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葵
この短時間のうちに、噂は恐ろしいものだということを再認識させられた。
「ねえっ、源さんと会ってたんだって?」
「え?」
教室に入って開口1番。密会紛いのことは何らしていないし、ただばったり会っただけだ。だってそうじゃないか。先輩と図書館で会ったって、こんなに問い詰められるムードにはならない。
「…なんで?」
迂闊に答えちゃいけない。まず質問の意図を。
「なんで会ってたの?聞きたい」
「偶々会っただけだよ。図書館で」
廊下と教室の境界線からいっこうに出られない。教室に入れない。
目の前にいる彼女は、|九条友子《くじょうともこ》だった。関わりは一切なく、「あたしの苗字、古臭いんだよねぇ」という愚痴を漏らしていたのを小耳に挟んだだけだった。確かにトモコは古い。でもお、今トモコが古いのと問い詰められているのは違う。トモコが古かろうと新しかろうと、関係ない。
「なんでって」
友子は学級委員とか、とにかく目立ちたいタイプだ。色んなことにどんどん意見を言っていく。サバサバしているという女子を《《演じている》》とわたしは睨む。あたし、おしゃれに興味ないんだよね。恋愛とか、何やってんの?って感じ。そう言って、彼女は人気を博そうとしている。ある意味バレバレで、馬鹿だ。彼女が《《演じながら》》思っている恋愛と、ある意味似ている。
「会っただけ。2人とも本好きだし、ゴールデンウィークだったから、図書館行ったら、ばったり会った。それだけだよ」
「絶対会おうって言ったんでしょ!それしかねぇよ!」
語尾が強い。演じているから。そういうキャラだから。そんなので済まされる。
〝絶対答え見たんだろ!それしかねぇよ!〟
違うよ、答えなんて見てないよ。
あの弁明する過去のわたしと、重なる。また反論できずに終わる。そのままずるずると引きずって、愚痴にして、心の中でぶわっと膨らませて。
「会ったって言ってる。なんでそんなに言うの?」
「だって…源さんがいないことに関与しているんでしょ?」
ああ、また?
流行り廃りは、都合がよくなったらすぐに掘り返される。ずっとファンでした。ずっと注目してました。そんな感じに表面上している奴らが集まる。そんな奴らの1人が彼女だ。
「関与してないよ。だいたい、源さんは2年生。わたしは1年生。源さんが1年生のときはどうだったの?何?それに、出会ってからいなくなったわけじゃないでしょ?わたしが関与しているっていう証拠は有るの?それに、他にも図書室で源さんと会っている人はいるよ?誰かは迷惑がかかるから言わないけど。…はぁ、ねえ、もういい?」
勢いでまくし立て、そのまま着席する。丁度ホームルームが始まる。
何馬鹿なことやってんだよ、本当。