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呪い屋 2
「呪い屋、今日も開店です。」
アリスはそう言って棚の整理を始めた。
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まだ見つからない。
母さんが殺されてからはや7年。犯人を探し続けて7年。当時5歳だった私はもう12歳。中学1年生にまでなり、7時の今下校している。
「どこに隠れてんだろう。」
私の母さんは医者だった。医者ということは助けられた命も助けられなかった命もあったわけだ。それを恨んで殺害、なんて理不尽極まりない。だってそれは寿命ということだ。人間いつか死ぬんだから。
「きれいな悪感情だなぁ。」
「は?」
急に声が聞こえてそちらを振り向くと金髪を二つ結びにして真っ黒なゴスロリを着た|娘《こ》がいた。
「殺したいほど憎い人間がいるけどその人間が見つからず殺せないと。」
何を言っているんだ、この|娘《こ》は…
「殺したい人間、殺すお手伝いしましょうか?」
「どういうこと?」
やっと言葉を発せた。びっくりしすぎて何も言えなかった。
「そのまんまの意味ですよ。あなたの探しているそいつを殺せます。」
そう言ってその娘は優雅に一礼するとこういった。
「まぁ詳しいことは店に行ってから。」
すると、電灯でうっすら明るかった場所が急に闇に覆われていった。
「アリス・ロペスと言います。この店の主人です。」
周りを見ると夜の住宅街からログハウスの前に移動していた。普通なら変だと思って取り乱していただろう。だけど私は不思議なほど落ち着いていた。
「殺したい人間がいるけど、そいつが見つからないと…」
その|娘《こ》、アリスは棚をゴソゴソし始めた。
「これこれ、買う人が少ないから捨てたかと思った。」
アリスはとてとて歩いてくるとこう言った。
「|“狂犬人形”《きょうけんにんぎょう》だよ。殺したい人間を探してそいつを殺してくれるんです。」
殺せる…あいつが見つからなくても…
「買う人が少なくて忘れてたからな、500円のところ半額で250円でいいですよ。」
買える…これが手に入ったら、私の今までの人生が報われる…
「はい。」
私はアリスの手に300円をおいていた。それはそれはごく自然な動作で、人を殺す道具を買った。
「商品とお釣りの50円ね。説明書よく読んでね。」
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気がつくと家にいた。私が一人で住んでいるオンボロアパート。
「夢…ではなかったんだ。」
私の手の中にはきちんと犬のぬいぐるみが収まっていた。
«今回はこの“|狂犬人形《きょうけんにんぎょう》”をお買い上げいただきありがとうございます!本商品は殺害したい相手がどこかに隠れていて見つからない、という時にうってつけのものです。
まずは“|狂犬人形《きょうけんにんぎょう》”の前にお肉を置きましょう。その後に「私の殺したい人間を殺して。」とお願いすればOKです。
さあ、自分の恨みを晴らしましょう!»
「焼いたお肉…」
確か豚バラがあったはず…
「焼いたほうが安全かな?」
フライパンに油を引き、お肉を焼き始める。
『クゥン』
その声はあの人形から発せられたものだった。
「ちょっと待ってなさい。」
『ワン!』
まるでわかったとでも言うようにいった。
「はい、おまたせ。」
そうすると、“|狂犬人形《きょうけんにんぎょう》”はすぐに食べ始めた。
「そんな急がなくてもいいよ…」
こんなにも愛くるしい生き物に人を殺せるのだろうか。
そういえば、
「君の名前長いから、あだ名つけちゃおっか。」
『ワフ?』
「新しい名前、なんかこんなのがいいとかある?」
『ご主人さまのいいのがいい』
そういえば
「あんた喋れるんだね。」
不思議と違和感はなかった。
『うん』
へぇ。
まぁ、名前…名前ねぇ……
「ぽんちゃん‼」
『ぽんちゃん?』
「うん。」
なんだい、その不思議そうな顔は?
『嫌なわけじゃないけど、なんでそうなったか聞いていい?』
ん?そんなの‥
「可愛いからに決まってるんじゃん。」
『はぁ』
ぽんちゃんは呆れたようにしてから、
『まぁ、いいか』
といった。
『で、本題に入るけど』
この時に私の運命が変わったのかもしれない。
いや、もう変わっていたのだろう。呪い屋で“|狂犬人形《きょうけんにんぎょう》”を買ったときから…
『殺したい人間は?』
いよいよだ。
「私のお母さんを、殺した人間。」
やっとだ。
「あいつを‥」
やっと…
「殺して。」
あいつが死ぬ。
『任せて、ご主人さま。』
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死んだかどうかの確認はできた。警察から、
「あなたの母親を殺した犯人が殺されたのですが、何か知りませんか?」
という非常に不躾な電話がかかってきたからだ。
「知りません。」
「そうですか。ありがとうございます。」
お役所仕事ってこんななんだなぁ。人を殺してもらった後なのに、こんなにも変わらないんだな。
『僕のお仕事ぶり、すごい?』
「うん。とっても。」
すると、ぽんちゃんはにっこりとして
『じゃあ、ごほうびちょーだい』
「つぅっ!」
痛い。
そんな声にならない叫び声が響いた。
『ご主人さまのお肉は、たくさんあるし食べごたえも良さそうだなぁ』
え。
『ご主人さまの嫌いな人は、そんなに美味しくなかったから』
私、食べられてるの‥?
『嬉しいなぁ』
嫌だ、死にたくない、嫌
「あぁああああああああああああああぁぁぁぁ!!!!!!」
アリス、恐ろしいもの持ってますね。売れないのもわかります。
読んでくださって、ありがとうございます!