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黒く淀んだ灰色の中で。【第二話】
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「あー...めっちゃ綺麗...。」
想像してたのは金網に囲まれた狭い屋上。
でも実際は、そんな金網なんて無かった。
良かった。これで簡単に――。
「...。」
…誰だろうか。とても綺麗な......。
「...綺麗..?」
「あれ?人来るんだ、こんな場所にも。」
透き通った、でも芯のある声がそう呟いた。
私が見た彼女の顔は、黒く淀んではいなかった。
「ど、どうも...。」
“人見知りな私”は、小さくそう答えた。
「ど~も~!」
にこやかにそう返した。
「何しに来たの?」
「え、えと....。」
突然そう言われた私は、びっくりして声が出ない。
彼女は、下の階で起きた事を知らないのだろうか。
なら、話さないほうが身のためだろう。
「ちょっと、涼みに来た...来ました....。」
「あはっ、同じじゃん!」
彼女の笑いは、私が言い直したことに対してなのか、はたまたただの愛想笑いか。
私には知り得ないことだ。そう思うことにして、心の中から消去した。
「ね、君の名前は?」
「ぇ、えと...。」
いつもならすっと出てくるはずの「自分の名前」が、どうにも思い出せない。
おかしい、他人の名前は確かに覚えられない。だが、自分の名前を?
そう簡単に忘れてしまったら、生活に支障きたしまくりだ。
…いや、今はこの場を凌ぐことが最優先。
「私は...|四葉《よつは》。」
「四葉ちゃんか!可愛いじゃん!」
…意味なんて知らない、んだろうな。