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(上)三
それ以来学校を休むようになった。突然の娘の変化に、両親は戸惑うばかりだった。
「突然どうしちゃったのかしら。玲くんは元気に登校しているというのに」
何も言おうとしない娘に、母はそうやってため息を吐いた。
ピロリン、とスマホが鳴ったのは、休み始めてから数日が経ったときだった。
休んでいる間に、終業式も終わっている。
『元気にしてる? 今度、夏祭りあるんだって。一緒に行こうよ』
玲からだった。本当に何も無かったかのような、そんなノリだった。
(———本気、で、言っているの?)
信じられない。
あれだけのことをされたのに、状況から私以外に犯人は考えられないのに、それでも私を信じているのだろうか。
メッセージの入力欄をタップした。スマホの画面に、キーボードが現れる。
『分かった』『行きたくない』『了解』『他の人と行って』……
文字を打っては消して、打っては消して、ようやく、三文字だけ入力して送った。
『いいよ』
どうしても断れなかった。
大丈夫。そう言い聞かせた。玲とはあれ以来ずっと、まともな会話をしていない。私が犯人だと確信しているクラスメイトたちと居れば、自然と私がやったと考えるようになるだろう。
私に、人生のほとんどを一緒に過ごした幼馴染に裏切られたと、絶望してくれるだろう。
———あの無邪気な笑顔を歪めて。顔も見たくない、と。
私はそれを、ずっとずっと待ち望んでいる。
「———玲くんと夏祭りに行く? あら、いいじゃないの。いってらっしゃい」
どうせ白紙になるだろうと思いつつ、母にそのことを伝えると、予想通りあっさりと許可が出た。
「それにしても、玲くんは良い子ねぇ、不登校の友達のことも気にかけるだなんて。はるかには釣り合わないわ」
母に背を向けたとき、背後からそんな独り言が聞こえてきた。一瞬、硬直する。
おっとりとした口調だった。きっと、悪気など少しも無いのだろう。
夏祭り当日。
『五時にいつものとこ集合な』
昼に届いたそのメッセージを見て、私はただ乾いた笑みを浮かべていた。