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小説「聖夜の奇跡」 No.5
登場人物
・カイ
・アヤ
・天使
「私は、カイのお母さんが言ったように東京へ向かうときに交通事故にあったの。緊急搬送されたけど、その……」
世界から音が消えたような気がした。
否、本当に消えていた。
時が止まったかのように人々は動かない。
「アヤは死んでいる」
後ろから聞こえた声にカイは驚く。
止まった世界で動く、薄汚れたパーカーを着た男。
「家から最寄り駅までバスで向かってたんだけど運悪く巻き込まれてね」
「そんな…いや、でもユウに見えてたし、写真にも…!」
写っている、というカイと男の声が重なる。
「僕が起こした奇跡で一時的に生き返ってるからね。君に会いたいというアヤの願いを叶えるために」
一時的に生き返る。
そんな現実離れしたことを信じられるわけがなかった。
「まさかお前みたいなやつが神様?」
「お前みたいな、はひどくない?あぁ、そういえば自己紹介がまだだったね。僕は天使。天界に住む神の使いさ。今日はクリスマスだから人間界に遊びに来てるんだ」
「お前みたいなのが天使…?」
「ん?」
天使の額に青筋が浮かぶ。
あ、これは死ぬかもしれない。
カイは神の使いである天使を怒らせたら大変な気がした。
「ごめんね」
今にも消えそうな声が聞こえた。
「先に死んじゃって」
「……なんで俺のとこなんだ。家族に会ったほうがいいだろ」
「でも、こうやってイルミネーションをカイと見るのをずっと楽しみにしてたからさ」
少しずつアヤの姿が光に包まれ、透けていく。
別れが近づいてきているのがカイにも分かった。
「アヤ、そろそろ……」
天使の奇跡が、終わる。
カイは天使の胸ぐらを掴んで叫んでいた。
「おい天使!奇跡が起こせるなら…」
「もういいの。私はカイとイルミネーションを見れただけで幸せだから」
でも、もし小説家になれなかったら化けて出るからね。
そう笑ったアヤを見て、カイは自分の行動が酷く思えてきた。
「……俺、絶対小説家になるから。だから転生して読めよ!」
「分かった」
「約束だからな!」
うんうん、と子供を説得するように返事をするアヤ。
少しずつ姿が見えなくなっていく。
「さようなら、カイ」
No.6は2022/09/18/12:00公開予定です