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小説『聖夜の奇跡』 ver.読み切り
登場人物
1.カイ/蒼井海斗
本作の主人公。東京に住む高校二年生で文武両道。将来の夢は小説家。
2.アヤ/篠崎彩
主人公の幼馴染。東京から遠く離れた主人公たちの出身にある高校に通っている。
3.ユウ/神薙夕
主人公の友人。同じ高校に通っており、奇跡やサンタクロースを未だに信じている。
4.天使
彼がいなければ、この物語は始まらない。
聖夜に起こった奇跡。
その結末を、貴方の目で見届けろ。
奇跡。
それは常識ではおこることが考えられないような出来事のこと。
---
「お前、まさか信じてるのか?」
呆れながら男子高校生──カイは言った。
クリスマスイブというのに部活はあり、もう日が暮れ始めている。
「サンタクロースはいるし、奇跡は起きるだろ!」
あと妖怪も神様も、とカイの友人──ユウは続ける。
カイは苦笑いを浮かべた。
高校二年生にもなって信じているのは、どうなのだろうか。
「あー、バイト嫌だな……」
ユウはスマホを見てため息をつく。
それに対して、カイは小さく笑みを浮かべた。
「え、は、お前笑ったのか……?」
うるさいわ、とユウの頭を叩いてスマホをしまう。
母親の前でもそんな顔はしていない。
そう言われたことが衝撃だったが、その後に連絡相手を問い詰められてカイは逃げた。
足が早いカイにユウは追い付くことが出来ず、少しして立ち止まる。
肩で息をし、呼吸が整うまで時間が掛かった。
「……まさか彼女じゃないよね?」
時が少し経ち、完全に日が落ちて夜が始まる。
イルミネーションで有名な駅前が街が彩られた。
家族や恋人など、皆が大切な人とこの時間を過ごしている。
そんな中、一人でベンチに座る影。
気まずいとは思いながらも彼は人を待っていた。
スマホを開いては閉じる。
また開いて、ため息をつきながら閉じる。
「うーん、既読つかないな」
マフラーを巻いていてもまだ寒く、鼻の先が赤く染まっていた。
冷たい手に、温かく白い息をかける。
「カイ!」
自分の名前を呼ばれ、顔を上げる。
懐かしい声と姿に、スマホをしまって立ち上がった。
「お、お待たせ。結構待たせちゃったよね」
「大丈夫、今来たところだから。一度来たことがあるとはいえ、迎えに行ったほうがよかったか?」
「二回来たことあるよ!」
悪い悪い、とカイは笑う。
頬を膨らませて怒っていたのはアヤ。
遠く離れたカイの地元から来た、幼馴染だ。
「それにしても東京は人が多いね。カイと離れないようにしないと」
初めて東京に来たような反応を見せるアヤ。
そういえば、とカイは疑問に思った。
数日間東京にいるのに小さな荷物しかない。
駅のロッカーに入れてきたのか聞こうとしたが、手を引いて走ったアヤに聞くことは出来なかった。
やっと止まったかと思えば、イルミネーションに目を輝かせている。
カイは息を整えながらスマホを構えた。
自身やアヤの母親に写真を送る約束をしており、撮らないと後が面倒くさいのだ。
「あ、カイじゃん」
聞き覚えのある声に、思わず顔を歪める。
まるでロボットのようにカクカクとカイは振り返った。
その顔を見た瞬間に声が漏れたのは『げ』という声。
「ユウ……」
「げ、は酷すぎない?」
ここにいるとアヤが来てしまう。
帰らそうとしたが、時すでに遅し。
「えっと、カイの友達?」
「まままさかカイの彼女!?急いで写真撮ってクラスのグループに……」
「バカ、お前やめろ!」
カメラを起動するユウはアヤを盾にし、カイは立ち止まるしかなかった。
ユウを睨んでいる間に自己紹介が済み、何故か高校での話になっている。
「カイって学校ではどんな感じなんです?」
「陽キャでも陰キャでもないごく普通の人間。運動が出来るから一応モテる。あと文芸部で小説を書いてるね」
何でもかんでも話すユウのこめかみをグリグリするカイ。
イタタ、とスマホを落とさないように頑張るユウ。
「良かった。まだ小説家になる夢、諦めてないんだ」
「え、カイの将来の夢って小説家なの!?」
少し考えた後、言っていないことに気がつく。
コノヤロー、と今度はユウがやり返していた。
「あ、二人の写真撮ってあげる」
ほら寄って~、とアヤの方へと押したユウ。
突然の行動にカイは少し怒りながらもポーズを取る。
アヤはニコニコと笑っていた。
「よし、それじゃこれをクラスのグループに……」
「やめろ、本気と書いてマジで」
ユウは冗談だと言うが、カイは信用できなかった。
「カイに送っとくからアヤさんに送っといてね」
「アヤで大丈夫ですよ、ユウさん」
「それならユウって呼んで」
「よろしくね、ユウ」
カイが頭を抱えている間に二人は仲良くなっていた。
そして、何故かユウは恥ずかしいエピソードを探っている。
アヤも悪ノリし、このままだとクラスだけではなく学校全体まで伝わってしまう。
「アヤ、よかったら連絡先交換しようよ。カイの前じゃ妨害されるし」
「あ、スマホの充電ない」
「だから既読つかなかったのか」
三人のグループを作ることになり、ユウは家に帰ることになった。
それから少しして、カイの母親も待っているので駅へと向かった。
「あのさ、カイ……」
「おっと噂をすれば母さんだ」
電話に出て今から帰ることを伝えたが、母親の様子がおかしいことに気がついた。
少し間があってから伝えられた事実にカイは戸惑う。
うまく声が出せない。
とりあえず電話を切り、自分の中で少し考えた。
「アヤ」
突然名前を呼ばれたアヤは息を飲んだ。
「お前が交通事故にあって死んだって母さんが…」
「……」
「今、ここにアヤは存在してる。お前は生きてる…よな?」
カイは下を向いたまま問いかけた。
しかし、すぐに返事は帰ってこない。
「私は、カイのお母さんが言ったように東京へ向かうときに交通事故にあったの。緊急搬送されたけど、その……」
世界から音が消えたような気がした。
否、本当に消えていた。
時が止まったかのように人々は動かない。
「アヤは死んでいる」
後ろから聞こえた声にカイは驚く。
止まった世界で動く、薄汚れたパーカーを着た男。
「家から最寄り駅までバスで向かってたんだけど運悪く巻き込まれてね」
「そんな…いや、でもユウに見えてたし、写真にも…!」
写っている、というカイと男の声が重なる。
「僕が起こした奇跡で一時的に生き返ってるからね。君に会いたいというアヤの願いを叶えるために」
一時的に生き返る。
そんな現実離れしたことを信じられるわけがなかった。
「まさかお前みたいなやつが神様?」
「お前みたいな、はひどくない?あぁ、そういえば自己紹介がまだだったね。僕は天使。天界に住む神の使いさ。今日はクリスマスだから人間界に遊びに来てるんだ」
「お前みたいなのが天使…?」
「ん?」
天使の額に青筋が浮かぶ。
あ、これは死ぬかもしれない。
カイは神の使いである天使を怒らせたら大変な気がした。
「ごめんね」
今にも消えそうな声が聞こえた。
「先に死んじゃって」
「……なんで俺のとこなんだ。家族に会ったほうがいいだろ」
「でも、こうやってイルミネーションをカイと見るのをずっと楽しみにしてたからさ」
少しずつアヤの姿が光に包まれ、透けていく。
別れが近づいてきているのがカイにも分かった。
「アヤ、そろそろ……」
天使の奇跡が、終わる。
カイは天使の胸ぐらを掴んで叫んでいた。
「おい天使!奇跡が起こせるなら…」
「もういいの。私はカイとイルミネーションを見れただけで幸せだから」
でも、もし小説家になれなかったら化けて出るからね。
そう笑ったアヤを見て、カイは自分の行動が酷く思えてきた。
「……俺、絶対小説家になるから。だから転生して読めよ!」
「分かった」
「約束だからな!」
うんうん、と子供を説得するように返事をするアヤ。
少しずつ姿が見えなくなっていく。
「さようなら、カイ」
アヤは人として強かった。
だから最後まで泣くつもりはないのを、カイは知っている。
それについて何かを言おうとは思わなかった。
でもアレは、あの言葉だけは許せない。
「バカ!」
カイは声をあげる。
「さよならじゃないだろ。また会おうな、アヤ」
驚いたアヤは、少しの間顔を伏せた。
そして地面にポタポタとそれが落ちる。
「……うん!」
--- またね ---
---
会場に響き渡る、ドラムロールの音。
あと数秒もすれば新人小説家発掘コンテストで大賞を受賞した作品が発表される。
見事入賞した数人の若き小説家たちが、その時を待っていた。
ある者は息を呑み、ある者は神に願う。
そして、ある男子高校生は幼馴染と経験した奇跡を思い出している。
(きっと大丈夫。天国から応援してくれよ、|彩《アヤ》)
ドラムロールの音が、シンバルと共に止まる。
発表者の息を吸う音をマイクが拾った。
「聖夜の奇跡」
声と共にスクリーンに映し出された綺麗な表紙。
著者の氏名などが続いたが、男子高校生の耳には入ってこなかった。
何度か壇上に来るように言われ、周りに引きずられる。
会場中の視線が集まり、スポットライトが嫌というほど熱い。
「それではコメントをお願いします、蒼井海斗さん」
高校三年生の蒼井海斗。
彼こそが『聖夜の奇跡』の著者だ。
海斗は少し悩んでからコメントをした。
それを最後にコンテストは閉幕。
本人や学校へのインタビューも数週間続き、改めて凄いコンテストだと思った海斗だった。
「今回のコンテスト、全部レベル高かったのによく大賞貰えたよね」
少しずつ海斗の日常が戻ってきた、ある放課後。
ファミレスでチョコレートパフェを食べながら女子高校生が呟く。
その様子を見ながら海斗はカフェオレを飲んでいた。
「|夕《ユウ》の大好きな『奇跡』が起こったのかもな」
「……からかってる?」
いいや、と海斗は優しい笑みを浮かべた。
去年の12月24日。
クリスマスイブに経験した奇跡を小説にして、見事大賞を受賞した。
天使との約束を果たせたことを、今頃になって海斗は安堵している。
「えーっと、『まるでその奇跡を体験したような書き方』が評価されたんだっけ?」
私たち経験したからね、と夕は付け足す。
あの聖夜の奇跡小説が実際に起こった、なんて誰が信じるだろうか。
海斗と夕は二人だけの秘密として、誰にも話してこなかった。
そういえば、と海斗は口を開く。
「小説に出てくれてありがとな、夕。お前のお陰で物語が良くなった気がする」
「どーいたしまして。親友のためなら小説に出るぐらいお安いご用だよ」
私も楽しかったしね。
そう呟いた夕の視線の先には一冊の本。
白い雪が降る中、少女が振り返って笑みを浮かべている表紙だ。
隅の方に書かれているのは『聖夜の奇跡』と『蒼井海斗』、そして『神無』の文字。
「まさか表紙まで手伝ってくれるとは」
「|神薙《かんなぎ》だから|神無《かんな》。安直とは思ったけど、今回の場合は良かったかもね」
「お前もテレビから追いかけられたらいいのに」
遠慮しまーす、と夕は最後の一口を食べる。
聖夜の奇跡が書店に並ぶときに、海斗は出版社から表紙について相談を受けた。
シンプルなものか、イラストレーターに頼むか。
夕に相談したところ、無償で書いてくれるとのこと。
イラストレーター『神無』改め『神薙夕』は中高生を中心にSNSで話題の人物。
この一件がなければ、海斗は友人と知ることが無かっただろう。
「あのさ、ずっと聞こうと思ってたんだけど」
「何だ、急に改まって」
「最後のシーン、結局使わなかったよね」
本編はアヤの『またね』というセリフだけが書いてある右のページ。
そして、涙を流して消える少女の絵が左のページで終わっている。
「……個人の感想だけど、あの続きが一番感情が込められてた気がした。|カイ《お前》の心象描写が胸をギュッと締めて、涙が止まらなかった」
夕の言っていることが、分からないわけではない。
「でも、アレは使えなかった。いや、自分で考えた結果使わなかったんだ」
泣いた彩に手を伸ばすが、届かない。
もし掴めたとしてもあの奇跡は終わっていただろう。
数年後の墓参りの様子と、転生後に出会えた物語も書いてはみたが海斗は納得できなかった。
「お前にあげた原稿用紙は本物だ。まぁ、好きにしてくれて構わないから」
「オークションで幾らになると思う?」
「そんなことしないだろ、お前は」
会計を済ませて、二人は夕焼けに照らされながら歩いて家へと帰っていった。
その時にしたのは、季節外れのくだらない話。
---
聖なる夜に奇跡は起こる。
大切な幼馴染に、天使が会わせてくれた。
きっとサンタクロースや神様もいるのだろう。
初めから否定するのではなく、少しは信じてみてもいいのかもしれない。
そしたら、気まぐれで|俺《海斗》の願いを叶えてくれるような気がする。
ふと顔を上げると、電柱の上に誰かが立っていた。
でも、一瞬にして見えなくなったから気のせいだと思う。
俺は小説家になったよ、彩。
そっちに行くのは当分先のことだろうし、気長に待っていてくれ。
あ、もし天使がいたら新人大賞を取った約束は果たせたって伝言を頼む。
「伝言を頼まなくても聞いてるよ。ねぇ?」
「まぁ、私たち見えてないから……」
「電柱に降り立ったところは一瞬だけ見えてたよ」
多分だけどね、と付け足す綺麗な白色の服を着た男。
彼の発言に影のない少女は驚いた。
「長生きできるように祝福でも贈る?」
提案を即座に断られ、男は凹んだ。
しかし、少女は別のことを頼んだのだった。
その願いは、彼女だけのものではない。
「生まれ変わってもまた出会えますように、なんて『奇跡』じゃ無理だよ」
「天使を辞めた貴方なら叶えてくれるでしょ?」
勿論、と男は笑みを浮かべる。
『奇跡』を使えるのは特別な日に短時間など制限が多かった。
だが男が使えるようになった『祝福』に制限など存在しない。
世界で一番偉い『神』を縛れるものなどないのだ。
「|海斗《カイ》、|彩《アヤ》、|夕《ユウ》。君らに祝福を」
生きる。です
改めて読み返すと、文章が酷すぎますね