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温泉と白石。
一行がたどり着いたのは、深い山奥にひっそりと佇む古びた温泉宿だった。
「たまには羽を伸ばそうぜ」という杉元の提案に、楓の胸は高鳴る。
(杉元さんと同じ屋根の下で、お風呂……! 女湯は別だけど、お風呂上がり、きっと少しだけ艶っぽくなった私を見て、杉元さんがドキッとしちゃうかも……!)
だが、楓には致命的な問題があった。
「太ももに括り付けた武装箱(便利道具入り)」をどう隠すか、である。
脱衣所の刺客
女湯の脱衣所。
楓は素早く服を脱ぎ、タオルを巻くが、太ももの箱だけは外せない。予備の弾丸、毒、そして先ほどまで使っていた改造拳銃……。これらは彼女の命、そして「杉元の影の守護者」としての誇りだ。
(……よし、大きなバスタオルで隠せばバレないわ)
意を決して浴室へ向かおうとしたその時。
「おーい、アシㇼパちゃーん! 忘れ物だぞー!」
ガラッと戸が開いた。入ってきたのは、あろうことか白石である。(※もちろん、男湯と間違えたか、いつものデリカシーのなさである)
「あ、楓ちゃん。なんだ、まだ入ってなかったのか」
「…………白石さん。……死にたいんですか?」
「ひっ!? いや、アシㇼパちゃんに石鹸を届けようと思って……って、え、何その足? なんでそんなゴツい箱巻いてんの?」
湯気の中の「曲芸」
白石の目が、楓の白い太ももに鎮座する「魔改造された黒い箱」に釘付けになる。
「……これは、最新の……サポーターです。里で流行っているんです」
「嘘つけ! 鉄の匂いがプンプンすんぞ! それに、さっきチラッと見えたけど、それ銃のグリップじゃないか……!?」
白石がデリカシー皆無で指を指した瞬間、楓の逆鱗に触れた。
外は杉元がいる。大きな音は出せない。
楓はバスタオルを片手で押さえながら、もう片方の足で白石の顎を無言で蹴り上げた。
「あぐっ!?」
「静かに。……もし杉元さんに『楓ちゃんって脚にえげつない武器仕込んでるよね』なんて一言でも漏らしたら……。白石さん、あなたのその頭、温泉の温度で茹でタコにしますよ?」
「……っ、わ、わかった、わかったから! その、脚を下ろしてくれ! 目のやり場に困るだろ!」
白石は涙目で脱衣所を這い出した。
湯上がりの奇跡
その後。
なんとか箱を防水の布で包み、湯船の端っこで「絶対に見られない角度」をキープして入浴を終えた楓。
湯上がりに、くしで丁寧に髪を整え、朱色の袴を履き直す。
宿の廊下で、杉元と鉢合わせた。
「あ……杉元さん」
「おっ、楓ちゃん。……なんだか、いつもより綺麗だな。湯あたりしてないか? 頬が赤いぞ」
杉元が心配そうに、楓の額に手を当てる。
その優しさに、楓の心臓はバックバクだ。
「は、はい……! 杉元さんと……あ、いえ、温泉、とっても気持ちよくて……」
(太ももの箱が重くて、実はお湯の中でも片足立ちで筋トレ状態だったなんて……絶対に言えない!)
そんな二人の様子を、遠くから頭にコブを作った白石が、恨めしそうに眺めていた。
「(……あの女、あんな凶器を隠し持ってて、よくあんな可愛い顔ができるな……。杉元、お前、いつか寝首をかかれるぞ……。いや、愛が重すぎて撃ち抜かれるのか……?)」
白石の独り言は、温泉の心地よい水音にかき消されていった。