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第五話:天帝の勅命
天界を覆う緊張感は、もはや隠しようがなかった。下界からの報告は止むことなく続き、死を司るグライアの神殿にも、本来ならば彼女の管轄下に収まるはずの膨大な数の魂が流入してこないという異常事態が、明確なデータとして示され始めていた。
「ふん……やはり、あの馬鹿の仕業ね」
グライアは自室で一人、冷たい笑みを浮かべた。彼女はすぐに原因がゲネシスだと察知していたが、確証はなかった。しかし、この異常な魂の流れの停滞は、ゲネシスの「創造」の力が過剰に働いていることを示していた。
もはや、静観しているわけにはいかない。これは彼女の「仕事」に対する明確な妨害であり、世界の「秩序」を乱す許しがたい行為だった。彼女は立ち上がり、天帝の宮殿へと向かう準備を始めた。
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その頃、ゼフィールはすでに宮殿に到着していた。彼は天帝の側近たちに、自らの分析データを見せていた。
「……原因は、特定の個体への『寿命』の過剰な供給による、生命循環の局所的停止が積み重なった結果です」
ゼフィールの冷静で的確な分析は、混乱していた神官たちを静まらせるのに十分だった。天帝は黙ってデータを見つめ、深く頷いた。
「つまり、誰かが意図的に、あるいは無意識に、世界の『理』に反する行為を続けているということか」
天帝の言葉に、神官たちは息をのむ。それは神に対する最も重い罪を意味していた。
そこに、グライアも到着する。彼女は冷徹な面持ちで、天帝に頭を垂れた。
「冥府之神グライア、罷り越しました。妾の管轄領域においても、甚大な異常を来しています」
天帝は、秩序を司る柱神たちの到着に、事態が最終局面に入ったことを悟った。
「四柱の神よ、集え。世界の『理』を回復せよ。禁忌を犯した者がいるなら、その罪を裁き、罰せよ」
天帝からの厳かな勅命が下される。それは、四神に対する絶対的な命令だった。
ゲネシス、グライア、ゼフィール、そしてシルフィア。下界の平和な冬の風景とは裏腹に、天界では彼ら四神の運命を、そして世界の未来を決定づける激動の歯車が、音を立てて回り始めたのだった。
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