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〖喜劇・悲劇の貝面〗
生臭い香りが鼻につく中、貧相な劇場が目にとまる。
やけにぶくぶくと太ったセイウチが「xxxx劇場へようこそ!」と元気よく挨拶した。
「...すごい臭いんだけど?」 (光流)
たまらず光流が入らずとも愚痴を吐いた。
「そう言わないでくれよ、これでもすご~く人気な劇場なんだよ。
なんと言ってもヤングオイスターの踊り食いができるからね、腹の減ったセイウチ達にとっては良い狩り場なんだよ」
「...狩り場?劇場というよりは...」 (凪)
「ああ...趣味の悪い奴等の...そうだね、一つの娯楽かな。映画を見ながらポップコーンやジュースを飲み食いしてるのと同じさ」
「楽しめそうな気がしないね」 (光流)
光流の言葉にチャシャ猫がふんと鼻を鳴らして、先に劇場へ入っていく。
それを見送って、凪が遅れて応えた。
「...同感よ」 (凪)
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人の全身が乗りそうなほど巨大な皿に山と言っても過言ではないくらい乗せられたオイスター。
生きてはいないが、どれもどこか小ぶりで中から赤い何かが染みだしていた。
「...これ...」 (光流)
「匂いの元凶、だろうね。ここまで衛星状態が悪いとは思わなかったけれど...」
「...それで?食べれるの?」 (光流)
「どうだか。君のお腹に訊いてみなよ、このベビーオイスター食べれますか?ってね」
山盛りのオイスターの横でふっくらとした猫が嫌らしく笑う。
その笑いが他の席に座る汚ならしいセイウチが釣られ、皆が笑い出す。
「...何が可笑しいんだか...」 (凪)
「さぁ?俺らはきっと、この魚共と解り合えないだろうから知らないねぇ」
また、猫が笑いセイウチが釣られて笑う。
それが複数回続いた後、数々の席を見下ろす形の劇の幕が開いた。
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〖第一幕 ~小さなベビーオイスター~〗
あるところに、〖優しい大工〗と〖食いしん坊なセイウチ〗がいました。
優しい大工と食いしん坊なセイウチはある時、海辺を歩いていました。
その先で、とても小さな、〖小さなベビーオイスター〗を見つけました。
優しい大工は問いかけます。
大工:「やぁ、小さな小さなオイスターくん。ここで何をしているの?」
それに小さなベビーオイスターは小さくしゃっくりをあげながら答えます。
ベビーオイスター:「お母さんとはぐれちゃったの。お母さんはボクより大きくて、美味しくて、とっても優しいんだ。でもボク、このままじゃお母さんのところに帰れない!おねがい、手伝って!」
その言葉に優しい大工と食いしん坊なセイウチは「もちろん!」と答えて小さなベビーオイスターをお母さんのヤングオイスターの元へ返すお手伝いをすることにしました。
優しい大工と食いしん坊なセイウチは出始めにくねくねとした木の森へ行きました。
そして、いつも沢山の話を聞いている〖木聞〗に食いしん坊なセイウチが話しかけました。
セイウチ:「ヤぁ、木聞!こノ小さなベビーオイスターのお母さんを知らないかい?」
木聞は何も答えません。
セイウチ:「ヤぁ、木聞!こノ小さなベビーオイスターのお母さんを知らないかい?」
木聞は何も答えません。だって、木聞には口がないのですから!
代わりにワサワサと身体を揺らして、落ち葉で矢印を作りました。
落ち葉の矢印は森の奥深くへ続いています。
三人が森へ入るとゲコゲコと歌う下手くそな声が聞こえました。
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「...だいぶ、しっかりと言うのね」 (凪)
「............」 (光流)
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〖第二幕 ~爬虫類のレストラン~〗
ゲコゲコと歌うカエルたちの合唱を聞きながら、三人はトカゲのレストランへ入ります。
レストランの席にトカゲのシェフがベビーオイスターのお母さん、ヤングオイスターと共に話していました。
ベビーオイスター:「お母さん!」
ベビーオイスターがヤングオイスターの元へ駆け寄ります。そして、状況を察したのかヤングオイスターが優しい大工と食いしん坊なセイウチにお礼を言いました。
ヤングオイスター:「あら、まぁ...私の子を連れてきて下さったの?とっても優しいのね」
そう伝えて、殻をパカパカと開いて嬉しがると、ヤングオイスターは言いました。
ヤングオイスター:「せっかくですから、何かお食べにならない?」
そして、トカゲのシェフに注文をとらせました。
三人は席に座ると出てくる料理を今か今かと待ち続けました。
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第二幕が終わり、「しばらく休憩中!」と放送が流れた。
第三幕は一度お預けのようだった。
「...大した物語じゃないね。〖アリス〗、どこか歩こうか?」
腐ったような匂いのするベビーオイスターをボールのようにコロコロと転がしながらチャシャ猫が訊く。
「行くって、どこへなの?」 (凪)
「う~ん...」
考え込んだチャシャ猫に代わり、光流が提案する。
「なら、舞台裏に行こうよ」 (光流)
「舞台裏?...いいね、行こう。〖アリス〗、舞台裏はそこの扉だ。セイウチは手が短いから開いているはずだよ」
チャシャ猫がテーブルから飛び降り、やけに錆びついた扉の近くへ行く。扉には厳重なロックがかかっているように見えたが、実際にはそのロックそのものが扉に《《かかっている》》だけだった。
二人と一匹がその中へ入ろうとしていた時、会場ではヤングオイスターの踊り食いが始まろうとしていた。