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To You in a Dream
―恋なんてしたことがない。
――恋なんて、しないほうがいい。
そう…言い切れればよかったのに――
|To You in a Dream《夢の中のあなたへ》
|**When can we meet?**《いつ会えますか?》
僕は子供の頃から、度々同じ夢を見る。
それは、会った事もない、同い年ぐらいの男の子が出てくる夢――
僕は、*その人に恋をしている*。
夢の中ではいつも、幼い姿の僕と、その子が遊んでいて、すごく楽しそうに笑っていた。
この気持ちが恋だと、すぐにわかった。
『え?w和樹くん、夢の登場人物に恋してるの…?笑』
ある日、ちょっと嫌味な女の子に、そんな事を言われた。
意味がわからないとばかりに嘲笑ってきたその子の顔は、脳裏に焼き付いて、離れなくて――
「恋なんてしたことがない。」
そう、言い切れればよかったのに―
なのに…
そう言うことは出来なかった。
……言ってしまったら、あの男の子を、否定してしまうような気がして。
---
肌寒い木枯らしが、左から右へと吹き抜けていく。
意識が冷気に削られるまで、少しぼーっとし過ぎていたようだ。
……帰ろう。
重い腰を上げ、出口へと数歩踏み出した。その時だった。
「……和樹?」
背後から届いたその響きに、心臓が跳ねた。
「……え、……遊?」
振り返った先にいたのは、夢の中で何度も見た面影。
記憶より少しだけ大人びていて、けれど纏う空気はあの頃と全く同じ
――僕の初恋の相手、遊だった。
「っ、遊……!」
なぜここにいるのか。どうして今なのか。
溢れ出す問いを、喉の奥がせき止める。
「和樹? ほんとに、和樹なの……?」
震える声で名を呼ばれ、視界が滲んだ。
「……会いたかった……」
「……俺も、会いたかったよ」
言葉を交わすほど、胸の奥に溜まっていた熱がせり上がってくる。理屈なんてどうでもよくなった。
「……っ!……遊……、__*すき*__」
抑えきれない想いが、思考を追い越してこぼれ落ちた。
---
「……和樹? どうしたの……? 急に黙り込んで……」
遊が心配そうに僕の顔を覗き込んできた。
記憶のままの優しい声。夢で何度も見つめ返したはずの瞳。
そのすべてが、今の僕には眩しすぎて、逆に胸を締めつける。
「っ……なんでもない!」
逃げるように、咄嗟に視線を床へと落とした。
すぐ傍に感じる遊の体温。
それだけで、壊れそうなほど心臓がうるさく跳ねる。
ずっと、夢の中でだけ恋をしていた。
けれど、目の前に立つ現実の彼は、記憶の断片よりもずっと大人びて、洗練されていて……。
(……僕のことなんて、きっと覚えてない。ただの、夢の中の遊び相手だったんだ)
残酷な予感が胸を抉る。
自分だけが取り残されているような感覚に、奥歯を噛み締めた。
「……っ……どうせ、僕の……片思いなんだよ……」
絞り出した声は、自分でも驚くほど震えていた。
一度口にしてしまえば、もう止められなかった。
視界はみるみるうちに歪み、熱い雫が膝の上へ、次から次へと零れ落ちる。
「遊は、僕のことなんて……ただの夢、だったのに。……僕は、ずっと、ずっと、好きだったんだから……っ」
鼻をすすり、濡れた袖で拭っても、涙は止まることを知らない。
嫌われたくない。
けれど、この胸を焦がす痛みに気づいてほしくて、僕は子供のように泣きじゃくった。
その時、震える肩を大きな掌がそっと包み込んだ。
「……和樹」
耳元に届いた声は、さっきよりも低く、ひりつくような熱を帯びている。
遊は僕を壊れ物でも扱うように、慎重に、けれど逃がさないという意志を込めて、力強く引き寄せた。
視界が遊のコートの胸元で塞がれる。鼻先を掠めたのは、夢の中で何度も嗅いだ、あの懐かしい香り。
「和樹……泣かないで」
耳朶を震わせる遊の声も、どこか微かに震えていた。
彼は僕の背中に回した手にぐっと力を込めると、僕の肩に額を預け、祈るように言葉を紡ぐ。
「大丈夫……。俺も、同じだから……っ」
その言葉と同時に、肩の生地がじわりと熱を帯びた。
驚いて顔を上げると、そこには僕と同じように、大粒の涙を零す遊の瞳があった。
「俺だって、ずっと……夢の中の和樹に恋してた。目が覚めるたびに、君がどこにもいないのが怖くて、寂しくて……。やっと、やっと会えたんだよ」
夢の中の幼い二人ではなく、成長した「今の二人」として、初めて分かち合う確かな体温。
木枯らしが吹き抜ける冬の公園で、寄り添う二人の周りだけが、春のような柔らかな光に包まれていくようだった。
「……本当、に……?」
「うん。……大好きだよ、和樹」
---
ひとしきり泣きじゃくり、ようやく呼吸を整えた僕たちは、並んでベンチに腰を下ろした。
赤く腫れた目を見合わせると、どちらからともなく、ふっと子供のように吹き出してしまう。
「……変なの。夢の中じゃあんなに小さかったのに、今はこんなに大きくなって」
僕が照れ隠しにそう零すと、遊は僕の手をそっと包み込むように握りしめた。
その掌は、驚くほど熱い。指先から伝わる鼓動が、これが夢などではないことを、一拍ごとに刻みつけてくる。
「俺も驚いたよ。でも、泣き虫なところはあの頃のままだね」
「っ、それは……遊だって泣いてたじゃないか」
軽口を叩き合いながらも、繋いだ手だけは、どちらも決して離そうとしなかった。
遊の話によれば、彼もまた僕と同じように、何度も同じ夢を見ていたという。
現実のどこかにいるはずの僕を探して、あの日遊んだ公園の面影を、今日までずっと追い求めていたのだと。
「ねえ、和樹。これからは、目が覚めても隣にいてくれる?」
遊の真っ直ぐな瞳が僕を射抜く。
もう、朝が来るのが怖くない。消えてしまう幻を追いかけて、一人で泣く夜も終わったんだ。
「……うん。僕も、ずっと隣にいたい」
街灯がぽつりぽつりと灯り始め、冬の帳がゆっくりと降りてくる。
けれど、繋いだ手から伝わる確かな体温が、凍てつく空気を溶かすように僕の心を温めていった。
「恋なんて、しないほうがいい」
いつかどこかで聞いた、誰かの言葉。
今の僕なら、胸を張って、その正反対を言い切れる。
--- ――恋をして、本当によかった。 ---
夢の中で待ち続けた果てしない時間は、今日という最高な「現実」に辿り着くための、長い長い約束の欠片だったんだ。
――END――
華恋_karen
|To You in a Dream《夢の中の遊へ》
|Thanks for all the memories.《たくさんの思い出をありがとう》
|To you in reality《現実の遊へ》
|Let's make many more memories together.《これからも一緒にたくさんの思い出を作っていこうね》
**|From kazuki《和樹より》**