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夜に焦がれる
死ネタです。
私には、秘密の友達がいる。
6月11日午後10時。窓全開で空を眺める。
恐ろしいくらい大きな満月だ。雲一つなく、きらきらと星たちが輝いている。
「お待たせ」
目の前に顔がひょっこり現れる。
わっ、と声を上げそうになり慌てて口をふさぐ。見えないふりをするのだ。
「無視してるの?」
「っていうのは嘘で、」
「行こ!ね、夜のお散歩。」
私が声を掛けると、嬉しそうに頷いた。
彼女は、とても可愛い。
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宙に浮いているほうきに足をかける。
またがるのではなく乗り回すのだ。
「「せーの」」
二人で声を合わせ両足を乗せる。
多少ふらついたあと、ほうきはゆっくりと前進し始めた。
今日はいつもより風が強い。
だからか、彼女の短くて切りっぱなしの髪が私の頬をくすぐる。
「ふふ、ごめん」
彼女は少し苦笑し、また前を見た。
しっかり掴まってて、その声は風に流され遠く遠く飛んでいった。
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私の住んでいる街を一周した頃には、すでに1時間が過ぎていた。
「時間って、あっという間だよね」
ふと口に出してみると、彼女がくすりと笑った。
「私と過ごすの、楽しい?」
どうせ策士な彼女のことだ。
私のことをからかっているんだろう。
「どうかな」
彼女の服を掴んでいる手を緩めた。
そして左手を離す。
「今日も、楽しかった」
そう告げると、右手を離した。
どんどん体が落ちていく。
彼女は驚いたように口をパクパクしている。そして私に手を伸ばす。
私は安心させるように笑顔を浮かべた。
うまく笑えてるかはわからない。だけど彼女が脱力したように笑ったのが見えた。
宙を舞う私の体。
満月がどんどん遠のいていく。
目を細めて、目を閉じて。睡魔に身を任せた頃には、私も空の星となっていた。
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「気づかなくて、ごめんね。」