遠くから聞こえる罵声と不定期で聞こえる弱々しい命乞いの声。そして、鉄パイプで殴ったような音。しかしそれ以外の音と言えば、ファンが回る音とそこら中に一定の周期で響く謎の重低音。なぜこんなに静かなのか。それは、静かに殺すことが得意分野な連中が多いからだろう。そして触覚。今は何も触っておらず、西部の空気を触っている。では少し、西部の空気について考えよう。まず空気は快適か、風は少し吹いているだけで、冷たくも暑くもない。ただずっと何かが濁っている。そして、何か場違いすぎる神聖な何かが漂っている。…味覚。過去のものなので正確ではないかもしれないが、今朝食べたトマトを思い出した。そこら辺に止まってたキャンピングカー。中は綺麗だったが何故か物が散乱してた。多分空き巣だろう。まともな食べ物がトマトしかなかったからしょうがなく食べた。地面の変な水分を含んで反芻したくなりそうな味だったがなんとか食べた物。そして今の味覚。何も食べていないけど、何か噛み締めてる。そろそろ何をするか考えなければいけない。まず西部で生き残るコツ。「罪悪感はなるべく捨てる。そして、殺されそうになったら先に殺す。初対面の人間の中で最初に見るべきなのは目つき。住人が不在ならば構わず空き巣する。使えるものは全て使う。食べ物は必要最低限。死体には慣れろ。」これぐらいのものが普通なのだ。西部では。左足を前に置いて、右足を前に置く。この動きをただ繰り返すだけでも周りに警戒される理由として十分なのだ。もう自分の名前など覚えていないし、性別だって覚えてない。最後に鏡を見たのはいつだろうか。でも、きっと気にする必要はない。気にしていれば死ぬのだから。
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歩いていると、突然黒スーツを着た長身の男が前からやってくる。そいつを横目で見ると、目は死んでいた。一切目を合わせようとしてこない。いや、違う。そもそも認識していないんだ。今持っている物は?折りたたみ式のナイフと昨日のキャンピングカーの冷蔵庫に残っていたピーマンだけだ。しかし無理に殺す必要はないだろう。無駄に体力を消耗する時点で恐ろしいのだから。ああ、そういえば私はどこへ向かっている?煙臭い南部だろうか。あそこならば歪な匂いの代わりに飢餓に苦しむことは多分ないだろう。とりあえず進むのだ。しかし、私は一体いつから西部にいるのだろうか。物心がつく前からここにいて、物心がつく前から血肉を見ているのは確実だ。思えば、仲間ができたことはない。ただ1人で子供の頃から見ず知らずの赤の他人を殺し、所持品を漁り、内臓を売り飛ばして生活の足しにしてきた。いらないものは全部売って、いる物は全部持って、使える物は全部使って、殺してきそうなやつは全員殺して、強そうな奴には全員忠実な態度をとって、弱い奴は殺して奪った。そしてただ理解したんだ。それだけだ。これがリンクだと。これがリンクの摂理だと。だから、この事実を以てどうして恐ろしいと言えるのか。恐怖しかないと言えるのか。何故、これが過酷と言えるのか。それ程までになったのがリンクではない。ただ、最初から定められていたんだ。この状態になることを。そして、そうやってまたいつものように思考を回らせていると、気づけば2人の男が道を塞いでいた。
「おいガキ、まさか|ここ《せいぶ》から出たいのか?」
「とんでもねえ臆病者だな。」
そして私が口を開く間も与えられなかった。何故なら、いつの間にか西部の路地裏にいたからだ。周りを見ると、武装した複数人が私を見つめている。1人は笑って、1人は怒って、1人は罵って、1人は泣いて、1人は真顔。縄で手首を縛られてて、頭が痛い。コンクリートの壁から伝わる冷気が後頭部を架け橋にして全身を冷却する。常に利己的でいたことが原因なのか、あの時あそこに行こうとしたのが原因だったのか。そんなものはもうわからない。一つ確かなのは、私は今から死ぬことだ。何もしていなければ。全身から沸騰する水になるぐらいの力を振り絞り…ただそれだけだった。今持っている物は?と思ったがどうせ没収されてるだろう。無理矢理立ち上がって蹴る?縄はどこにも縛り付けられていないが、向こうは武装してるし数の差がある。ただできることは?蹴ることだけだ。立ち上がるなら間違いなく床を蹴る。床を蹴れば衝撃で前進する。そのまま路地裏から出て、逃げる?ああ、そうだ、きっとそうだ…使えるものは全て使わなければ…そうやっていると、視界が暗転した。目が覚めれば、床に跪いて胃液を吐いていた。視界の八方向の隅が痛くて、暗い。眩暈がする。そうして、また吐き出した。吐き出した物が見えてしまった。骨だ。形からしてどこかの指だろう。そういえば、口が何故か痛い。血の味がある。口を開けようとすると、ミントのあのスースーした感じがして気持ち悪い。眩暈がおさまった頃、周りを見る。血の沼があった。もう一つ、いやかなりの量。骨があった。肉がまだ張り付いているものと肉がない完全な骨がある。何故か満腹だ。そして奴らの武装は…そこら辺に散乱している。全て折れている。しかし、一つだけ折れていない物がある。メイスだ。なんでこんなものを持っているのかはわからないが、メイスは手軽に入手できて威力も十分なのだからまあ10人に1人は持っている。納得したのも束の間、早くどこでもいいから行かなければ西部のどっかの組織がこの状況を調査したくなるだろう。そして、歩く。いや、走った。